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第8章:笑いの語尾
翌日の夜。
柚子は通話に入ってきたが、明らかに「仕事」として座っていた。
誰かが言う。
「昨日の集まりの話、結局どうすんの?」
悪気のない確認。 柚子は笑った。
「みんな元気やなぁ」
「私はたぶん、タイミング合わんだけです」
うまい。
相手を悪者にしない。自分も弱く見せない。 それが、表の強さだ。
俺は言わない。 言わない代わりに、空気を動かす。
「今その話ええやろ」
「今日、誰が一番下手か決めよ」
笑いが起きる。話題がずれる。 柚子も笑った。
「もう、柊人さん厳しすぎw」
笑ったように聞こえた。 でも、俺の耳には違和感が残った。
いつもなら、笑い声はフェードアウトするように消える。
今の彼女の笑いは、語尾がプツリと切れた。
まるで、録音テープを停止したような音。
マイクの向こうで、彼女が「笑う作業」を終えて、真顔に戻った瞬間が見えた気がした。
通話が終わったあと、柚子からメッセージが来た。
『さっき、助かった』
『でも、ちょっと疲れた』
疲れた…
その二文字が、昨日より重く見えた。
『了解、今日は休んで』
送信。
スマホを伏せる。 伏せた瞬間に、胸の奥が暴れる。
――鈴香に聞きたい。
今の「プツリと切れた音」は何だったのか。
確認すれば安心できる。
安心は…癖になる…




