妹
わたしには、優しいお兄ちゃんが居る。
しかしその人とは、血の繋がりはない。
ただの、近所の優しいお兄ちゃん。
昔から優しい、兄のような幼馴染みだ。
そしてわたしは、密かにその人に想いを寄せている。
この恋、絶対に成功させたい。
だから必死こいてお兄ちゃんの好きな料理を練習したり、部活の応援に行ったり、お弁当を作ってみたり。
色んなことに挑戦して、自分を磨いた。
絶対に振り向いてもらうんだ。
ところが最近、大きな悩みがある。
「お前と居ると、本当に妹ができたみたいだ」
お兄ちゃんは、わたしのことを妹のように思っている。
それを、なんとか変えなくてはならない。
ずっと妹のように思われているなんて、嫌だ。
化粧をしてみたり、少し背伸びして、大人っぽい服を着てみたり。
だけどお兄ちゃんは、「お前には、似合わないな」と言って笑い飛ばすだけ。
悔しい……そう意地になって、わたしは自分磨きにいっそう力を入れた。
日曜日。お兄ちゃんの部活の試合。
張り切ってお弁当も作って、化粧もして、服もお洒落にして、わたしは応援に走った。
サッカー部のエースとして活躍するお兄ちゃんは、やっぱり誰よりも輝いて見える。
休憩時間、「お疲れ様!」といつもより大人し目に、おしとやかに声をかけてみる。
だけどお兄ちゃんはいつも通り、いつもの私――妹に話しかけるような態度だ。
周りのチームメイト達は可愛い可愛いと言ってくれるけど、お兄ちゃんは「幼馴染みで、妹みたいで可愛いんだ」としか言わない。
妹……なんかじゃない。
拳を握ると、奥から綺麗なお姉さんが現れた。
物腰が柔らかくて優しい笑みを浮かべる、大人っぽいお姉さんだ。
「先輩」
他の人達がマネージャーと呼ぶ中、お兄ちゃんだけはそう言った。
なんか、嫌だった。
お兄ちゃんは、まるでわたしがここに居るということを忘れているように、お姉さんと談笑し始めた。
この黒い感情、知ってる。嫉妬だ。
わたしの方が、お兄ちゃんのこと知ってる。
わたしの方が、ずっと長い時間お兄ちゃんと過ごしてきた。
なのに、なのに。
お姉さんが朗らかに笑うと、お兄ちゃんの頬が赤くなる。
先輩なお姉さんと、妹なわたし。
まったく真逆だ。
「もう、妹として見るのはやめて!」
ある時、とうとう耐え切れなくなったわたしは、お兄ちゃんに想いを打ち明けた。
わたしは、お兄ちゃんのことは、もうお兄ちゃんとして見てない。見れない。
だからお兄ちゃんも、わたしのことは、妹として見ないで欲しい。見て欲しくない。
「ごめん……妹以外には、見れない、よ」
お兄ちゃんは苦しそうに、そう言った。
それからは、お兄ちゃんはわたしと距離を置くようになった。
顔が合えば、優しく微笑んではくれるけど。
すぐ気まずそうに顔を逸らして、離れて行ってしまう。
勉強を教えてもらいに行ったり、デートのつもりだった、散歩やお出かけも。
今では「ごめん」と、たった一言でなくなってしまう。
もう、妹ですらなくなってしまったのだ。
(2015.03.09)




