作戦会議
四人の『士』大尉連合の作戦は開始された。
車座になって打ち合わせ。それぞれが周囲を警戒しながら、力を抜いた体勢で休んでいる。
最初に口を開いたのはウーゴ・ウベルティ大尉。彼はピッキエーレ少佐から聞いた話を三人に披露する。
「……ピッキエーレ少佐が片足を失った件は知っているか?」
「腕の化け物でしたか? 先日の『魔王の眷属』が襲来した事件ですわね」
ディアナ・フェルミ大尉が言うと、ウーゴは首肯した。
「……ああ。その時に一緒にいたのがマクシム・マルタンだ。少佐の話じゃ、彼はかなり活躍したらしい」
「英雄『竜騎士』アメデオ・サバトも参戦したと聞いたよ。最期の戦いになったって。なるほど、孫娘の伴侶だからか」
マーラ・モンタルド大尉は納得したが、彼女はナタリアが英雄のひ孫ということを分かっていない。
だが、その場に訂正できる人がいなかったので、そのまま話が進む。
ウーゴは別の点で、首を横に振った。
「……いや、ピッキエーレ少佐の話じゃ、その時、マクシムは『竜騎士』としての能力はなかったらしい。というか、ほとんど戦闘には参加できなかったようだな」
「え、じゃあ、どうしてその場にいたのよ?」
「……知らん。重要なのは英雄が倒れた後にマクシムがやったことだ」
リオッネロ・アルジェント大尉はずっと黙っていたが──ダメージが抜けなかった──そこでようやく口を開く。
「ああ、防衛戦の話か!」
「……リオッネロも思い出したな。少佐が言うには、マクシムは『竜騎士』が倒れた後に植物を防衛手段として使った。そして、増援の『竜騎士』──まぁ、さっきいたあの子だろうな──が現れるまで腕の化け物の攻撃に耐えた。マクシムがいなかったら、増援が間に合わず、少佐たちは全滅していただろうって話だ」
──正確には、片足を失ったピッキエーレ少佐は失神していたためマクシムの活躍を目撃したわけではない。
他の生き残りの乗員やマクシムが生み出した植物を検証して、報告書を書いていた。
ちなみに、竜たちの軍勢にナタリアがいなかったことも、ピッキエーレ少佐が起きていれば気づいただろうが、分かる人間がいなかったため『士』の中で共有されていない。
ウーゴの言葉が理解できなかったマーラは不思議そうな顔をする。
「えーっと、それ、どういう意味なの? もうちょっと説明してくれない?」
ディアナは了解したという顔で口を挟む。
「いえ、私には分かりました。つまり、英雄が敗北した『魔王の眷属』の猛攻を防いだということですね」
「……正解。マクシムの植物を操作する能力は正に堅牢。この森は城塞に等しいと考えるべきだ」
ウーゴが親指で肩越しに指さした森を他の三人も視線を向けた。
現実的にはあり得ないほど密な森林だ。
緑が濃く、漆黒に近いほど深い。
光を通さず、少し先も見通せないほど密集している。
道は当然のようにないため、まともに中には入れないだろう。
マーラが困惑したように言う。
「竜の攻撃に耐えられる……同じことできる人、『士』の中にいるかな?」
「パオロ中佐は? あの人なら同じようなことができると思いますわ」
ディアナは『士』の隊員誰もが認める、防御術のスペシャリストの名前を出した。
たった一人で、二千人の暴徒を七十時間超足止めした伝説の持ち主である。
「『穴熊』パオロ中佐と同レベル? ヤバすぎるんだけど……」
「……いや、中佐であっても、竜の攻撃はそれほど長く防げないだろ。この森の範囲を考えろ。それ以上って評価した方が良いな」とウーゴが指摘。
マーラの表情が絶望的に曇る。
「え、そんな森どうしようもないじゃない! 攻略不可能ってことっ?」
その時、リオッネロは「分かった!」と叫ぶ。口角泡を飛ばしながら、目を輝かせる。
興奮した同僚に冷たい視線をウーゴは送る。
「……期待していないが、何が分かったんだ?」
「竜以上の破壊力で突破すれば良いんだな!」
「……バカの戯言は無視するぞ」
「え、良い解決策じゃん!」とマーラも追従。
「……訂正。バカ共の戯言は無視するぞ」
「そうですね」
リオッネロとマーラはぶーぶーと文句を言うが、ウーゴもディアナも無視した。
ウーゴは咳払いをして仕切り直す。
「……どこからその火力を持ってくるんだ、という無駄話をする時間が惜しい。現実的な話をするぞ」
「前置きは良いですから」
「……現在のマクシム・マルタンは最悪『竜騎士』としての能力も目覚めている可能性さえある。その場合は諦めろ。正直、俺は既にこの試験を放棄したいくらいだ。だが、やはり数少ない佐官へのチャンスを逃したくはない」
「分かっているから早く策を」
「……この堅牢な森を攻略するよりも、マクシムがこの森から出てくるしかない状況をどうすれば作れるかを考えたんだが──」
ウーゴは三人に小声で策を説明する。
三人はそれぞれ違った反応を返したが、最終的にはその策を受け入れた。




