公爵様の妻になりましたが、実は伝説の歌姫と呼ばれる聖女でした!〜公爵様に望まない結婚だと言われました〜
拙い文章ですがよろしくお願いいたします。
「お前との結婚は、望んでいないものだ。俺は、お前のことは好きになれない、とお伝えしてくださいと頼まれました」
な、なんで・・・?私は、ただ。
そのまま私は言葉が何も聞こえなくなって──
「ん・・・うーん、知らない天井だ」
そう言って、手を上に上げる。
私、フィオナ・ラーリアは聖女だ。歌を歌うと魔力が歌に沿って流れて、癒やす、という特殊な力を持っているけれど。そして、歌が大好きだ。
だけど私は私の父さんと母さんは不慮の事故で亡くしたしまった。その時私は、父さんと母さんの約束を破ってしまったのだ。
『絶対に、憎しみがあるときに歌ってはダメよ。あなたは、沢山の人を癒やしてちょうだい』
私は、父さんと母さんが不慮の事故で亡くなったのではないことを知っていた。不慮の事故にした実行犯なんてどうでもよかった。たった一人の犯人を、指示したやつを、殺してやる。そうして私は、呆気なく殺してしまった。犯人を。証拠もない中殺すということは、すなわち一方的な犯罪である。だけど誰も歌にのせて尖った魔力を送り込み殺したなんて気づきもしなかった。爆発した感情と魔力は証拠すら残さないほど一瞬で人の命を奪った。
だけど私は気づいてもらえたほうが心は軽かったのに、なんて自分勝手で矛盾したことを考えていた。
そうして私はそれを戒めにした。歌を、歌ってはならない、と。いつまたこんな事が起こるかわからないのだから、と。そうして私はあんなに大好きだった歌を歌うことをやめた。あれは幼い頃で今はもう、年頃の令嬢で感情を爆発させることはないかもしれない。だけどまた近くで大切な人を失ったら、私はまた同じことをしてしまうかもしれないから。
「起きましたか?奥様」
「奥様・・・?」
「わたくし、レインと申します。今日から奥様の専属メイドをやらしていただきます」
今完全に思い出した。そもそも私は、こんな幼い頃のことを思い出してなんていられない状況だった。
私は、ウィルアス公爵夫人になったのだった!!
「そうなの。よろしくね」
「はい。ところでお機嫌の方はよろしいのでしょうか?」
レインは金髪の女の人だった。すらっとしていて、高いところでポニーテールにしている。どこかの貴族の令嬢であることは間違いないだろうか。
「え?ええ、大丈夫よ、ありがとう」
「いえいえ、謝るのはわたくしの方でございますわ。旦那様といったらもう。奥様のことがお嫌いではないのですよ。ただ旦那様は少々結婚がしたくないようでして」
本当に。なぜそこまで嫌われなきゃいけないんだろう。私は別に、変なことはしていないと思うのだけど。でも、望んでいない結婚ってまるで私が押し付けたみたいじゃない。レインに聞いてみようかな。新人メイドではないようだし。
「ねえレイン。ウィルアス公爵様からみて私って結婚を図々しく頼み込んだ嫌な奴、なの?ああ、事実を言ってほしいの。これでもそんなにメンタルは弱くはないもの!」
「はい。かしこまりました。そもそも旦那様は──」
最後まで聞いて私が思ったのはお父様!!という怒りだけだった。
私は元平民。今は公爵家の娘だ。まあなぜそんな急に位あがってるの!?っていうところなんだけどなんか母さんの伝手らしい。母さん、何者!?と思わなくもない。
そしてお父様はなんだか私を溺愛していて親として愛したいと思うが、同等の関係でお前を愛してくれる者がいた方がいい、なんて口グセをよく私にしていた。
そしてお父様から、私に怒られると思ったのか言われていなかったけれど、このウィルアス公爵様に頭を下げてまで結婚してくれ、といったらしい。同じ階級の貴族のほうが娘を愛してくれるだろう?とか言って。同じ階級といえど私、ラーリア公爵家は王族から始まった家。ラーリア公爵家のほうがウィルアス公爵家よりも格は上だった。だから、断れなかったらしい。
