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Ep.6 神の落とし子(1)

「うまい!! ここの飯は格別だな!」



 サンドイッチを頬張りながら、巫女服少女は叫び散らす。

 ベッドで介抱されていた頃の儚げな美少女感は見る影もなく、そこにいたのは、地球の見慣れぬ料理を嬉々として喰らい尽くす宇宙人のようなワガママ少女だった。



「どんだけ食うんだよ、お前……」



 彼女の要求に答える形で、俺は自腹で料理を注文していた。

 ここ《ENZIAN》は昼間は普通にランチメニューも提供しているため、なんとかこの少女の腹を満たすことはできそうだった。とはいえもう三皿目だが。


 今はただ、俺の所持金が尽きないかだけが心配だ。



「おかわり!」


「おい何普通におかわりしてんだ、やめろ」


「? わらわが何皿食べたって勝手だろう? どうせ払うのはお主なのだ」


「だから言ってんだよ馬鹿巫女服!」


「馬鹿とはなんだスプレー男!!」



 正直な話、不毛な言い争いはごめんだ。

 かといってこいつの横暴を許してしまうと、あとが怖い。



「コレット、見て……カナタセンパイが順調にボミガってるよ」


「ボーイミーツガールを動詞にしないでください」



 後ろで噂話が聞こえたが、なんとなく無視した。



「……で、本当に何も思い出せないのかよ?」



 強引にだが、先程の話題へと繋げてみる。ここまで運んであげた挙げ句飯を奢らされた、なんて結果に終わるのは嫌だったからだ。せめて何か、何でもいいから、俺がこいつを助けたことに意義があってほしかった。


 しかし巫女服は臆面もなく、顔をしかめて言う。



「何も知らんといっておるだろ。しつこい奴だな!」

 


 もう駄目だこいつ殴りたい。



「ああそうかわかったよ、お前は――」


「……あ、でも一つだけ知ってるぞ!」


「あ?」



 巫女服はサンドイッチ片手にばっと立ち上がった。

 誇らしげに胸を張り、彼女は高らかにこう宣言する。




「――わらわは、神だ。神の子だ!!」




 少しでも期待した俺が馬鹿だった。

 そう落胆すると同時に、こんな謎だらけの巫女服少女(バカ)を体張ってまで助けてしまった自分の行為の無意味さを痛感する。



「おい、なんだその顔は。なんとも思わないのか?」


「いや、まあなんていうか……あれだろ。なあモニカ」


「え? あ、ごめん聞いてなかった」


「ぐぬぬ……おまえら信じてないだろ!!」


「信じるわけないだろ!!」



 ダメだ、こいつと話していると俺までIQが下がる気がする。

 


(俺は、本当なんでこんなやつを……)



 割りと本気で自己嫌悪に陥っていた、そのときだった。


 


 突如として強い横揺れが、店内を襲った。



 

「うわっ、な、なに!? 怖いよコレット!!」


「お、おい……な、なななななんだこの揺れは!!」


「いや、なんで俺にくっつくんだよお前は……!」


「あんたら落ち着きな! そっから動くんじゃないよ!!」



 店長のジャンヌさんの一声で一時的に場の混乱が収まり、ほぼ同時に揺れも収まった。地震……の揺れの類ではなかった。もっと強烈な衝撃、それこそ何かの“爆発”による地響きのような。


 いや、考えるべきはそこだけじゃない――



「姐さん……ここ、()()ですよね」


「ん? ああ、そうだね……」



 店長と顔を見合わせて、事態の深刻さに気づく。

 一般的に、地下は――シェルターでも知られている通り――地震や爆発による揺れの被害が少ないとされている。それはこの《世界(ゲーム)》でも同じだ。にも関わらずここまでの揺れとなると、危機感も当然ながら募ってくる。



「俺……少し外を見てきます」


「ああ、気をつけるんだよ」


「お、おいどこへ行くのだ!?」


「お前はここに居ろ!」



 縋りついてくる巫女服少女を引き離し、俺はすぐさま店口から階段を駆け上がった。これは絶対にただ事じゃない、そんな確信が頭に呪いのごとく付きまとう。同時に、何事もなかった、という結果を望んでいる自分もいた。


