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【Re: Under Brain】~ポンコツ電脳少女と征くチーター撲滅活動~  作者: 水母すい
Chapter.2 歪んだ世界、狂える音と
17/50

Ep.17 虚なる影

前回より、数時間前の話。


 2027 7/7 18:51

 ディデュモイ皇国 港町リメーン

 サンセットブリッジ




「なんだ……なんなんだ貴様らは!?」



 マントを羽織った青年が驚愕の表情を浮かべる。

 青年の名は、マコト。Dプレイヤーの一人だ。

 

 彼の視線の先にいるのは、黒い狐面の少年と白髪の巫女服少女だった。少年の撃ってくる弾丸と少女の繰る《霊魂》をかい潜りながら、人気のない巨大な鉄の吊橋を後退する。


 マコトの周りには、彼と同じ姿をした多数の影があった。



「なんで……()()()()!?」

 


 後退気味の彼を庇うように展開される、無数の影。

 見た目は本物と大差なく、本物と同じく攻撃や回避等の行動も取る。乱戦状態に陥れば、肉眼で見分けることはほぼ不可能だ。まさしく、実体のない完璧な“複製体(コピー)”。


 見分けもつかず、制限なく出せる分身での撹乱。

 彼のディスオーダー、【Faker(フェイカー)】の能力は本来強力なはずだった。


 

 あの異端児が、相手でなければ。


 

「……朔夜、今どれが本物だ?」

 

「えー……あっ、あれだ!」

 

「あれじゃわかんねぇって」

 

「わかるだろ! あれだ! 今こっちちょっと振り返った奴!」

 

「っ、了解……!」



 自称【神の子】、朔夜には視えていた。

 “本物”だけが発する、《アルケー》の核の輝きが。



(クソッ、あの少女……本当に見えているというのか)



 マコトの展開した虚像は個々で短機関銃(サブマシンガン)を連射する。

 しかし、実体のない銃弾そのものはもはや、カナタたちにとって脅威ではない。二人は迷うことなく弾幕の中を突っ切り、本体だけを執拗に追いかける。


 虚像たちは今や、視界の妨げ程度にしかなっていない。



「ふん、無駄な抵抗は止すんだな! 

 そんなまやかしは今のわらわには通用せんぞ!!」


 

 完全優位な朔夜が先行し、赤い《霊魂》――『荒御魂(アラミタマ)』でマントの青年をじりじりと追い詰めていく。その後ろにつくカナタは援護射撃を続けながらも、もう一つの“気配”に注意を割かれていた。


 一方、マコトはバイザー越しに劣勢を感じ、ブリッジからの離脱を試みる。

 


(開けた場所じゃ不利だ……一旦、屋内に……!)



 道路から《ディスオーダー》持ち前の脚力で橋の主塔に飛び移り、そこから一気に付近の高層ビルの屋上へと跳躍する。彼の大移動に伴って、戦場を区切るグリーンのバリアが際限なく拡大していく。


 虚像に囲まれた二人は、本体を目で追いながら、



「に、逃げた!?」

 

「ここじゃ不利だって判断したんだろうさ。次は多分、屋内戦だ」



 カナタは戦況を冷静に分析し、敵の移動したビル群を見据えた。倒すべき本体が移動した以上、ここに留まる理由もない。


 リロードを終え、カナタは啖呵を切る。


「よし、追うぞ」


「おう!」



 

 


 マコトが移動したのは、とあるビルのオフィスだった。

 二人には既に足取りを掴まれている。予め虚像をいくつか配置しておきながら、デスクの陰に隠れて会敵の時を待っていた。



(来たか……)



 窓ガラスが砕ける音が響いた。

 豪快にオフィスに突入した二人は、待ち構えていた虚像たちを見比べて、



(……全部『虚像』だ)

 

(そうか……わかった)



 朔夜の眼に、贋物は通用しない。

 しかしその間にも、虚像は一つ二つと増えていく。


 本体と混同することはまずないが、この狭い戦場、敵の奇襲時に認識の阻害にでもなってしまえば命取りだ。カナタは朔夜に目で合図を送り、朔夜もそれに力強く頷いた。


 カナタが素早く屈むと、朔夜は静謐に口を開く。




「荒御魂・(かい)――『夜振火(よぶりび)』!!」


 


 その直後、部屋が瞬く間に眩い光に包まれる。

 魂としての形を崩した《霊魂》が連なり、少女の手によって赤い半円の軌道を描いては往復する。振りかざされた大火はオフィス全体に拡がり、文字通り虚像を一つ残らず焼き払っていく。



(こいつ――僕をあぶり出す気か!)



 大火は絶えずマコトの頭上を通過する。

 追加した虚像も悉く焼き払われ、潜伏を続けられる状況ではない。



(チッ……!)



 短機関銃(サブマシンガン)とサバイバルナイフを手に、マコトは虚像を盾にしてデスクから飛び出した。荒ぶる炎の下、青年は少女の狙撃を試みる。


 しかし、その一瞬を()は見逃さなかった。


 

「——逃がすか」


 

 身を屈めて同じく潜伏していたカナタが、敵の本体を捕捉した。その場に突然出現するだけの虚像とは違い、本体にだけは潜伏場所から出てくる瞬間が存在する。


 虚像を無視して、カナタはすかさずワイヤーを発射した。



(っ、釣られただと——ッ!?)


 動揺も束の間、先端のアンカーが青年の左足を貫通する。直後に開始されたワイヤーの巻取りによって青年は足下から姿勢を崩されるが、それでも怯むことはなく、



「くっ……まだ、だぁああああっ!!」



 カナタに向かって、短機関銃(サブマシンガン)を連射する。

 ろくに照準も合っていないその銃撃はシールドによって虚しくも阻まれ、さしずめ最後の悪足掻きに過ぎなかった。引き摺られる敵を目の前に、カナタは最後の命令を下す。



「朔夜」


 

 少年が、相棒の名を呼ぶ。

 その瞬間、決着はついた。



「……っ、あ」

 


 火龍のごとく舞っていた大火が、マコトの頭上から急降下した。

 体勢を崩された彼の腹部に、炎は直撃する。


 

「――夜振火(よぶりび)(つい)


 

 朔夜は掲げていた右手を下に振り下ろした。

 隕石のように落下した炎の衝撃は、マコトの《戦闘体》――その下のタイルまでもを破砕し、彼の身体もろとも階下へと突き落とす。



「――があああああああああああああっ!?」



 カナタが自力でワイヤーを切断する。

 致命傷を負ったマコトの身体は、彼の断末魔とともにビルの階下へと落ちていき、ついには見えなくなった。カナタと朔夜は彼の断末魔を最後まで聞き終え、床に空いた大穴を見つめる。


 

[プレイヤー1『マコト』、戦闘不能(ロスト)



 機械音声がマコトの「脱落」を告げる。

 それでもまだ、カナタの気が緩むことはなかった。



「幻影使いのお前の()()は、死んだぞ」



 朔夜の《霊魂》が、彼女の手元に戻ってくる。

 カナタの警戒はなおも解けず、周囲に張り巡らされた「窓」に向けられていた。夜のビル街の風景を映した「窓」に一瞬、黒い人影が通り過ぎる。



 

「薄情な奴だな。

 そろそろ出てきたらどうなんだ、コバンザメ野郎」

 


 

 彼は忘れていなかった。

 この戦いが、2vs2のタッグマッチであることを。



 

 

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