弐
生と死の狭間。
生まれたときから私は特別だった。
一族の者はいわゆる三途の川で、死する魂を彼岸へ渡す船の船頭をする。
生と死の狭間にあってその存在はとても不安定なもの。
死者には船頭をする私たちの姿は見えない。
否、見られてはいけない。
見るということは見られるということ。
見られれば、生と死のちょうど間でしか存在できない私たちの立ち位置が死に傾いてたちどころに消えてしまう。
だから一族の者の目は退化し、なくなっていた。
はずだった。
どういうわけか、私にはそれがあった。
それだけでなく、私の姿は雪のように真っ白だった。
尾の数も、皆は1つであるのに、私にはもう2つあった。
生と死の狭間に在ること自体が難しかった。
自身が自分という存在を確立させていなければならなかった。
不安定すぎる私たちはちょっとしたことが消滅のきっかけになった。
死者に同調してはいけない。
自分を見失ってはいけない。
何もない真っ暗なそこで、唯一の希望は千年後の現世への顕現。
千年、この不安定な存在を保てたならば、強大な妖力を持って現世に顕現し新な生を得ることができる。
私だけは現世に顕現することに魅力を感じなかった。
けれど、広く暗い川の中に浮かぶ現世の月の姿はとても美しかったから、水面に映る姿でなく本物を見てみたいと思うこともあった。
きっと、一族の誰も水面の月を知らないだろう。
彼らには目がないのだから。
ならばこの思いはきっと私だけが抱くものなのだ。
今にしてみれば本当に求めていたのは別のものだったけれど。