(経済的に)ありがたいモンスター
――あぁ、おほん。ターニャは咳払いをして仕切り直す。
「皇子は保護区の事務所なんすよね? そんであたしらが保護区の中で密猟の内定、と」
「そうなりますが。……ターニャ殿?」
「うん。なら、オリファさん。こっからはちょっとお勉強としましょ。保護区の中になにが居るか。――聖獣、って聞いてなにを思い出します?」
話をふられたオリファは、額に手を当て何かを思い出すようにする。
「私は寡聞にして、事前に勉強したユニコーンしか思い出しませんが」
「うん、アレの角は裏では30万越えで取引されるんだよね」
「……本当ですか? そんなにも高い値段で!」
それならば密猟と予算の横流しも頷ける。そして価値のわかる専門家であるリンク、彼が視察に入るのも適当な判断だ。
と、その部分はターニャの一言で納得したオリファである。
「あ、お前らも良いぞ? 聖獣で思い出すヤツだ。なんかあるか?」
ルカの頭の上で、一緒に資料を眺めていたパムリィが浮き上がる。
「ふむ。ケルピィにユニコーン、と来れば馬繋がりで天馬、ペガサスはどうか?」
「居るぞ。翼1枚で10万。二枚あるから両方で20万だ。ちなみにお前の羽も一枚で二五〇くらいの値が付くらしいぞ? 毟って売るか?」
「ほ、欲しいものが出来たら考えよう。……だが切るのだって痛い,その上治るまで飛べんでは無いか」
「……治るんだ。取り放題だな」
「やめんか。冗談でもゾッとせんわ!」
「ではターニャ、キリンはどうですか? オオカミの頭と爪、シカの胴体と蹄、ワシの翼に牛の角と尾を持つモンスター。いかにも、な姿ではありますわね」
資料を眺めて居たルカが頭を上げる。
「一匹丸々なら死体でも百五十万以上の値段が付く。去年摘発された案件から行くと、一番の高値は三百五十万だったらしい。生きてるなら三百万からスタートだそうだ」
ルカは、資料を後ろのパリィに渡してターニャを見る。
「保護区に居るのは良いですが、その値段は……。剥製にでもするんですの?」
既に、普通の労働者の年収などは遙かに超えている。
「うんにゃ。他もそうだが薬とか、あとは普通に肉を食ったり儀式に使ったり、その他装飾品を作ったりする。だから使える部位が多いほど値段が高くなるのさ」
「値段は、余すところなく使えるから。と言うことですのね」
「ターニャ、アルミラージは居ますか? 角のあるウサギ。個人的には是非見てみたく思います。私はウサギ、大好きなんです!」
今度はソファの後ろからエル。
「良く知ってるな。いっぱい居るとは思うが結構凶暴だぞ、アレ。角が一本五,六千ってトコかな。デカいヤツなら、角もデカいから二万くらい。ってのもあるかな」
「デカい、ヤツって。あのぉターニャ? ウサギ、なんですよね?」
「まぁ、基本的にはな。通常は50cmにもならんはずだが、ごくまれにメーター越えのヤツも居るんだよ。こうなりゃ喰いでもあるから、角だけでなく肉も売れる」
「……た、食べてしまうんですか」
ソファの後ろからルカに資料を返しつつ、パリィも手を上げる。
「はいはい! ターニャ、デカいカメ。ザラタン、だっけ? こないだ聞いたヤツ。これに書いてなかったけど、居る? 一〇m超えるんだよね? すんごく見たい、いや触りたい! 背中に乗れるって、島みたいって言ったよね。これは是非乗りたいっ!!」
「パリィ、なんでカメでそこまでテンションがあがんだよ……。2匹居たはずだな。一匹はお望み通りに甲羅が一〇m越えで、機嫌が良いなら乗せてくれるそうだ。これは甲羅は手のひらサイズで1万からだな」
「ターニャ、ちょっとぉ! カメの甲羅なんかどうすんの!?」
「あたしに言うなよ……。やっぱり薬だな。あとは呪いやらの材料とか」
「生きてるヤツから削るなんて、どうかしてるよ!」
「死んでたら肉も取られる。実はこれもキロあたり、結構な良い値段付くんだよ」
「マジかぁ……。怖いなぁ、人間」
「お前も人間だろうに」
「こうしてあげると結構な種類が居るものですわね」
「保護対象になってるのはユニコーン、ペガサスくらいなもんだけどな」
「ターニャ殿、他にも保護区には高値で取引されるような種類が?」
何某か、メモを取りながら話を聞いていたオリファが顔を上げる。
「うん、他にも居るよ。例えば今、鳥系が出なかったけど。鳳凰なんかもそうっすね。――ルカ?」
ターニャに言われて、資料のファイルをめくるルカ。
「ふむ。……これですか? ――ニワトリの頭、足はツルで尾はクジャク。身体は赤く、極彩色の羽を持つ。……とても美しく可憐な姿である。とここには書いてありますが、この文章ではもう一つ、ピンときませんわね」
その文章からは、どうしても美しい姿を想像出来なかったルカである。
「実物を見れば考えが変わるさ。汚れていない羽を一枚拾うと日当が出る、と言われるくらいなんだぜ? その他、鳥っぽいヤツならガルーダとかも居るな」
そのルカの後ろで、エルが小さく手を上げる。
「ターニャ、聖獣と言えば。元の私の家の家紋がドラゴン、リントブルムでしたが」
――そうそう、聖獣と言えばドラゴンだよね。
――そうでしょう?
メイド服二人が、顔を見合わせうんうんと頷く。
「確かにドラゴンは定番だよな。でも逆にリントブルムくらいしか。……あぁ、湖にリヴァイアサンが居るって聞いたな」
「他にもドラゴンが居るんですか……!」
「で、リントブルムだったな。――背中に蝙蝠のような羽を持つ、デカいトカゲのようないかにもなドラゴンだ。牙が一本10万くらいだったかねぇ」
「やはり換金されるのですか。人間は恐ろしいですね……」
――ウチのメイドは二人共、人間じゃねぇのかよ。ターニャはため息を吐きながら依頼書の紙の束を開く。
「だから国民全員が聖職者である法国に保護区がある。全部知性のあるモンスターだから、密猟されないように。と言うことなんだな」
依頼書のページをめくりながらターニャは、オリファに話を振る。
「なるほど。若旦那を視察に回す、と言う理由は厳然としてあるのですね」
「ただ、マフィア絡みなのは確定だしさぁ。姉御んちなら警護の……、ん? なんだ、これ」
「……? ターニャ殿、どうしました」
「調査対象になってるものが、これ。……大問題だ、オリファさん」
そう言いながら、依頼書のページを開いたまま応接テーブルに乗せる。
「ほら、ここ。高額で取引される、特種な灰。としか書いてないけどさ」
「ふむ、……確かにそうありますが」
「これは不死鳥の事で間違い無い。この件はとてつもなくヤバい」




