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11.無礼者

「まったく、どうなっているんだ…この街はっ」


 新人執政官(しっせいかん)のクローニは頭を抱えた。

 昨夜遅く、宮廷の職員棟で休んでいたところに緊急招集がかかった。何事かと、驚きながらも急いで執政官室に入ると「お前がいけ、それが新人の仕事だ」と突然言い渡された。

 もちろん、そのつもりではあったが緊急で呼ばれるほどの重要な案件ではないのか?と疑問をもったものの、場所が僻地へきちとも言える王都から遠く離れた田舎町だと聞いて、なにか事件が起きていたとしても経験豊富な先輩方がいくような内容ではないだろう。確かに自分が適任だと思った。

 そうして夜明けをまって空間移転魔具で飛ばされた場所は事前情報通り、よくある田舎町であった。観光資源に乏しく、街の周囲にある山場から切り崩し採掘して資源を得る。


 教科書通りの状態だったのは、ここまでだった。


 どうやったら、ここまで悪政してきたのだろうか。

 清く正しくと正統派貴族として歩んできたクローニにとって驚くことばかりだった。


 領主はこの街を代官に任せっきりにしていたらしい。当然と言えば当然であるが、それは正しく機能していればの話だ。

 地方になればなるほど自然は広がり、人々が住む街は点在する。それを1つ1つ管理するのが難しい。そのために領主の代わりに街を司どる代官という役職が存在していたはずなのに。


 その代官が不正を行っていた。


 この街の代官は相当、頭がよく外面が良かったらしい。領主は代官の言葉を信じて、疑うことをしなかった。いや、疑うことができなかったというのが正しいのかもしれない。

 どの資料や調査書を見ても「この厳しい状況の中、よく街を治めている」と評判がよく、ほこり1つも感じているようなものはなかった。その上、数年に一度、定期的に行っている国の監査もくぐり抜けていた。


 その完璧さが、いま見れば不自然だった点と言える。


「はぁー」


 国へ申請すべき宝石の採掘を隠し、はたまた禁止している子供や老人を劣悪な条件で違法労働させていた。

 そうして代官と採掘場の責任者は利益を得ていた。

 街の誰もが信じていた人物が、実は自分たちに苦行をしいていたと知ったら、人々はどうなるのか。

 いまは箝口令を敷いているが、長くはもたすことはできない。執政官としてどう対応すべきなのか。


「執政官どの」


 思考の沼に落ちていたクローニはドンドンとドアを強く叩かれ音にハッと顔をあげた。


「入れ」

「失礼します」


 あわただしくも、なんとか礼儀を保った挨拶を交わした街の役人ーー警備隊はクローニに報告する。


「今回の場に居合わせた人物が現れました!」

「なんだと、すぐに連れてこい」

「は、はい。あの、それで…」


 返事をした警備隊はクローニに恐る恐る声をかけた。


「まだ、なにかあるのか?」

「そのこれはわたくしの言葉ではなくて、その人物が伝えてほしいと言っていたからであって、決して私が無礼を働こうと…」

「御託はいいから、早く言え」


 クローニがひと睨みすると、警備隊は震え上がった。そして、ごくりと喉を鳴らして、ゆっくりと口を開いた。


「『こんなに早く来てくれてたのに、遅くなってごめんね』と、申しておりました」


 クローニは叫んだ。


「早く、その無礼者を連れてこい!!」

「はっはいぃぃ!!」


 国に伝令が飛んできたとのは夜更。

 まことしやかに聞こえてきたのは、その緊急伝令が王の元に直接届いたというにわかに信じがたい内容だった。

 確かに領土内で何か問題が起きれば国へ報告する義務がある。しかし、それは王ではなく執行官室の魔具に届く。王に手順を踏まず、直接伝えることができる人間など存在するはずがないのだ。

 だから、だれもが夜更の中で生まれた冗談のような話だったと思っていた。


 しかし国に仕える執政官にさえ、さきほどのような軽口を叩く人間ならば、王に直接連絡してしまうような愚かなミスをしてしまうのかもしれない。


 常日頃、冷静であれと言われてきたクローニは人生ではじめて、理解しがたい感情を増幅させながら、それを生み出した相手を待った。



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