自転車競技部と勧誘
このお話を読んでくださる皆様ありがとうございます。
今日の授業も終わったし、さて帰ろうと教室を出たところで、
「おい。」
ものすごく怖い男の人に呼び止められた。たぶん、身長180センチ。星宮学園していの制服を着てボクを睨んでいる。
「登坂山道であってるな?」
「は、はい!」
緊張に体を震わせながらもボクは首を縦にふる。
「登坂。ついてこい。」
ひょ、ひょっとしてカツアゲ!
「ご、ごめんなさい! そういうの間に合ってますから!」
その人に叫んで、逃げ出した。
「…ふぅ。ここまでくれば大丈夫かな?」
しばらく走り、ついて来ないことを確認して、下駄箱に向かう。靴を手に取ろうとして、
ガシッ!
と、ボクの手を掴んでいる人がいる。ギギギと視線をずらすと怖い男の人だった。
「手間取らせるな! さっさと来い!」
男の人は逃げようとするボクの手を引っ張りながら歩き出した。
「ようこそ。自転車競技部に。」
扉を開かれた時、そんな声が出迎えたのにたいして、
「とりあえず、これ解いてくれません?」
そういうだけで精一杯だった。別にへんな格好ではないと思う。雁字搦めに縛っているロープを除けば。
「ったく。手荒な真似はよせって言ったろ?」
「しょうがないだろ? 話をする前に逃げられたんだから。あー。登坂山道だったな? 悪かった。」
ボクを脇に抱えている男の人がばつが悪そうな表情でボクを降ろしてロープを解いた。
「部員が手荒な真似してすまなかった。ただ、君の力が欲しくて焦っていたみたいだ。」
ボクを出迎えた部長さんが立ち上がり頭を下げる。
「俺からも頼む。うちの部に入部してくれないか?」
2人の先輩に頭を下げられ面食らう。
「ちょっ、ちょっと待ってください! なんでそこまで必死に誘うんですか?」
部長さんの話によると、1週間前激坂を走行中の部員をママチャリのボクが追い抜いていった事があったそうだ。
「うちはスプリンターやオールラウンダーはともかくクライマーは1人しかいないからな。出来ればうちの部に入部してくれないか?」
「…イヤです。」
部長さんのお願いにボクは首を横に振った。
「理由を聞いてもいいかな?」
「自転車競技部って事は、自転車に乗って走りあい競い合うんですよね? ボクはレースに興味ありませんし、それに自転車は楽しく乗る乗り物だと思ってますから、レースに出る気もありません。」
ボクは部長さんの問いにそう答え部室を後にした。