 だが、そんな甘い希望は一瞬にして打ち砕かれる。

 ()()()()()()は、往々にして起きてしまうものなのだ。

 


 今の、バグだらけの【Under Brain】では。



「なんだよ、あれ……」



 視線の先に、絶望が佇んでいた。


 ここ、第13廃棄地区の街のど真ん中に、途轍もなく巨大な鉄の塊が鎮座している。直径100mはあろうかというほどの不気味な眼球が()め込まれたドス黒い球体の周囲に、無数の『手』が浮遊しているのが見えた。



 やつの名は《マグナ・オキュラス》。

 少し前のレイドイベントに登場した、最終ボスだ。



 見たところ、あの図体でここまで進んできたわけではないだろう。

 《出現》したのだ。あの場所に、いきなり。

 

 こんなこと、当然ながら普通ならあり得ない。

 これもすべて、《ディスオーダー》の副産物だ。



「……クソッ!!」



 これだから俺は、あいつらが嫌いなんだ。

 

 やり場のない怒りを抱えながら、俺は駆け出した。

 

 出現直後の今は、コアである『目』が半開きの状態かつ『手』も動かないからいいが、あれが完全に開いた途端、すべては終わる。無数の『手』が内蔵する粒子砲が一斉に炸裂し、ここは焦土と化すだろう。地下にいる分には安全かもしれないが、街の負う損害は免れない。


 なんとしてでも、この街の被害を食い止める。

 それが今、戦える俺に課せられた役割だ。

 


地上(ここ)からじゃ届かない……高さが足りない)



 俺の装備するベイオウルフでの有効射程は、せいぜい50m程度。あの見るからに堅牢な装甲を撃ち抜くには、地上からでは明らかに高さが不足していた。迷いかけた俺はひとまず《戦闘体》に換装し、大型ハンドガンの銃口をビルの屋上に向ける。



「《ワイヤー》モジュール、起動(オン)!!」



 銃口からワイヤーもといフックを射出し、屋上付近の柵に引っ掛ける。

 巻き上げと同時に真上に跳躍し、なんとか柵に取り付いた。


 やつの『目』は今も開きつつある。もう時間は少ない。

 逸る気持ちを抑えつつ屋上に降り立ち、敵と退治する。



(効いてくれよ……頼むから)



 頼りない願いを込め、二丁とも敵の『目』に照準を合わせる。

 ここからなら、届く。コアを撃ち抜ける。



「《ベイオウルフ》――エネルギー制限解除(オフ)



 冷静に、音声コードを一句ずつ発音する。



「モード、【殲滅形態(エリミネーション)】」



 銃身側面の紋様が発光する。

 武器(ソティラス)が、俺の声に応えた。



[音声コード、認証完了。モード、【殲滅形態(エリミネーション)】へ移行します]



 二挺の銃が同時変形し、その様相を大きく変えた。

 展開した銃身から突出した新たな銃口が、対象を捕捉する。

 

 

[変型シークエンス完了。反動に備えてください]


 

 【エリミネートキャノン】。

 Eパック二つ、両側合わせて12発分のエネルギーをまとめて撃ち込む技。今できる最大威力の攻撃――それも、Dプレイヤーでもない俺の銃撃だ。これが当たらなければ、多分次はない。


 頼む。頼むから、これで……



(この一発で、()ちてくれ……!!)



 迷わず引き金を引いた。


 その瞬間、目の前が爆ぜた。

 閃光に包みこまれた視界が、限りなく白に近づく。


 恐る恐る、目を見開いた。

 そして俺は、眼前に飛び込んできた現実に絶望した。



「……っ、マジ、かよ――!」

 

 

 敵の本体――『目』は、まだ平然とそこにいた。





 

〈設定コーナーその5〉


◇《ベイオウルフ》(性能について)

 カナタの使用する大型の片手銃。黒の銃身に青緑の電光ラインが走る近未来感のあるデザイン(イメージするならPSYCHO-PASSのアレ)。片手銃カテゴリの中では最大口径、最大威力の代物であり、Dプレイヤーの強化された防御にもそれなりに通用する。マガジン一つが最大12発分。



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