表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/50

Ep.9 電脳少女(2)

PC変えました。遅筆なのは変わりません。

「俺と、手を組まないか?」


 

 それは一種の思いつきのようなものだった。



「今あの世界には、違法ツールの《ディスオーダー》を使う悪者と、それに影響された化け物たちが蔓延ってる。それらを退治して……あの世界を変えるために、お前の力を借りたいんだ。頼む」



 なるべく噛み砕いて、少女に説明を試みた。

 

 こいつがもし本当に、やつらのバグに対抗できるとしたら。

 今の歪んだ《世界》を、変えられるとしたら。


 俺の目的にとって、有用である他ない。



『うむ、力を貸すのは構わないが……』



 一方の巫女服少女は予想外にも俺の要請を快諾し、きょとんとした顔でこちらを見ている。それはまるで、俺が「当たり前のこと」を言ったとでもいうかのように。



『お主……さっきわらわが言ったこと、忘れておるな?』


「ん? なんか言ってたか?」


『〜〜〜っ!! ほんとに忘れる馬鹿があるか! 言っただろ、「お主は今日からわらわの主だ」って! 一言一句(たが)わず!!』


「あー、そういえば言ってたな」



 強制ログアウトの衝撃が強すぎて忘れていた。

 しかし、俺から協力を持ちかけるのはわかるが、彼女の方からこんな主従関係を結ぶことになんのメリットが?



『……だから、まあ、力は貸してやる。もちろん、お主がそうしろというのであればな』


「そうか、なら助か」


『ただし!! 協力してやる代わりに、お主はわらわにうまい飯を食わせること! それで関係は成立だ、いいな!?』



 結局は飯かよ。


 彼女らしいといえばらしい要求だが、それで利害が一致するのであれば越したことはない。こいつ一人分くらいの食費なら、余裕で賄える。



「わかったよ、それでいい。よろしくな、」


 

 先程の彼女の台詞を踏襲しようとして、口籠った。

 結局のところ、こいつにはまだ名前がない。


 巫女服の少女で「巫女服少女」なんて安直な認識でいたが、さすがに名前がなくては俺もこいつも不便だろう。「お前」なんて他人行儀な呼び方をいつまでも続けるわけにもいかない。



「……お前、名前がないんだったな」


『ん? ああ、まあそうだな……』


「なら、今ここで決めろ。なんだっていい」


『!? わ、わらわが自分でか!?』


「他に誰が決めんだよ」


『……っ、お、お主だ! お主が決めろ!』


「はあ?」

 


 画面の中から、少女は照れくさそうにこちらに人差し指を向けてくる。大方、どうせ自分で決めるのが面倒くさいというのが理由だろう。



『わらわの頭はそういうことには不向きだからな。主であるお主から賜った名なら、なんでも喜んで使ってやる!』


「そうかよ……じゃあ」


『神の子であるわらわに、ふさわしい名にするんだぞ!』


(なんでもって言っただろ今……)



 とはいえ、人に名前をつけるのは俺も初めてだ。

 ゲームの主人公にニックネームをつけるのとはまたわけが違う。慎重に、こいつの恥とならないような名前を考える義務があるのだ。こいつの「主」となった俺には。



「……待て、ちょっと考えさせてくれ」


『おう! 悩め悩め!』



 神、神の子……。

 

 神の子でそのまま「神子(みこ)」はどうだ? 

