ロードレース
感想頂きましたレフェル様、並びにこのお話を読んでくださる皆様ありがとうございます。
鼻歌を歌いながら秋葉原の町をロードバイクを押しながら歩いていた。
「楽しそうだな。」
「ま、ね。ロードバイクの走っている光景が楽しくてね。」
「楽しめて何よりだ。」
ぶわぁって景色が流れていくのすごいよね。って、
「なんでいるの? 岸川君に佐渡君。」
『いや、おそいって。』
ボクの問いに岸川君も佐渡君も反射的にそう返していた。
ボク同様にロードバイクで走って来たらしく、自分達のロードバイクがそこにあった。
「まあ、俺は毎週土日にアキバ通いしてるからな。」
「で、俺はコイツに巻き込まれた。」
佐渡君がウンザリした様子で呟いていたが唇で笑みを浮かべているのが見えた。
「ところで登坂。これから帰るだけか?」
「そうだよ?」
岸川君の問いにボクは首を傾げながらも答えた。
「なら、俺達と一緒にレースをやらないか?」
「いいよ。走ろう。」
岸川君の提案に笑みを浮かべ了承する。
「じゃ、ルートの説明するが、
ここを真っ直ぐ走ると、ちょっとした登り坂があるがそれを登ったら道沿いに真っ直ぐ走り赤羽駅でゴール。
で、王子を抜けた先たが、二股路の先は狭く、またその地区の人達の交通路だから人もたくさん通る。そこを抜けるまで、制限速度15キロまでで追い抜き禁止な。」
岸川君の説明に軽く頷いて、安全のためにヘルメットをつけロードバイクに跨がる。そして、ビンティングシューズの靴底を引っ掛けてグッとペダルを押し込む。パチンと音が鳴り、ペダルとシューズが固定される。
ビンティングシューズの靴底にはクリートという金具がついていて、こうやってペダルに固定するだけじゃなく引き上げる力と踏み込む力。その2つの力を推進力に変える事が出来る。
「目の前の信号が青になったらゆったり走り最初の坂でスタートだ。」
佐渡君の言葉にやや遅れて、信号が赤から青に変わり、佐渡君、岸川君、ボクの順に走り始めた。
景色が流れていくのを楽しんでいたら、すぐに坂に辿り着いた。
「ごめんね。」
ボクはそう言いながら、岸川君と佐渡君を抜いていった。
SIDE 佐渡
しまった! 登坂はクライマーだったのか! 坂の上をスイスイと走って行くのを見て判断した。
俺も岸川もここを何回も走っているからよくわかる。しばらく平坦な道を走って、下り坂。その後、登り坂から下り坂になりなだらかな登り坂の後、平坦道を走って追い抜き禁止の道になる。そして、追い抜き禁止の道を抜けたらすぐに坂を下り平坦な道をちょっと走って赤羽駅に到着する。登坂に勝つにはここしかないだろうな。そう判断して、シフトレバーを操作する。ガシャと音がなり、ギアが2段階重くなる。
ロードバイクは前2段、後ろ10段の計20段変速出来る。そのため、登り坂でギアが重い時は軽くして、逆に平坦に重くして速く走る。
「悪い。抜くぞ。」
前を走っていた登坂をちぎっていき、ペダルを回す。そして、
「お前もな。」
下り坂の手前で岸川にちぎられた。
SIDE 岸川
「登坂がクライマーだったとはな♪ とんだ番狂わせだ♪」
楽しそうに笑いながらペダルを回す。やっぱりレースはこうでないとな♪
「っと、こうしちゃおけん。」
ボトルの水を一口飲んでボトルケージに戻してから、ドロップハンドルの下の部分、下ハンを強く握る。ロードバイクってのは様々なポジションが取りやすいようにドロップハンドルが採用されてる。例えば、ブラケットっていう、ブレーキの上の部分を握るポジション、ハンドルを短く持つポジション、下ハンを握るポジションと握り方で走りに幅が出る。中でも、下ハンは加速専用。風を切り裂き、自身の体重さえも推進力に変えてドンドンと加速していき、登坂をそして、佐渡を抜いていった。
そして、下り坂。目の前の信号が青になった。信号待ちしてる車もいない。チャンスだ。シフトレバーを操作して、ギアを可能な限り重くする。下り坂なこともあり、ものすごい加速を見せる。その勢いのまま、わずかな減速だけで、登り坂を登りきった。
また下り坂があり、そこを越え最後の登り坂さえ登ったら後は追い抜き禁止の所まで平坦な道だ。
そう思いながら、最後の登り坂の半分まで登ったところで登坂が追い抜いていった。
「しまった! 待て! 登坂!」
追い抜かれた事に笑みを浮かべながら、必死にペダルを回す。坂を登り終えたところで、多少減速していたようだがそれでも、追いつけない。
やがて、例の追い抜き禁止の所まで辿り着いた。
ブラケットに握り直し、ギアを軽くした所で登坂が声をかけてきた。
「岸川君。レースって楽しいんだね。」
「ああ。今は足を休めとけ。」
しばらくゆったりと走り、信号を抜けた先が追い抜き禁止解除だ。下り坂を下り平坦なところでラストスパート。俺も登坂も後から追いついた佐渡も必死になってペダルをまわす。そして、
「やったぁぁ♪ 勝ったぁぁ♪」
登坂が先にゴールした。
「ちぇ。抜かれたか。」
不満に唇を尖らせながらもブレーキを握る。
「岸川君。佐渡君。楽しかったよ。ありがとう。」
登坂は満面の笑みで俺達の手を握っていた。