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1話

 午後十一時。雲がない穏やか夜。

 天原あまはら高校の屋上で、その少女は緩やかに舞っていた。


凛音りんね。歪みの調子はどうだ」


 屋上の影からスカジャンを羽織った赤い長髪の女性が現れる。

 彼女の問いに、少女は僅かに舞の速度を落として答えた。


「問題ありません。このまま少しずつ修復します」


 スカジャンの女性は「よし」と短く頷いた。

 再び少女は舞に集中する。耳よりも下の位置で二つに結んだ黒髪が、身を翻すと同時にふわりと宙に浮き、夜の闇に溶け込んだ。


「しかし、巫女装束も様になってきたじゃないか。少し前までは、服に着られているような違和感があったというのに」


「成長期ですから。先週から高校生になりましたし」


 少女は器用にも、舞を続けながら自慢気に胸を張ってみせる。


「高校生なら成長期はもう終わりだろう」


「……そんなことは、ありません」


 少女は器用にも、舞を続けながら背中を丸めて落ち込んだ。

 同世代と比べて背丈が低い少女としては、否定したい一言だった。しかし実際のところ、自分の成長期が終わりを迎えている自覚は薄々あるので強く否定はできない。


「……妙に騒がしいな」


 ふと、スカジャンの女性が呟く。


「霊ですか?」


「いや、神だ」


 女性は短く答え、眼下に広がるグラウンドを一望した。


「我々が今、対処している神痕しんこんとは別物のようだが……念のため結界を張っておこう。凛音は引き続き巫女舞に専念していろ」


「分かりました」


「部外者の目に気をつけろよ。こんな夜中に学校の屋上で……しかも巫女装束を纏って舞をしているなど、傍から見ればかなりハイレベルの不審者だ。弁解の余地はないと思え」


「いや、その、別に好きでしているわけではないのですが」


「とにかく慎重にやれ」


 そう言って女性は――屋上から飛び降りた。

 怪我の心配はないだろう。少女は舞を続ける。


 ――別に好きでしているわけではない。


 ポロリと口から出てしまった本音は、後になって少女の心を蝕んだ。

 そう。別に好きでこんなことをしているわけではない。自分は先週、高校生になったばかりの十五歳の少女だ。思春期で、青春を謳歌できる若々しい世代である。それがどうして、こんな終電ギリギリの真夜中に、学校の屋上で一人踊り続けなければならないのか。


 多分、自分は不幸な人間なのだろう。

 だから、きっと自分より不幸な人間を助けるための役職に就いているのだ。


「可哀想な姉さん。……私が助けてあげますよ」


 溜息混じりに呟いて、少女は巫女舞を続ける。

 その時。金具が軋む不気味な音と主に、屋上の扉が開いた。


「――誰ッ!?」


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