いつか還る場所
世界中に轟いた魔王の訃報(ふほう)。
世界中が歓喜したその日、男は立ち上がった。
腰には剣を佩き、首元には愛しい女性からもらった青いストールを巻き。
「わたしも、行くから」
ストールの送り主が、その背中へ静かに問い掛ける。
男は僅かながらに振り返ると、どこか悲しい笑顔を向けた。
「必ずかえって来るから、お前はここで、俺のかえる場所になっていてくれ」
「でも……」
言葉を遮り、男は背中を向けると女を振り切るように歩き出した。
そうして向かった先は、死んだはずの魔王の巣窟。
躊躇(ちゅうちょ)なく奥へ入って行くと、機嫌の良い魔王が踏ん反り返っている。
「やはり来たな。我が宿敵よ」
「一度世界中を安堵させて、また恐怖のどん底へ陥れるという魂胆だな」
「フフン、さすがに貴様だけは侮れんようだ。だがそれも今宵でお仕舞いだ」
「お前の好きにはさせない。ここで終わりにさせてもらう」
魔王は不敵な笑みを浮かべて大鎌を。
男は図太い笑みを浮かべて腰に佩いていた剣を。
それぞれに構え、そして、一閃の光が迸(ほとばし)った。
魔王の訃報が轟いてから数年の月日が流れた。
女はあれから、彼の言葉を信じて帰りをずっと待っていた。
だけど、心の中では分かってしまっていたのかも知れない。
彼が「必ずかえって来る」と言った、あの日から。
女は外に出た。
澄み切った風と空は、彼の背中を見送った日とまったく同じ。
ふと一際大きな風が吹いて、女の目の前に見覚えのある青が流れてきた。
足元に落ちたそれは、女が愛しい人へ贈ったストールの切れ端。
「……おかえりなさい」
約束通りに還って来たその人を、女は涙を流してきつく抱き締めた。
(2015.05.26)




