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14.

「いい感じに丸く収まってよかったー」


 いまにも鼻歌でも歌い出しそうに軽やかに足を進むリチェの背中を見ながらレオはさきほどまでやりとりを思い返していた。


 今回、リチェが引き起こした騒動にやってきた執政官ははじめて見る人物、クローニだった。

 こういう騒動ははじめてではない。リチェとの旅路は変哲もない田舎の街だとしても、こんな風になにかしらのトラブルに巻きこまれしまうのだ。


 まったく嬉しくもない話だが、数多くない宮廷に仕えている執政官たちの顔にレオは顔馴染みができてしまっている状態なのである。

 そのため今回、はじめて見るクローニを見てレオは察した。大方、リチェがまた騒動を起こしたと知った執政官たちが、なにも知らない新人のクローニに押し付けたのだと。

 今回は比較的、大きな問題だと判断したらしく、リチェが王に連絡してすぐに執政官を派遣してくれた。異例の対応である。

 しかし、この異例な対応はリチェの場合、ままあるのだ。

 それに振り回れるのはレオもしかり、執政官たちしかり。これまでの経験から他の人間に回せるなら回したいと考える執政官たちの顔が浮かぶ。

 王はリチェに対して、大変甘いのだ。


「思ったより早く片付いたし、街のスケッチしちゃおうかなー。うーん、悩ましい」


 悩ましいと口にするリチェの顔は明るく、好奇心がにじみ出ている。

 なにも知らない人間が見れば、物好きのどこにでもいる青年に見えるだろう。

 そう判断することは正しくも、間違ってもいる。


 レオはリチェほど才能あふれる人間を見たことがない。

 王がリチェに甘い理由も理解できてしまう。


 新人のクローニもしかり、宮廷勤めの役人官僚たちがリチェを架空の人物だと思い込んでしまうほど、リチェの生い立ちは少々複雑だ。


 リチェもとい、リチャード・ダブスキーと言う人物は幼い頃に両親を事故により失った。幼すぎて両親の記憶があいまいなほどだった。その後、遠縁の老夫婦に引き取られ育てられた。

 そんなリチャード・ダブスキーを周囲はあわれんだ。

 しかし、当の本人はあっけらかんとしていた。記憶がないのだから悲しみはしない、と。それよりも老夫婦に温かく育てられたことに感謝し、大切に思っているようだった。


 すくすくと育ったリチャード・ダブスキーは頭角とうかくあらわした。

 魔力を保有していることがわかると、国の教育機関に通うことになったが、すぐさま膨大な魔力量と天才的な感覚を発揮したリチャード・ダブスキーのことを大人たちは手に負えなくなった。

 本人の感想とすれば「そうなんだ」という、そっけないもので、周囲の大人たちが怯えるような陰謀ーー反乱クーデターや国を征服するなどということにまったく興味がなく、むしろ「そんな面倒なことする人の気持ちがわからない」という言っていた。

 野心のないリチャード・ダブスキーの興味は画を描くことに一番に注がれていた。ひまさえあれば、様々な画を描いて過ごしていた。

 老夫婦も周囲にどんなことを言われても、リチャード・ダブスキーをしばることなく、いつくしみ好きなようにさせていた。


 穏やかな月日を過ごし数年経った頃、老夫婦が相次いで亡くなった。リチャード・ダブスキーは大変悲しんだ。

 そして、その時にわかったことだが両親の莫大な遺産があり、老夫婦はそれを大人になったリチャード・ダブスキーに渡そうと堅実に管理していた。

 そのことを知ったリチャード・ダブスキーはさらに老夫婦のことをしのんだ。


『決めた! 僕は僕の生きたいように生きる!』


 7日間、喪に服したリチャード・ダブスキーはそう宣言した。

 周囲の大人たちは慌てたことだろう。

 老夫婦がいた頃は、おとなしくしていたリチャード・ダブスキー。しかし、いまや行動制御するものがなくなり、一生を暮らせる十分な遺産と国1つ簡単に崩壊させてしまうほどの膨大な魔力を持つ人間。大人たちがもっている交渉材料は何ひとつとしてなかった。


 だが、そんな大人たちの不安をひと蹴りしたのも、またリチャード・ダブスキーだった。


『僕はこの国を嫌いだとは思わないし、壊したいと思わないよ。気の向くままに旅をして画を描ければいいんだよね』


 それを聞いた王が考え与えたのは、どこにでも自由に移動することができる監察官である。

 監察官という役職自体あったものの、長らく空席だった。なぜならば監察官に与えられる権限が国にとって猛毒になるからだ。

 しかし、リチャード・ダブスキーにはその心配はいらない。その上、国として最強の人材を確保できる。


 ただ、監察官としての権利を与える代わりに、最低限の監察官として義務をになってもらうことが必要であった。


 果たして野心のない人間が引き受けるか懸念はあったが、面倒な手続きなしで国中を歩き回れることを知ったリチャード・ダブスキーは快諾した。


『いいよ。数多あまたある街や村で事件なんて、そう簡単に出会うなんて滅多にないことだからね』


 くしくもこの言葉の正反対になっていることはリチャード・ダブスキーこと、リチェも予想外のことだったのではないかとレオは思っている。

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