しかも、ウィルアス公爵様が結婚したくなかったのは、昔、恋をしていた女の子を今もまだ想っているからだそうだ。今はもう、消息不明だそうだけど。それに、ウィルアス公爵様はその女の子のことは誰にも話さないらしい。想っている人がいる、としか。
「そ、そうなのね」
顔が引き攣りそうになるのをなんとか抑えつつ私はレインにそういう。
「ねえレイン。私、そちら側が納得されている、とお父様に言われていたのよね。お父様、今度捻り潰してくるわ」
満面の笑みでそう言われたレインは少し引いている。だが私は怒っているのだよ、覚えとけよ。
「そういえばここが私の部屋なの?」
「おっしゃるとおりでございます。申し訳ありません」
なぜ謝っているのかは、すぐ分かった。平民の頃は全く持って、へ?だっただろうが令嬢となり言葉の裏までよめ、と言われたから、わかるようになった。
つまり、私は今ベッドで寝ている。寝室は?ということだろう。
「いいのよいいのよ。私が悪いんだから」
「いいえ、昔の恋を引きずる旦那様がだめなのです」
「というかさっきからレイン、あなた自分の主人のことそんなふうに言って大丈夫?」
「問題ありません!わたくし、奥様の専属ですから!」
専属をやたらと強調するあたり、すこしウィルアス公爵様のことを不満に思っていたのかもしれない。そもそもウィルアス公爵様にケチつけようとも私、ラーリア公爵家の方が上だからまあ、なんとかなるやろ、みたいな感じかな。
「今日私がすることはないの?」
「特にございませんね。そもそもここは本邸ですが一番端っこですので誰も人が通りませんし、何言っても大して問題ないかと」
「そう、ねえ、レイン?ウィルアス公爵様って騎士よね。怪我とか、しないの?」
「まあ、旦那様は強いですし、並大抵のことでは」
「そうなのね〜。私、ウィルアス公爵様に嫌われているけれど、仲良くなれないかしら」
お父様に言えば、ウィルアス家が危ないかもしれないし、仲良くなるしか方法はない気がする。仲良くなる、というのもやっぱり令嬢としては言葉遣いがなっていないのだろうか。だけど、なんだかレインは信用できる気がするから肩の力が抜けているのかもしれない。
「そうですね、旦那様はあまり好き嫌いもなく好きなものもないですからね。早すぎるかもしれませんが今度、お出かけを誘ってみては?」
土の日が2回くらい回ってから誘おうかな。それまではちびちびと信頼を得ていきたいところである。
夕食は、ちょっと今日はいらない、と言い寝ようとしたが健康が、などと言われ自室に運ばれてきたので美味しそうだったから一応食べて、寝た。
「って、ウィルアス公爵様にまだ一度も会えていないんですけど!?」
一日目を私が逃したのは悪かった。そう思ってるよ?だけどさ。そこから家に帰ってこないのはやばくないですか!?もう土の日が2回過ぎかけているのだけど!
「奥様、明日には帰ってくるそうです。その日にしましょう」
「そ、そうなの!!ありがとう!」
もうレインに完全に素の自分をさらけだしている。レインはそちらのほうが外見にあっていますし、などという悪口なのかなんなのかわからないような言葉をかけられた。多分悪口じゃない、はず。もう、話したこともない人にたいして思いをふくらませるのはきつかったんだから。
「早く寝て明日に備えるわ。レイン、お願いがあるのだけどウィルアス公爵様に頼んでおいてくれないかしら。お出かけに行きたいです、と」
「自分で伝えたほうが行きやすいと思いますよ」
「や、やっぱそうよね、起きておくわ」
こうやって気兼ねなく話し合えるのもレインといることのいい点だ。
そこから、かなり待った。もう多分、深夜だと思うのだが。騎士ってそんなにきついのかな。そういえば騎士の中でもなんだっけ・・・?団長だっけな。それくらい強かったんだっけ。
「お帰りなさいませ、ウィルアス公爵様」
一応、丁寧な言葉で。第一印象くらいはちゃんとしておきたいと思う。というか、今も下を向いているから、ウィルアス公爵様のことをまだひと目も見ていない。なんだかお父様も私の好き嫌いも考えずにお見合いもさせないなんてすごいな。
私のタイプだと判断したとか?
