13.とある監察官の
監察官とはーー国家に関わる役人官僚を中心に監督査察を行う、王直属の配下。不正を糾すために、ありとあらゆる権限を与えらている。その印として王族の紋章が刻まれた記章を持つ。
現在、その役職についているのはただ一人。リチャード・ダブスキーという男。
しかし、その人物は本当に”実在”しているのかと王城内で度々話題になることが多かった。
なぜなら、その男の経歴と噂があまりにも現実離れだったからである。
まず、ダブスキーという血筋は実在していたが、その中でリチャードと言う人物は十数年前にぱたりと記録が途絶えているということ。そのため詳細がわからず、生い立ち存在を証明する者がいないということ。
そして、まことしやかに噂されている内容が、SS級と言われる竜を一人で倒した、山を1つ消したなどというお伽話のような話ばかりであるということ。
そのため宮廷勤めの役人官僚の中では、不正を抑止するための”架空の人物”だとする噂が公然の事実とされてきていた。
新人執政官であるクローニも例外なく、そうだと考えていた。
「困っちゃうよ。みんな他人事だと思って、面白おかしく脚色しちゃうんだから」
リチェはやれやれと手を左右に広げて肩をすくめる。その指先にある記章にはしっかりと王族の紋章が刻まれている。
「じゃ、そういうことなので、あとはよろしくね」
落としてしまった荷物をポシェットにすべて収納したリチェはひらりと手を振る。
クローニは混乱しながらも、思わずリチェを呼び止めた。
「え、ま、まってください」
「え?」
こてりと首を傾げたリチェはクローニと目線が合うと、ふっと力の抜けたやわらかい笑顔見せた。
「大丈夫ですよ。その若さで執政官に選ばれているのだから」
そう言われたところでクローニも、そうですねと納得はできなかった。
若さという点で言えば、リチェもクローニとほぼ同じ年頃に見えた。むしろ噂や存在から考えれば、リチェが監察官に選ばれたのはもっと若かった頃に違いない。
そんな人物に”若さ”と”優秀さ”を讃えられても、素直に受け止めることなどクローニにはできなかった。
「いや…でも…」
きっとリチェに会う前までのクローニだったら謙遜しつつつも素直に受け止めていたことだろう。
しかし、出会ってしまったのだ。
「あぁそうだった。どうか、僕のことはご内密に。これでもお忍び旅なんですよ」
リチェは口元に人差し指を立て「しー」と静かに笑った。
そう言われたクローニは困った。内密にと言われても、内密にできるわけがない。
「リチェ。無茶を言うな。こんだけの騒ぎなんだから」
戸惑うクローニの心を察したように、それまで黙ってリチェたちの様子を見ていたレオは口を開いた。
「クローニなら初回報酬でやってくれるかなーって」
「ったく。なにを言っているんだ。また色々言われても俺は知らないからな」
「んー。それは困るかも」
「なら諦めろ」
クローニは主人に対する態度とは思えないほど無愛想なレオにたじろぎつつ、リチェの反応を見た。
「レオはほんと真面目なんだから」
リチェは楽しそうにクスクスと笑う。
どこに楽しく笑える要素があったのかクローニにはまったくわからなかったが、頭を悩ませる事柄が1つ減ったと言うことだけは理解できた。
「そうだね…この件の処罰を下したのは監察官リチャードにしてもらっていいよ。でも被害にあった旅人ーー放浪画家リチェとその護衛は証言をしたあとすぐ旅に出たと言うことで、お願いするね」
監察官リチャードと放浪画家リチェは”別々の人間”だと言うのが、決定事項のようだった。
犯人の供述や証言とも報告書とも不自然なく合わせることはできるので問題はない。
「あとの街のあれこれは執政官どのにお任せするよ。どちらにせよ。それは僕の範囲外だから」
リチェのゆるい口調でありながらも、有無を言わさない不思議な雰囲気にのまれたクローニは返事をただ返すことしかできなかった。
「…かしこまりました」
「ありがとう」
レオはそんな2人の様子を見て、疲れたようにひっそりため息をこぼしたのであった。
●執政官、監察官など
仕事内容など、史実とは異なるオリジナル設定を加えたファンタジーな世界です。




