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三題話(恋)

我が家の”お堅い”メイドさん

今回も修行作です。


三題話で書きました。

お題が何か考えながら読んで見て下さい。


では、どうぞ召し上がれ

 あー暇だ。

 僕は読み飽きた漫画を漫画置き場へ放り投げ、

こたつへ身を深く潜らせてみかんのかごを眺めた。

 我が家は掘りごたつ式で、

暇つぶしの道具を大量にこたつへ持ち込んでいるが、

それでもたまに来る脱力の波には勝てない。


 あー、暇だ。

 納豆とカボチャの戦争が見たい。




 ドーン!!


 隊長! だんやくが足りません!

このままでは……


 なにぃ! ……よし、第4~6隊を8、9隊と交代でお椀の中に移動、

配置したものから順次練っていけ! 輜重部隊を急がせろ!

 輜重部隊はここからしばらく全稼動だ。


 わ、分かりました!




 ゴゴゴ


 艦長! へた部分の装甲に被害甚大!

また、4時方向の装甲には敵兵がへばりついて何か工作中。


 このまま全速力! 滅多な事で我が艦の装甲はびくともせん!

艦の守りを信じろ!


 はっ!


 しかし外壁の敵は問題だ。

 よし、至急第3艦の艦長に連絡を!

敵を挟み込んで迎撃だ!


 了解しました!





 ――――うん、カボチャ優勢だな。

 しかしあのフォルム、斬新過ぎるだろ。

まさか防御を優先するあまり武器がへたしかないとは。

砲門真上向いてるし。



 などとれた事を考えていると、さっきから背中が寒い。

 こたつという暖房器具は元来、背中が寒いものだ。

が、いくらなんでも……


 そう思って後ろを振り返ると、

我が家のメイド様がうちわを持ち、正座してこちらを扇いでおられる。

もちろん今は冬だ。


「ねぇねぇ洋子さん、寒いんだけど……仕事は?」

「言われていた庭の整備は先ほど完了しました。

 食器洗いもこの家にある食器全ての清掃が完了しています」


「じゃあ掃除機とか」

「今からかけると昼食準備に手間取り

 いつも通りの時間に食事を用意することが不可能となりますが、

 それでも?」

「ううん、じゃあいいや」


 すました顔で平然と洋子さんは仰ぎ続ける。結構風強い。


「何故私がこうして扇いでいるか、

 お分かりになられましたか?」

「何? 暇なの?」


 こくりと無言で頷く洋子さん。


「う~ん、じゃあみかんの皮むいて」

「了解しました」


 そう言って洋子さんは、コンクリートで出来た硬い足をゴトゴトいわせて、

こたつの、僕の向かいへ入った。




 うちの家にいるメイドはコンクリート製のロボットだ。

 いや、別に僕がそういう趣味(どういう趣味?)ではなく、

法律でそう定められているだけだ。


 今から十数年ほど前、メイドロボや執事ロボが発売されると、

それは方々(ほうぼう)の予想を上回る異常なヒット商品となった。

 当時は家庭で働くロボットは珍しかったし、

なにより、外見が美形だった。

 しかしその”全然画期的じゃないけど今世紀最大の発明”

