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信じていた日常が壊れた夜、俺は彼女の『本当の顔』を知った  作者: ledled


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第二話 裏切り者たちが地獄を見る番──俺の復讐は、ただ真実を公開しただけ

決行の日は、快晴だった。皮肉なものだ。これから起こることを考えると、雨か曇りの方がふさわしい気がしたが、空は抜けるような青さで、まるで何も知らないかのように明るかった。俺は朝から準備に追われていた。拓海も手伝ってくれて、レストランの個室に必要な機材を運び込む。プロジェクター、ノートパソコン、スピーカー。全て、今日のために用意したものだ。


「本当にやるんだな」


拓海が、機材をセッティングしながら訊ねた。


「ああ」

「後悔しないか?」

「しない」


俺の答えに、拓海は小さく頷いた。


「わかった。だったら、俺は最後まで付き合うよ」


午後六時。予約したレストランの個室には、既に何人かが集まっていた。俺の両親。地方から新幹線で駆けつけてくれた。母は嬉しそうに、父は少し緊張した顔で座っている。梢の両親。母親は上品な雰囲気の女性で、父親は厳格そうな表情をしていた。そして、梢。彼女は白いワンピースを着て、いつもより丁寧に化粧をしていた。俺を見ると、少し恥ずかしそうに微笑んだ。


「透矢、今日はありがとう」

「いや、こちらこそ」


俺は努めて普通に振る舞った。梢は何も気づいていない様子で、俺の隣に座った。


「あの、透矢くん、今日はどういう?」


梢の母親が、不思議そうに尋ねた。


「はい、実は梢さんとの将来について、ご両親に正式にお話ししたいと思いまして」


その言葉に、梢の両親は顔を見合わせた。梢の母親は嬉しそうに微笑み、父親は少しだけ表情を和らげた。俺の両親も、嬉しそうに頷いている。


「それは、結婚の話かい?」


俺の父が訊ねた。


「はい。でも、その前に、皆さんに知っていただきたいことがあります」


俺がそう言うと、部屋の空気が少しだけ変わった。梢が不安そうに俺を見る。


「透矢、どうしたの?」

「大丈夫。すぐわかるから」


その時、ドアがノックされた。


「失礼します」


入ってきたのは、拓海。そして、その後ろに、もう一人。鷹司蓮だった。蓮は、いつものように爽やかな笑顔を浮かべていたが、俺と目が合うと、一瞬だけ表情が固まった。梢の顔が、血の気を失った。


「れ、蓮……さん?」

「やあ、梢さん。久しぶり」


蓮は、何食わぬ顔で挨拶をした。


「どうして、ここに」


梢の声が震えている。


「僕が呼んだんだ」


俺が言うと、梢は信じられないという顔で俺を見た。


「透矢、これ、どういうこと?」

「今から説明する」


俺は立ち上がり、部屋の隅に設置したプロジェクターのスイッチを入れた。壁に映像が映し出される。


「皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます。僕、柊木透矢は、水無月梢さんとの結婚を考えておりました」


梢の両親が、安堵の表情を浮かべる。


「でも、その前に、皆さんに見ていただきたいものがあります」


俺がノートパソコンを操作すると、画面が切り替わった。最初に映し出されたのは、SNSのスクリーンショット。梢の裏アカウントだ。


「これは、梢さんの別のSNSアカウントです。皆さんがご存知のメインアカウントとは別に、鍵付きで運用されているものです」


画面には、高級ブランドのバッグを持った梢の写真、高級レストランでの食事、そして「最近、特別な人と過ごす時間が幸せ」という投稿が次々と映し出された。梢の母親が、小さく息を呑んだ。