 ……いや、安直だ。やめよう。可愛すぎる。


 巫女服、龍、霊魂……。

 これらのモチーフからではかなり限られてくる。


 そういえば、今日は七月一日の木曜日だ。

 ここからは何か……





 

 一時間後。



『おーい、まだなのだ? 退屈だぞ……』



 本気で熟考していたら、いつの間にか時間が溶けていた。

 こういうのは一度アイデアが膨らんでいったらキリがない。子供の名前を決める世の父親たちも、みんなこんな感じなのだろうか。



「よし、決まった」



 ノートに書き連ねたアイデアの中から一つを、丸で囲んだ。シャーペンを置き、少女にも見えるように画面の前に半分に折ったノートを提示する。


 悩み抜いた末、俺が決めた名前は。


 

朔日(さくじつ)の『朔』に『夜』で、『朔夜(さくや)』だ」


 

『さくや……ってそれ、どういう意味なのだ?』


「『朔』は今日がちょうど七月の朔日(ついたち)っていうのと、ここから新しいスタートを切るって意味もある。『夜』はまあ、語感もいいしお洒落だろ。今ちょうど夜だし」


『おおお……! 気に入った! わらわの名は今日から朔夜だ!』



 実を言えば、『夜』の字はある人からとったものなのだが。あえてそんなことは言わずとも、彼女はこの名前を気に入ってくれたようだ。考えた甲斐があったというものだ。



『さっすがわらわの主だ! ネーミングセンスも抜群だな!』


「はいはい……じゃ、改めてよろしくな、朔夜」


『ああ! これからわらわの主として頼んだぞ、カナタ!』


「あー……悪い、それ俺の本名じゃないんだ」


『へぁ?』



 カナタは、あくまで俺のアンブレでのプレイヤーネーム。

 名付けの由来はもちろん俺の本名にあるのだが――



『じゃあなんなのだ! お主の本当の名は!!』


「……彼方(おちかた)憂雨(ゆう)


『ユウ?』


「ああ……『憂鬱』の『憂』に『雨』だ」



 憂雨。憂鬱な雨。

 実を言うと、俺はこの名前が嫌いだ。


 

 俺を産んだ親が、俺を呪うためにつけた名前だから。


 

『な、なんか変な名前だな……?』


「だろ。だから今まで通り、『カナタ』でいい」


『お主がそういうなら、まあそうするが……』



 朔夜も納得してくれたようなので、これでよしとした。

 名前も決まったし、これでお互い関係としては対等だ。

 

 流れでもう一度【Under Brain】にログインしてみようかと思ったが、もう時間も時間だった。あとのことは明日からの自分に任せ、俺は早めに眠りにつくことにした。



 

 2027年7月1日。

 この日を、俺は生涯忘れることはないだろう。




      ***




 翌朝。

 アラームの音で、俺は目を覚ました。



「ふぁ……」


 

 昨日は精神的に疲れていたからか、久しぶりに心地よい睡眠をとることができた。大きな欠伸をしたあとでベッドから降りると、PCの画面には例の少女――『朔夜』が待ち構えていた。



『ふん、やっと起きたか。遅いぞ!』


 

 昨日の就寝前、朔夜がPCの電源が消されるのをあまりに嫌がったため、いっそのことつけっぱなしにしておいたのを思い出した。電気代は馬鹿にならないが、こいつが就寝中黙っていてくれるならそれに越したことはない。



「……朝起きたらまずは『おはよう』だろ」


『そうなのか? ならば……おはよう! 我が主よ!』


「ああ……おはよう、電気代かさ増し女」


『ああ!? わらわの名は朔夜だ!!』



 もはや聞き慣れつつある朔夜の怒声。

 これが、これから毎日続くのだろうか。



『よっし! お主も目覚めたことだし早速、あっちの世界へ――』


「あ、ごめんそれは無理だ。悪い」


『は? あ、ちょ、ちょっと待て!』



 意気揚々とアンブレへのログインを誘ってくる彼女をスルーして、俺は急いでリビングへ向かおうと部屋のドアに手をかける。俺にはもう、こいつに構っている時間はない。



「なんだよ、無理なもんは無理なんだよ」


『どうして無理なのだ! お主だって、昨日は――』


「学校」


『へぁ?』



 間の抜けた声を出す朔夜。

 彼女に言い聞かせるように、俺は言い放った。



「今から俺、学校だから」

 



 

現実編では設定集は自粛にします。


次回! 主人公、学校へ行く!!

デュエルスタンバイ!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