と世界中の人間に言わしめた召使ロボたちは、

数年で販売禁止の国際的取り締まり品、

つまり持ってるだけで捕まる違法物となった。


 ロボットが反乱、とか、

致命的な欠陥が、なんてたいした理由はない。

『そういう使い方』をする不届き者が多すぎた結果、ということだ。


 結果、召使ロボットはいくつかの条件満たしたもののみが販売可能、

という現状に落ち着いた。


 条件とは、例えば皮膚が透明樹脂で作られていて、

中身のメカがむき出しで、言葉も片言な仕様とか、

人間に触られると異常に拒絶反応を起こして、最悪ぶん投げられるとか、

下半身が馬や蜘蛛のような多脚式だとか、

後は我が家にいるメイドのように、

全身がコンクリートの冷たく硬いお肌仕様とか。


 そんなわけで我が家のメイドロボの洋子さんは、

国際条例に則った、清く正しい合法メイドロボなのである。


 ぶっちゃけ肌色してるし、目の保養としては十分。

おまけに仕事は確かだし、文句のつけようがない。

 強いてあげるなら、他のバージョンと異なって体重が異常に重い。

優に3桁を超える。

 そのため、スリッパは数日で使い物にならないほどぺったんこになるし、

かといって素足で歩かれると床材に悪そうだ。

足の裏に柔軟衝撃緩和樹脂を貼り付けるのは法律に違反する。


 結局、今の専用対衝撃素材を使った靴下を履かせる事にしている。





 第1次豆瓜戦争に飽きた僕は、

目の前でみかんを剥く洋子さんを眺める事にした。

 買った当初は物珍しかったし、何より美しい容姿から、

仕事をする洋子さんを付いて回ったりしたものだ。

 最近では見慣れて今更感が満載で、じっくり眺める事は少なくなったが、

改めてみてもやっぱり洋子さんは綺麗だった。


 茶色い長い髪をゴシックブラックのシュシュで一つにまとめ、

白目の肌は下地はコンクリートとはいえ、

特殊塗装で見る分には全然違和感がない。

 手元を一身に見つめる茶色い目はこういう角度だと節目がちに見え、

洋子さんのすました態度や表情と相まって、一種のおもむきがある。


 朝から結構仕事をしているはずなのに、

白いフリルの付いたエプロンには汚れ一つなく、

頭についたカチューシャもピシッとしていて清潔感を出している。



 不意に、鼻先に洋子さんの手が突きつけられる。

 指先に摘まれたみかんの房は、きれいに筋を取ってあり、

気のせいか薄皮も少し光っているように見える。


「薄皮も剥きましょうか?」

「いや、いいよ」


 そういってそのまま口で受け取り、

ついでに洋子さんの指を軽く噛む。



 ガジガジ



「美味しいですか?」


 ロボットの洋子さんの視線がいつもより冷たく見える。


「えっと、硬くて冷たいです」

「そうですか…………離して頂けませんか?

 作業に支障をきたしますし、塗装が痛みかねません」


 僕は言われるがままに洋子さんの指を離すと、

洋子さんはそのまま、何事もなかった風にみかんを剥く作業に戻った。


「指大丈夫?」

「この程度の衝撃で剥がれる塗装では仕事が勤まりません」

「な、なるほど」


 ロボットにこういうことをしても意味はない。

けれど、たまにどうしてもやりたくなるのが人情だと思う。


「……訊いてもいいでしょうか?」

「何を?」


 洋子さんが顔を上げじっと僕の目を見る。

凝視と注視の間くらいの固い視線だ。


 彼女の学習モードは全開にしてある。

だから本当は質問の許可を僕に取る必要はない。

洋子さんの趣味なのだそうだ。


「さっきのは……なんですか?」

「さっきの? 噛んだ事?」


 こくりと頷く。


「あれは甘噛みって言って、好意を表す動作だよ。

 よく小猫なんかがやるね。

 本当は甘えて緩く噛みつく事をさすんだけど、

 言葉としては他人に甘えて、

 ちょっとした意地悪をしたりする事もさすかな」


「甘噛み…………了解しました。

 ありがとう御座います」


 そう言って軽く頭を下げた後、

またみかんを剥く作業に戻った。

 手元を見つめ、実を傷めないように、慎重に優しく、

小さな筋までしっかりと取っていく。



 なんでそこまでするのかと前に聞いたとき、


「私はあなたの役に立つのが仕事ですから。

 それに、みかんの皮を剥くのも立派な料理だと先日耳にしました。

 料理の手を抜くのはメイドの恥だとも」


と、几帳面に目を見据えて答えられた。



「どうぞ」

「どうも」


 今度は口ではなく指で受け取る。


 洋子さんは丁寧に丁寧に向いていく。

が、丁寧はいいのだが少し遅い。

別に急いでるわけでもないし、

洋子さんの暇つぶしも兼ねていて、加えていうなら僕も暇だ。

が、流石にずっと眺めているだけというのもいささか退屈だ。

 洋子さんを眺めるかたわら、頭の中で第二次豆瓜大戦が始まろうとしていた。




 前回納豆は補給の問題から前線維持が出来ていなかったこと、

火力不足で敵艦へダメージが与えられなかったこと、

などの理由で窮地に立たされていた。

 じゃあ今回納豆が敷くべき陣形は――



 つん、とつま先に柔らかい何かが触るが、

僕は気にかけずカボチャの作戦を考案する。



 前回は防御力過多が目立ったな。

でもカボチャは形状上へたからしか攻撃できないしな。

という事は密集陣形は危険か?