「ん?こんな時間まで待っていたのか?というか、そんな使用人みたいにならなくていいんだが・・・」
少し困った口調で言う私の夫となった人。ウィルアス公爵様。だけど、素を見せたらこんなやつ令嬢じゃないだろ、と言われそうで怖い。だから、令嬢モードでいく。
「申し訳ありません。あの、お誘いがあるのですが」
「誘い?茶会か?」
「いいえ、わたくしとお出かけしてほしいのです」
は?というようにして顔を顰めるウィルアス公爵様。確かに、初めて会うのにそれはおかしいのだろうけれど。親睦を深めるに一番手っ取り早いと感じた。
「出かける、だと?なにか用事でもあるなら外商に頼めばいいだろう」
「いいえ、わたくしはウィルアス公爵様と行きたいのです」
「・・・う、ウィルアス公爵様、か。まあ、少しなら付き合おう。明日は用事がないからな。外聞も良くなるだろう」
「・・・っ!ありがとうございます!」
さて、なんの準備をすればいいんだっけ?服とか、何持ってこうか、とか。うーんうーん悩んでいると、ウィルアス公爵様はなにか呟いていたが私には聞こえなかった。
「いきなり雰囲気が変わらなかったか・・・?」
「では、わたくしは寝ますね!」
「あ、ああ」
「ふふん、ふふ〜ん」
鼻歌を歌いながら飛び跳ねるように歩いて自室まで行った。それを見つめながら何かを話すウィルアス公爵を置いて。
ウィルアス公爵目線
「フィオナ・ラーリア。ラーリア公爵の溺愛を受けているから我儘を極めているのかと思ったが思ったよりもそんなことなかったな」
それにしてもフィオナ、俺の妻となったものは表裏があったな。まるで頑張って令嬢となっているみたいに。素はまるで平民みたいな。気軽い感じだったな。俺のタイプにはあっている・・・
「いや、俺が決めたのはただ一人、フィナだけだ。平民だった、伝説の歌姫。俺はまたあの歌を聞くまでは」
そう言って首をふる。まるで、フィオナに対する好意を振り払うように。だけど、俺が昔恋したフィナに、フィオナは似ていた。銀髪で薄紫色の瞳をしたフィオナと、フィナの共通点といえば、銀髪であることと顔立ちが似ているように感じることだけだ。フィナは金色の瞳をしていたから。そもそも彼女は歌を歌うことが大好きでいつも歌っていた。メイドに質問してみたが彼女は全く歌を歌わないそうだから、別人であることはほぼ確定しているだろう。
明日は出かけるといっていたし女性は買い物に振り回してきて疲れるとよく騎士たちが言っているから早めに寝て体力を復活させておこう。フィナに似ているからか、少し楽しみな部分もあるな。
「ウィルアス公爵様、遅れましたわ。申し訳ありません。さあ、行きましょう」
そういいながら俺の手を掴み街へと歩いていく。好奇心があっていい、とは思うけど令嬢としてはなにか抜けているなと感じてしまう。
「そのように急いでも転んでしまうぞ」
「いえいえ、善は急げと言いますし」
何が目当てなのだろう。今更だが何をかわされるか不安になってきた。騎士たちは毎回出かけるのは恐怖だ、とかいっていたし。高額なものをバンバンかわされたらどうしようか。流石に止めよう、うん。俺なら止められるはずだ。
その後、フィオナに連れられてまず最初に、肉団子とやらを二人で食べた。こいつやっぱり令嬢じゃないな?
「なあ、宝石とかはいらないのか?」
「宝石ですか?うーん、そうですね、特にありませんが」
「えっ?ないのか?」
奥さんは誰だって宝石が好きだと聞いていたのだかが・・・!?
いつのまにか奥さん、ということを認めてしまっているようだが、外聞は大切だ。
「え?はい。あ、疲れましたし、何か食べますか。ウィルアス公爵様は何が食べたいのですか?」
「いや、特に食べたいものはないが」
「なら私が決めますね!」
フィオナって、一人称私だったか?わたくし、だった気がするが。興奮すると素が出てしまうのかな。
「美味しいですね〜ウィルアス公爵様」
「そう・・・だな」
初めてあって初めて共にでかけた。ただ一回、それだけなのに俺はフィオナのことを悪くないな、と思ってしまった。フィオナはフィナに似ている。だから、その面影をうつしてしまっているのだろう。フィオナに悪いなと思いつつもうつしてしまうのはやめられない。きっと、願望なのだと思う。フィナじゃなくていい、似ているならそれでいいからそれを愛せ、と。
俺はもう、フィナは亡くなったのだと心のなかでは思っていた。それから、目を逸らしていただけなのだ。だから俺はもう、諦めなければならない。俺は、フィオナ・ラーリア公爵令嬢を愛すればいいのだ。
「ウィルアス公爵様・・・!騎士団からの招集です!!最近頻繁に魔物の出る魔の森でイレギュラーがついに発生しました!!急ぎ、準備を!」
走ってこっちに来た俺の執事は焦った様子でそういう。そうだ、魔の森は最近、奥にいるような強い魔物が出てきていた。まるで、なにかに追い出されたように。
魔の森はフィナと共に過ごした短い間の思い出。あそこを失うわけにはいけない!
