表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/183

視察開始

「まさか、アブニーレル卿が来て下さるとは感激です」

「今は気にせず、昔通りに普通で良い、普通で。僕に気を使ってどうする。久しいなカイル。いや、いまやフロンデル卿、かな?」


「それこそ普通でいいよ、その。……オリファ、さん」

「お互い大人になったものだよな。……ふ、はっはっは」



 ターニャの事務所での打ち合わせから数週間。

 二騎の騎馬は、当初の予定通りシュレンドタウゼン法国へと入った。

 白に赤、宮廷騎士の制服に緋色のマントを羽織ったリンクのお供は、予定通りにオリファだけ。


 立場として、MRM議長として法国に入ったリンクではあるが、彼が帝国の皇子であることは変わらない。

 結局、一般の国では王宮にあたる大寺院での挨拶と食事会。これで既に一日以上が潰れている。

 まだ、本来の目的である保護区の事務所。そこへは足を伸ばせては居なかった。



 現在も、宰相にあたる大僧正と話をしており、オリファはその間、控えの間にて法国の関係者と打ち合わせ。そう言う予定であった。

 そして、打ち合わせのために資料を抱えて控えの間にやってきた聖騎士。その顔にオリファは見覚えがあった。



「法国へと渡ったのだと話は聞いたが、まさか聖騎士になっていようとはな」 

 シュレンドタウゼン法国は帝国本国のすぐ隣、と言う立地である。

 法王は皇族以外では唯一、シュナイダー皇帝のみことのりに対して直接意見が出来る立場にある。


 国民は約七,〇〇〇と大きな国ではないが、国民全てが何らかの形で帝国の国教に関わる。住人全員が神職、と言う特殊な国である。

 当然に法王の衛兵たる騎士達も聖騎士団を名乗り、剣技だけでなく当然に法を収めた神職でもある。

 その他、軍にあたる僧兵隊も自国で組織している。


 あくまで形の上。ではあるが小さいながら、自立した国家として成立しているのだ。


 宰相の部屋の前でオリファがあったのは、宮廷に上がる直前まで隣の家の友人として、毎晩遅くまで外を二人で走り回っていたカイル・フロンデルであった。



「聖騎士と言うからには、神事にあっても修行が必要なのだろう?」

「まぁ、それなりに今だって大変なんだけれど。――でも正直に言えば、こうして聖騎士となった姿を、オリファに是非見てもらいたかったんだ」


 法王の近衛たる聖騎士団の所属となれば、帝国王朝全土から尊敬を集める存在。

 ただの騎士ではない。

 その、栄えある聖騎士の制服に袖を通す友人の姿を見るのは、オリファとしても誇らしい思いであった。


「オリファには、ずっと心配をかけていたから、だから。せっかく機会を貰ったからキチンとやろう。いつか法王様のお付きで本国を訪ねるとき、帝国の誇り、親衛騎士団のオリファに挨拶に行こう、そう決めていたんだ」


 聖騎士と共に国民の羨望を集める騎士団が、皇族に直接仕える親衛騎士である。

 期せずしてお互い平民から、国民の羨望を集める職場へと上り詰めた幼馴染みの二人であった。


「ははは……。不出来な弟だと思って居たが、いつの間にかせんを超された。優秀であったのに、それを見抜けなかったのだな」

 カイルの立ち位置は聖騎士団第二隊副将。

 聖騎士団の序列では四位か五位に相当する。年齢を考えればかなり高い地位にあると言える。

 


「やめてくれ、本当に。――あぁ、オリファ。その……。仕事の話をしても?」

「その為にこうして顔を合わせたのだから当然だな。――つもる話はこの件が落ち着いたあとで、一緒に食事でもしながら。と言うことにしようか」


「法国のワインはどれも旨いんだ、そのときは俺がごちそうするよ。――で、仕事なんだけれど」

「あぁ、聞こう」




「我々の調査でも、今のところ金が何処に消えているのか。全くわからないんだ」

「……消えている。と言う事実はあるのだな?」


「考えたくはないんだけれど、ほぼ間違い無く法国会計院の人間が絡んでいると思う。書類上は全く問題がなく見えるからね。本国への報告書などは、会計を専門にする官吏の目でも。不備を見つけられなかったから送ったわけで」