いやむしろ密集陣形からの魚鱗でブリッツクリークが安定か?



 つんつんと、さっきから何か柔らかいものが執拗に僕の足に触る。

向かいの洋子さんの顔をうかがっても、

全く何事もなかったかのようにみかんを剥いている。


 触ってくるのはもちろん洋子さんの足だ。

靴下独特の柔らかい感触は気持ち良いが、

ここまで執拗だと少しうっとうしい。


 つんつん 


 突付いてくる洋子さんの足の周期を見極め、

タイミングよく両足で挟んで捕まえる。

 そのままぐいぐい引っ張ると、さっと足を下げて逃げられ、

さらに間髪いれず右足が挟まれて捕まり、ぐりぐりと締め上げられる。

 靴下を履いていて硬くも冷たくもないが、機械なのでちょっと痛い。


「洋子さん痛い痛い痛い」


 少し大袈裟目に言うと、すぐに解放してくれた。


「さっきのが」


 いつの間にか洋子さんはみかんを全て剥き終わっていた。

どうやら僕が退屈しているのを察して、

剥き終わるたびに出すのではなく、先に剥いておく事にしたようだ。


「さっきのが”甘噛み”でしょうか?」

「…………甘噛みの場合好意が必要なんだけどね」


 僕が苦笑して言うと、洋子さんはまっすぐ、

今度は凝視をはるかに越えるくらい一心に僕を見つめ、


「もし好意に感謝が含まれるなら、

 私はあなたにこれ以上ないくらい好意を寄せています」


 固まる僕のつま先を、

今度は優しく上下に、包むように挟み、


「私は仕事でよくネットワークに接続しますが、

 そこではよく私と同じ”物”のことを目にします。

もちろん皆さん多くが大切にご使用なさっているようですが、

やはり酷い情報も目にします。

 腹いせに暴力を振るわれ壊れる物、

違法改造を施されプログラムから壊れてしまう物、

電源さえ入れてもらえず人形のように扱われる物もあると聞きます。

 そういった事を見る度に、私はここへ来れた事を感謝するのです。

”長く永く、好く善く人に尽くす”それが私たちの務めであり役目。

 それが十分に叶う今を、私はとても感謝しています。

 感謝は好意に含まれるのでしょうか?

そして、先ほどのような行為は甘噛みと言えるでしょうか?」


 緩む頬を必死に押さえる。

 ダメだ、なんでこんなに――――


「うん、何の間違いもなく、感謝は好意だし、さっきのは甘噛みだよ」


 ほんの少しだけ、本当に小さく、

洋子さんの口がほころぶ。


「そうですか」


 すっと、つま先が離される。


「そろそろ昼食の用意を致しますので、

 お暇させて頂きます」


 洋子さんはこたつをそっと出て、

部屋の入り口でお辞儀をすると、

踵を返して出て行ってしまった。


 僕は苦笑して首を揺る。

本当に洋子さんは分かってないな。まだまだだ。


「感謝なんてさ」


 自分ひとりの部屋で、ぴったりと閉まった扉に、


「そんなの、僕の方が何倍もしてるに決まってるだろ」


 自分の耳にさえ微かにし聞こえない声で囁いた。





 少しして、微かに香ばしい匂いが流れてきた。

もうすぐ洋子さんが昼食を持ってくるだろう。

 特に何も注文していないし、

何が運ばれてくるんだろうか。



 僕は胸をわくわくさせながら、

こたつの上で、皮の上に揃えて置かれたみかんの最後の房を口に入れる。


 甘くてすっぱい、一流レストランにも負けない

文句なしの五つ星料理だった。


どうでしたでしょうか?

いやはや、無機質かつ可愛らしく書くのは難しいですね。

ロボットネタは分かりやすいけど難しい。要精進。


お題は

・つま先 ・甘噛み ・コンクリート

でした

分かった方、いますかね?(汗)

え? メイド、感謝、みかんだと思った?

つ、次は頑張ります……

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