「こ、これは」


梢が立ち上がろうとしたが、俺は続けた。


「次に、これをご覧ください」


画面が切り替わり、メッセージのやり取りが表示された。梢と蓮のトークルーム。


『蓮:今日のディナー、楽しかったね。梢はやっぱり特別だよ』

『梢:私も楽しかった。蓮と一緒にいると、私、特別な女性になれる気がするの』

『蓮:当たり前だろ。俺の女なんだから』


部屋が、静まり返った。梢の顔は真っ青で、蓮は苦々しい表情をしていた。


「透矢、待って、これは」


梢が声を上げたが、俺は手を上げて制した。


「まだ続きがあります」


次に映し出されたのは、高級ホテルの出入り記録。日付と時刻、そして部屋番号。


「これは、鷹司蓮さんが予約したホテルの記録です。ご覧の通り、過去三ヶ月で十回以上、梢さんと一緒に宿泊されています」


梢の父親が、立ち上がった。


「梢、これは本当なのか」


梢は、何も答えられず、ただ震えていた。


「待ってくれ」


蓮が口を開いた。


「これは、誤解だ。僕と梢さんは、ただの友人で」

「友人?」


俺は、冷たく笑った。


「では、これもただの友人関係ですか?」


次に映し出されたのは、蓮が他の女性たちと同じような関係を持っていた証拠だった。過去二年間で、少なくとも五人の女子大生と同じパターンで関係を持ち、数ヶ月で関係を終わらせていた。


「鷹司蓮さん、あなたは女子大生を金と甘言で誘惑し、飽きたら捨てることを繰り返してきました。梢さんも、その被害者の一人です」


蓮の顔が、みるみる赤くなった。


「ふざけるな! お前、どうやってこんな情報を」

「合法的な範囲で調べました」


俺は淡々と答えた。


「でも、まだ終わりじゃありません。皆さん、これをご覧ください」


次に映し出されたのは、会社の経費記録だった。


「鷹司蓮さん、あなたは自分の会社の経費を私的に流用していました。高級ホテル代、レストラン代、女性へのプレゼント。全て会社の金です。総額は、約八百万円」


蓮の顔から、血の気が引いた。


「お前、どうやって」

「あなたの会社のシステムセキュリティ、甘すぎますよ」


拓海が、冷たく言った。


「この証拠は、既に第三者機関に提出済みです。近日中に、監査が入るでしょう」


蓮は、椅子に崩れ落ちた。部屋は、重い沈黙に包まれた。梢の父親が、震える声で言った。


「梢、お前、何をしていたんだ」

「お父さん、私、私は」


梢は泣き崩れた。


「違うの、私、ただ、蓮さんが優しくしてくれて、それで、特別な気分になれて」

「黙れ」


梢の父親の怒声が、部屋に響いた。


「お前は、透矢くんを裏切って、この男と遊んでいたのか。そして、それでも透矢くんと結婚しようとしていたのか」


梢は、何も答えられなかった。俺は、静かに言った。


「梢さん、あなたは僕に結婚を持ちかけました。でも、その裏で鷹司さんと関係を続けていた。これは事実ですね」


梢は、顔を覆って泣いた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、透矢、私、私」

「謝罪は結構です」


俺は、冷たく言った。


「僕は、あなたとの関係を終わりにします。そして、鷹司蓮さん、あなたには法的な責任を取っていただきます」


蓮は、怒りに震えながら立ち上がった。


「お前、俺を陥れるつもりか」

「陥れる? 違いますよ。ただ、真実を公開しただけです」


俺は、蓮を見据えた。


「あなたが女性たちを弄び、会社の金を流用していた事実。それを、適切な場所に報告しただけです」


蓮は、何か言おうとしたが、言葉が出なかった。梢の母親が、泣きながら言った。


「透矢くん、梢は、本当に反省していると思います。どうか、許してあげてください」


俺は、首を横に振った。


「申し訳ありませんが、それはできません」


俺の声は、驚くほど冷静だった。


「梢さんは、僕を裏切りました。三年間信じてきたものが、全て嘘だったんです。それを許すことは、僕にはできません」


梢が、すがるように俺の腕を掴んだ。


「透矢、お願い、もう一度チャンスを。私、本当に反省してる。蓮さんとはもう会わないから、だから」


俺は、梢の手を振り払った。


「梢さん、あなたは僕に結婚を持ちかけながら、別の男と関係を続けていた。それは、僕をどう思っていたからですか?」


梢は、答えられなかった。


「答えてください」


俺が追い詰めると、梢は震える声で言った。


「透矢は、安定してるから。将来も、ちゃんとした仕事に就けそうだし、真面目だし」

「つまり、僕は『保険』だったんですね」


梢の顔が、さらに青ざめた。


「違う、そんなつもりじゃ」

「十分です」


俺は、席に戻った。両親たちは、誰も言葉を発しなかった。俺の両親は悲しそうな顔をしていたが、俺の決意を尊重してくれているようだった。梢の父親が、深くため息をついた。