 法国と帝国本国の担当者、そのチェックを通過した報告書。

 矛盾点に気が付いたのが、最終チェックを行いサインをするリンクだったのである。

 自身が直接、査察に行く。と言い出す理由のひとつだ。


「殿下がおかしい、サインは出来ない。と言い始めてね。……なにがおかしいのか当初、誰も理解が出来なくて往生した」

 オリファもマクサスも。官吏としても優秀ではあるのだが、さすがに会計関連の報告書ともなれば、数字の読み方すら知らないものも多い。


「こちらでも矛盾点を確認するまで三日かかったよ。本当にすごい方だね、殿下は」

「あぁ、本来は僕如きがお側にいてはいけないのではないか、と思うときがある」

 そしてそうでありながら、妹の才能や、ターニャの人間性をさして、自分にはまだ足りないものがあるのだ。と、真顔で嘆くのが彼の主人である。


「オリファでないと無理さ。とにかく」

「あぁ、資金が何処に消えているのか。だな。……保護区の運営はどうなっているんだ?」

 資金が少なくなっている以上は、運営に支障をきたすのではないか? と言う疑問は当たり前の話である。

「消えているのが保護区の維持費では。目立つ上に維持管理に問題が発生するのでは?」


「専門家からは、観察出来るモンスターの種類と数が少なくなっているのではないか。と言う話が上がっているけど、それだけだね」

「……あくまで具体的な証拠はないのか。モンスターの観察がしづらくなっている、と思われる理由は?」


「何らかの手段で、保護区の何処かに閉じ込めているようなんだけれど。これも良くわからないので、専門家の調査待ちになっているんだ」


「モンスター避けの封印で動きを規制し、経費を圧縮している。か……。きっと、リジェクタか魔道士が関与している、などと言う簡単な話ではないのだろうな?」

 リジェクタ以外でも魔道士ならば、行動を規制することは可能だ。

 とは、事前に数回、ターニャの元に相談に行ったおりにオリファは聞いている。


「調査の結果、リジェクタの関与は否定されている。魔道士の線についてはまだ報告が上がってきていない。……それともう一つ、MRMから査察が来るきっかけなんだけれど」


「ユニコーンの角、だな?」

 高額な規制品。市場での価値は既にオリファは知っている。

「あぁ、それともう一つ。先日、ようやく報告出来る形になったんだけれど」


「……不死鳥(フェネクス・)の香(インセンス)、か?」

 こちらも先日、聞いたばかりの話ではある。

「なんで知ってるんだ!?」

「調査に来ると言うからには、こちらもわかる範囲は調べるさ。頼りになる専門家もいる。……ただ」


「言いたい事はわかるけど、法国にはリジェクタは二軒しかない。調べた限りこちらにも関与はしていない。学者も然りだったよ」

「珍しいモンスターを抱えた保護区がある、専門家は忙しいだろうな」


 法国のリジェクタは二軒とも、モンスターの生態調査や怪我をした保護対象モンスターの捕獲、保護が主な仕事で、手間がかかる仕事ばかりなのだ。

 これもオリファが事前にリサーチをした通りではある。


「……外の人間の方が詳しいというのは、どう言うことだよ」

 ――お前だって専門家ではあるまいよ。それに殿下は一応、宮廷きってのモンスター通だ。そう言うとオリファは居住まいを正す。


「とにかく、何処にどうやってフェニックスを捕まえてるのか。リジェクタの間でもそんなことをすると業界追放どころか、直接命に危険があると聞いたが」

「それは俺も聞いたよ。禁忌なんて生やさしいものでは無いそうだね。……但し儲かるんだそうだ。一度“殺せば”それで五〇〇万を超える額になるらしい」


「調べた限り原価的なものが良くわからなかったが、そんなにも……。末端価格では一,五〇〇万を優に超えるな。――いったい、何処で処置をしている」


 普段から意味も無く死なないように、健康管理をしながら。

 状況に応じて、燃えさかる炎の鳥に水を浴びせる。

 もの凄い音と、そしてフェニックスの断末魔の叫び。蒸気、ニオイ。

 人間が細かく目を配りながら、全てを隠し通せる場所。

 それは果たして何処であるのか。


「それがわかれば苦労はないよ。間もなく聖騎士団全団に動員がかかる。あまりに調べることが多すぎるし、動く金額が大きすぎる。俺一人では無理だ。それに……」



 そこまでカイルが言ったところで、大僧正の部屋のドアが開き、二人はドアへと直立不動の姿勢を取る。

 ドアからは部屋の主と、そして肩にパムリィを乗せたリンクが出てきた。



「わざわざ殿下のみならず、女王にまでお出ましを願うことになるとは。誠、我らの信心の足りぬところ、申し訳無い限りです」


「我のことなぞどうでも良い、いまや人間に飼われる身ぞ。偶々、知りおうたリンケイディアに、他国の人間などについて知りたい、と言う我が儘を聞いてもらっただけなる故、気にすることはない」


「お二方とも。拙僧に出来ることあらば、なんでもお申し付けを願いたい」


「この先も何かとお願いすることになりましょう。――そこな聖騎士殿は、我が侍従たるアブニーレルの昔馴染みであると聞いた。私はまだこの大寺院にて用事がある。女王パムリィも私に同席すると言って下さっている。……夕食は二人で取ると良い」


「しかし殿下……!」

「お役目以外にも大事なことはあろう。少なくても大寺院内でお前の護衛は要らんよ」

「リンケイデイアの動向は我が見ておくぞ」


「ははは……。では今宵の晩餐会、私のパートナーはレディ・パムリィにお願いしようか。――旧友が法国の聖騎士殿だったのだ、積もる話もあろう。……色々と教えて貰うことも、な」


 ――すっ。リンクの目がもの言いたげに、オリファを見据える。

「……その後。戻ったら私の部屋に来い。悪いが少しだけ、仕事の話をしよう。良いな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