戦士誕生
五島聖一がシャーロットという少女と知り合ったきっかけは唐突なものだった。
その日は部活が終わった後、日課となっていた警察署への訪問を終え、自宅に帰るところだった。シャーロットが不良3人に囲まれていた。
「よーよー、姉ちゃん。暇?暇なら俺たちと遊びに行かない?」
「もちろん俺たちがおごるぜ」
「その代わり、俺たちにいい事してくれたらな」
3人は下衆な笑みを浮かべながらそう言った。シャーロットはおびえた様子だ。
「おい。こんな子供相手に大の男3人で何やってるんだよ」
聖一が3人に向かって言う。
「何だぁ?お前」
「邪魔すんじゃねぇよ」
「やんのか?コラ」
聖一に絡む3人。
「それとも、そんな子供くらいしかお前らの相手をまともにしてくれないのか?」
聖一はひるまない。
「なにぃ!?」
3人は激怒した。聖一を鬼の形相でにらんでいる。
「ダサいナンパなんかやめてさっさと家に帰れ。痛い目に遭いたくなければな」
聖一は顔色一つ変えずに言う。
「この野郎!言わせておけば!!」
3人は聖一に襲い掛かった。
「やれやれ・・・しょうがないな。お嬢さん。あそこに隠れてな」
聖一が路地を指差すと、シャーロットはそこに隠れた。それを確認すると聖一は肩にしょっていた竹刀を取り出した。
「ぎゃあーっ!!」
聖一が竹刀を振るうと、あたりには3人の断末魔が響いた。
「だから帰れって言ったのに・・・どうする?続ける?」
聖一が倒されて地べたに座り込んだ3人に竹刀を向けて尋ねる。
「くそっ!覚えてろ!」
3人は捨て台詞を残し立ち去った。それを確認すると、聖一はシャーロットが隠れている路地に向かった。
「もう大丈夫だよ。もう暗いから、早く家に・・・」
帰れと聖一が言おうとした瞬間だった。
「よし。合格だ。君をパンドラボックスと戦う戦士第一号に指名しよう」
シャーロットは聖一を指差しいきなり宣言した。聖一は何が何だか分からなかった。
「おお、すまん。いきなりだから何の事だか分からんだろう。場所を移そう。あのレストランでいいか?」
聖一はシャーロットに言われるがまま、レストランに入った。
「そういえば自己紹介がまだだったな。私の名前はシャーロット・ウィンザー。ウィンザー公国のヘンリー・ウィンザー公爵の娘だ。まあ、シャーリーとでも呼んでくれ。今は長崎学園高校の2年A組に在籍している。もっとも、それは私の仮の姿にすぎない。この星で生活しやすくするためのな」
シャーリーは紅茶を一口飲んで語り始めた。
「仮の姿?この星?あはは。まるで宇宙人みたいな話し方だね」
聖一は笑った。シャーリーが自分と同級生であることに驚いたことに加え、彼女がふざけて話しているようにしか聞こえなかったからだ。
「『みたい』じゃないぞ。私はこの星の人間ではない。君たち流に言えば、宇宙人というやつだ」
そんな聖一とは対照的に、シャーリーは至って真面目にそう言った。
「悪いけど、僕はSFには興味がないんだ。もう今日は遅いし、それ飲んだら君も・・・」
家に帰りな、と言おうとした瞬間だった。
「君の行方不明のお兄さんのことを知りたくないか?五島聖一」
「ど・・・どうして僕の名前を!?兄貴のことを知っているんだ!?」
聖一は激しく驚いた。シャーリーはまだ伝えていない自分の名前をフルネームで言い当てた。しかも、聖一の兄信彦が行方不明なのを知っているのは家族と警察だけなのだ。
「君たち兄弟のことは調べさせてもらったよ。君たちにはパンドラボックスと戦う戦士となりうる素質があったからね」
シャーリーは答えた。
「シャーリー。パンドラボックスって何だ?戦士って何だ?兄貴が行方不明になったことと何か関係があるのか?」
「待て。その話はアイツをどうにかしてからだ」