「透矢くん、娘がこんなことをして、本当に申し訳ない」


彼は深々と頭を下げた。


「梢、お前は家に帰ったら、荷物をまとめろ。もう、お前の部屋はない」

「お父さん!」

「黙れ! お前は、家族の恥だ」


梢の母親も、泣きながら頭を下げた。


「透矢くん、本当に、本当にごめんなさい」


俺は、二人に向かって頭を下げた。


「いえ、謝らないでください。悪いのは梢さんと鷹司さんです」


蓮は、まだ椅子に座ったまま、呆然としていた。


「俺の人生、終わった」


彼が呟いた。


「お前のせいで、俺の人生、全部終わったんだ」

「違います」


俺は、冷たく言った。


「あなたの人生を終わらせたのは、あなた自身です。女性を弄び、会社の金を横領し、全て自分の欲望のままに行動した結果です」


蓮は、何も言い返せなかった。その後、レストランを出た。梢は、両親に連れられて去っていった。彼女は最後まで泣いていたが、俺は何も感じなかった。蓮も、一人で去っていった。その背中は、すっかり小さく見えた。


俺の両親は、心配そうに俺を見た。


「透矢、お前、本当に大丈夫か?」


父が訊ねた。


「ああ、大丈夫」

「辛かったろう」


母が、俺の手を握った。


「でも、お前は正しいことをした。胸を張っていいんだよ」


俺は、初めて涙が出そうになった。でも、ぐっと堪えた。


「ありがとう、お父さん、お母さん」


拓海が、俺の肩を叩いた。


「よくやった、透矢」

「ああ、お前のおかげだ」

「これからどうする?」

「前を向いて生きる。それだけだ」


それから一ヶ月が経った。鷹司蓮の会社に監査が入り、横領の事実が明るみに出た。蓮は逮捕され、実家からも勘当された。さらに、過去に弄ばれた女性たちが次々と告発し、民事訴訟の嵐にさらされた。蓮の転落は、凄まじかった。会社は倒産し、彼の資産は全て差し押さえられた。SNSでも彼の悪行が拡散され、社会的に完全に抹殺された。


ある日、拓海が俺に記事を見せた。


「鷹司蓮、完全に終わったな」


記事には、やつれた蓮の写真が掲載されていた。かつての爽やかな笑顔は消え、まるで別人のようだった。


「自業自得だ」


俺は、冷たく言った。


梢も、地獄を見ていた。大学では噂が広まり、彼女は完全に孤立した。友人たちも離れていき、サークルも退部させられた。両親からは絶縁を言い渡され、実家に戻ることもできなくなった。そして、蓮からも罵倒された。


「お前のせいで、俺の人生が終わったんだ! お前さえいなければ!」


蓮は、全ての責任を梢に押し付けた。梢は、誰にも頼れなくなった。ある日、梢が俺に連絡してきた。


『透矢、お願い、一度だけ会って。謝らせて』


俺は、無視した。でも、梢は何度もメッセージを送ってきた。


『私が悪かった。全部私が悪い。だから、お願い、許して』

『透矢、あなたがどれだけ大切だったか、今になってわかった』

『もう一度、チャンスをください』


俺は、全てのメッセージを削除した。梢は、結局大学を中退した。実家に戻ろうとしたが、両親は受け入れてくれなかった。地元でも噂は広まっており、彼女の居場所はどこにもなかった。


そして、三ヶ月後。俺は、街で偶然梢を見かけた。彼女は、スーパーのレジでアルバイトをしていた。かつての清楚な雰囲気は消え、髪はぼさぼさで、化粧もしていなかった。目の下には隈ができ、まるで別人のようだった。俺と目が合った瞬間、梢の顔が歪んだ。でも、俺は何も感じなかった。かつて愛した女性の成れの果てを見ても、同情も憐れみも湧かなかった。ただ、「ああ、これが彼女が選んだ結果なんだ」と、冷静に思うだけだった。俺は、そのままスーパーを後にした。振り返ることはなかった。


大学を卒業した俺は、大手IT企業に就職した。拓海も同じ会社に就職し、俺たちは一緒に新しい生活を始めた。仕事は忙しかったが、充実していた。そして、半年後。俺は、職場で一人の女性と出会った。彼女は、エンジニアとして働いていて、明るく前向きな性格だった。最初は仕事の話をするだけだったが、次第に親しくなり、一緒にランチを取るようになった。