「済まないが、家に戻っておいてくれ!」
「え、だ、大丈夫なのですか・・・?」
「大丈夫だ、すぐ戻る!」
フィオナ(主人公)視点
「ウィルアス公爵様、大丈夫なのかな。魔の森といえば、私とクラウスの思い出の場所なのよね。忘れていたけれど、あそこで私と友だちになったドラゴンはどうなったのかな・・・」
ウィルアス公爵様とのお出かけは思いの外楽しかった。まるで、昔私と友だちだったクラウスみたいだったから。だけど、彼は私のことが好きじゃない。それに本当に私が彼を好きになってしまったら本当に、彼に対しての押し付けになってしまう。それだけは、避けたいと思った。だから、彼に恋愛感情は持ちたくない。もう、遅いかもしれないけれど。
「大丈夫かな、ウィルアス公爵様」
「・・・大丈夫ですよ。強いですし」
レインが迎えに来てくれたから私は一緒に家に帰る。騎士の生活など見たこともないし、もしかしたらそのイレギュラーってやつも、頻繁に起こるのかな?それにしては、焦っていたけれど。
「もう暗くなってきましたね。旦那様はいませんがご夕食にいたしますか?」
「いや、待つわ。喉を通りそうにないもの」
本当に、怖い。今日また、昔みたいに好きだった人を失うことが。そんな私の心を理解したのだろうか、レインはそのまま何も言わず立ち去り、私は一人自室にこもった。
「だけど、そんなに深刻なのかな。すぐ帰って来るよね、まさか私が結婚してまだ一ヶ月も経っていないのに、そんなわけね」
自分を落ち着かせるために、大事にはなっていない、と言葉に出す。だけど悪い予感ってやはり、どんなときでも当たってしまう、というものだ。
不意に、ウィルアス公爵邸が騒がしくなった。ウィルアス公爵様が帰ってきたのだろう。やはり、無事だった。
「ウィルアス公爵様はどこですか!」
「奥様・・・こちら、です」
私はウィルアス公爵様がいるという部屋に連れて行かれた。その時私は、気づいてしまった。いや、もう騒がしかった時点で気づいていたのかもしれない。事実を見ないように、顔を背けていたのかもしれない。
「奥様です。通して下さい」
「かしこまりました」
「奥様、わたくしもいたほうが良いですか?それともお一人のほうがよろしいのですか?」
「一人がいいわ」
そーっと部屋に入ると、ウィルアス公爵様は、眠っていた。特に、負傷した様子は見られない。ただ、眠っているだけだ、と普通の人ならば思うだろう。しかし、これでも私は歌姫と呼ばれた聖女。一瞬で見抜いた、これは、呪いだ、と。魔力の色、そこに呪いが混じっているのがわかる。そして、私の友だちだった、ドラゴンがかけたっぽい。あのドラゴン、許さない。だけど、これじゃあもう手遅れだ。
「ウィルアス公爵様、起きて下さい!ウィルアス公爵様!!」
そこで、ふと気づいた。ウィルアス公爵様は騎士団の服装をしている。そこに刻まれた名前に。
そうだ。私は、ウィルアス公爵様の、名前を知らない。
そこには、こう綴られていた。
クラウス・ウィルアス
「クラウス・・・?」
よく見ると、ウィルアス公爵様はクラウスによく似ている。いや、この魔力の色はクラウスしかいない。私には、魔力の色も見えるから。
「・・・っ!」
覚悟を決める。私は、クラウスを治す。だって私は、歌姫なのだから!
「〜♪」
私の周りに金色の光が現れ、私とクラウスを包み込む。
「あなたは・・・フィナ?」
「〜♪そうだよ、クラウス」
歌いながら、私は今すごく聖女してる、と思った。金色の光に包まれながら歌う。きっと今の私の瞳の色は金色なのだろう。歌を歌うと魔力が通っているからか、色が変わるのだ。
「・・・っ!フィオナ・ラーリア公爵令嬢、俺の妻になってくれませんか?」
ゆっくりと起き上がったから、ウィルアス公爵様はクラウスはもう大丈夫なのだろう。よかった、治って。今度あのドラゴンにお仕置きに行かないとね〜。と思っていたら、爆弾発言が起こった。
「え?いや、え?」
突然の発言に戸惑いを隠せない。なんなら状況が飲み込めていなかった。というか、そもそも私たちは夫婦だ。
「本当の、仮初ではない俺の妻になって欲しいんです。今までのことは本当に申し訳ありませんでしたっ!」
「あ、いや・・・いいよ。ウィルアス公爵様、わたくしの夫になっていただけますか?」
「ああ、フィオナ・ラーリア公爵令嬢、俺の妻。これから、よろしく頼む。それと、俺のことはクラウスでいい」
「クラウス様。私はあなたのことを愛していました。好きです」
完結
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