矢継ぎ早に質問を投げかける聖一を遮るようにシャーリーは窓の外を指差して言った。聖一が窓の方を見ると、そこには見たこともないような化け物がいた。
「な・・・なんだアイツは!?」
「ちっ・・・パンドラモンスターめ。もう箱の中から出てきたか。・・・いかん!伏せろ!!」
シャーリーが叫んだ次の瞬間、化け物は鋭い爪を持った右手で窓ガラスを叩き割った。ガラスが割れた音と店内の客たちの悲鳴が辺りに響いた。
「うわっ!いきなり攻撃してきやがった!!」
聖一はとっさに伏せて難を逃れた。
「見つけたぞ。五島聖一。五島信彦に次ぐ、2人目の地球出身のパンドラボックスの戦士よ!」
化け物は鋭い牙だらけの口を開けて言った。
「な・・・コイツも僕ら兄弟の名前を!?」
「やはりそうか・・・聖一。人がたくさんいるここはまずい!一旦逃げるぞ!!」
シャーリーは左の手のひらから大きな火の玉のようなものをを化け物に繰り出した。玉を喰らった化け物は再び店の外に飛ばされた。2人は店から逃げ出した。
「逃がさんぞ!五島聖一」
立ち上がった化け物は2人の後を追った。
聖一とシャーリーの2人は近くの公園まで逃げてきた。しかしそこで追いつかれた。
「逃がさんと言ったはずだ!大人しく俺について来い!」
化け物はジャンプして聖一に襲い掛かった。聖一は手持ちの竹刀で攻撃を防ごうとした。
「無駄だ!」
「うわっ!竹刀が!!」
化け物が先ほど窓ガラスを叩き割った右手で竹刀を殴ると、竹刀は粉々に砕けた。
「どうしても大人しくついて来るつもりはないか・・・なら、半殺しにして連れて行くしかないな」
つかつかと迫ってくる化け物に対し、後ずさりする聖一。
(くそっ!どうすれば・・・!?)
その瞬間だった。
「聖一!これを使え!!」
シャーリーは棒のようなものを聖一に投げつけた。聖一はとっさに受け取った。
「な・・・!?シャーリー!何だ!?この棒のようなものは!!」
「パンドラ・バスターだ!対パンドラモンスターの武器だ!!」
パンドラ・バスターを指差し尋ねる聖一にシャーリーは答えた。
「え・・・?パンドラ・・・?こ・・・これでコイツを殴れって言うのか!?」
「そうじゃない!頭の中で念じてみろ!君にとって使いやすい武器に変化するはずだ!!」
シャーリーに言われるがまま聖一が念じると、パンドラ・バスターは変形し始めた。同時に、聖一は自らの全身のエネルギーを吸収されるような感覚を覚えた。
(なに・・・?棒が・・・剣に変わっていく・・・!)
しかし、化け物は変形完了を待たずに襲い掛かってきた。
「観念しろおぉ!!」
化け物が右手を繰り出して攻撃してきたまさにその瞬間、パンドラ・バスターは剣へと変形を完了し、その攻撃を受け止めた。
「なん・・・だと・・・!?」
化け物はそのことに驚き後ずさりし、戦慄を覚えた。
「聖一!敵は怯えているぞ!一気にけりをつけろ!!」
「ふ・・・ふん!そんな剣ごときで、俺を倒せるとでも思っているのか!うおおおおおっ!!」
「はぁーーーーっ!!」
聖一はシャーリーの呼びかけに返事はせず、両手を大きく振り上げ聖一を抱きつぶそうとした化け物の、胴体をめがけて力の限り斬りつけた。
「ぎゃああーーーーっ!!」
胴体を真っ二つにされた化け物は、断末魔を挙げて、そして跡形もなく消え去った。
「はあ・・・はあ・・・」
聖一は鼻と口で激しく呼吸した。それからすぐに全身をすさまじい虚脱感に襲われ、その場にうずくまった。パンドラ・バスターは元の形に戻っていた。そこにシャーリーが駆け寄ってきた。
「初めての戦闘にしては上出来だったぞ。聖一。だが、今日はもう歩くことすらできまい。君の家まで連れてってやろう」
シャーリーが聖一にねぎらいの言葉をかけ、呪文を唱えると、聖一の体が宙に浮いた。そしてそのまま聖一の家の方に向かって歩いていった。