ある日、彼女が訊ねた。


「柊木さんって、彼女いないんですか?」

「いや、いない」

「そうなんですか。意外です。真面目で誠実そうなのに」


彼女の言葉に、俺は少しだけ笑った。


「昔は、いたんだけどね」

「別れたんですか?」

「ああ、色々あって」

「そうなんですね」


彼女は、それ以上訊かなかった。その配慮が、俺には嬉しかった。それから数ヶ月後、俺たちは付き合い始めた。彼女は、梢とは全く違うタイプだった。自立していて、自分の意見をはっきり言う。でも、人を思いやる優しさも持っている。そして何より、俺を裏切らない誠実さがあった。


ある夜、彼女と一緒に夜景を見ながら、俺は言った。


「俺、昔、彼女に裏切られたことがあるんだ」

「そうなんですか」

「三年間付き合ってた。でも、彼女は別の男と浮気してた」


彼女は、黙って俺の話を聞いていた。


「それで、俺、復讐したんだ」

「復讐?」

「ああ。彼女と浮気相手の男を、社会的に抹殺した」


彼女は、少しの間黙っていたが、やがて言った。


「それは、柊木さんにとって必要なことだったんですね」

「必要?」

「はい。きっと、それをしないと前に進めなかった。だから、柊木さんは復讐を選んだんだと思います」


彼女の言葉に、俺は少しだけ救われた気がした。


「後悔は?」


彼女が訊ねた。


「ない」


俺は、即答した。


「あいつらは、自分たちのしたことの代償を払っただけだ。俺は、ただ真実を公開しただけ」

「そうですか」


彼女は、俺の手を握った。


「柊木さん、過去は過去です。これからは、前を向いて生きましょう」

「ああ」


俺は、彼女の手を握り返した。そして、俺は気づいた。梢との関係は、確かに俺にとって大きな傷だった。でも、その傷があったからこそ、俺は本当に大切なものが何かを学べたんだ。信頼。誠実さ。そして、人を見る目。梢は、俺に大切な教訓を残してくれた。それは、「人は見かけで判断してはいけない」ということ。そして、「信じるだけではなく、相手の行動を見極めることが大切」だということ。俺は、もう二度と同じ過ちは犯さない。そして、梢や鷹司蓮のような人間に、人生を狂わされることもない。俺は、前を向いて生きていく。本当に信頼できる人たちと、誠実な関係を築きながら。


それから一年後。俺は、彼女と婚約した。結婚式の日、俺は心から幸せだった。隣にいる彼女は、本当に俺を愛してくれている。そして、俺も彼女を心から愛している。式の最中、ふと梢のことを思い出した。彼女は今、どこで何をしているんだろう。でも、すぐにその考えを追い払った。もう、梢は俺の人生に関係ない。俺には、新しい未来がある。本当に大切な人たちと、誠実に生きていく未来が。


俺は、隣の彼女に微笑みかけた。彼女も、幸せそうに笑顔を返してくれた。そして、俺は誓った。もう二度と、人を信じすぎて傷つくことはない。でも、本当に信頼できる人は、全力で大切にしていく。それが、梢との関係から学んだ、俺の生き方だ。


数年後、俺は偶然、梢の消息を知った。拓海が教えてくれたんだ。梢は、地方の小さな町で、工場のライン工として働いているらしい。一人暮らしで、友人もいない。休日は部屋に引きこもり、SNSも全て削除したという。


「可哀想だと思うか?」


拓海が訊ねた。


「いや」


俺は、首を横に振った。


「自業自得だ」

「だよな」


拓海は、缶コーヒーを一口飲んで言った。


「でも、透矢、お前は幸せそうだな」

「ああ、幸せだ」


俺は、心からそう答えた。結婚して、子供も生まれた。仕事も順調で、家族との時間を大切にしている。かつて梢に裏切られた痛みは、もうほとんど感じない。時々思い出すことはあるが、それはもう「昔の思い出」でしかない。俺は、前を向いて生きている。本当に大切な人たちと、誠実な関係を築きながら。そして、梢や鷹司蓮のような人間が、二度と俺の人生に入り込むことはない。俺は、自分の人生を、自分の手で掴み取ったんだ。


それが、俺の復讐の、本当の意味だった。梢と鷹司蓮を社会的に抹殺すること。それは確かに復讐だった。でも、それ以上に大切だったのは、俺自身が立ち直り、新しい幸せを掴むことだった。そして、俺はそれを成し遂げた。だから、俺は胸を張って言える。俺は、勝ったんだ。梢や鷹司蓮に対してではなく、自分自身の弱さに対して。そして、新しい人生を、自分の手で掴み取ったんだ。それが、俺の物語の結末だ。

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