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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
己の身を捧げながら戦う者『士』
95/235

 マクシムは島の森の中で寝転んでいた。

 文字通り森の中だ。

 地面ではなく、木の枝を組み合わせてハンモックを作り、そこに寝て空を見ていた。


 寝ているのは余裕の表れではなく、休憩である。

 その時のマクシムは疲労感で立っていられなかった。

 さすがに島全体、これだけ大量の植物に能力を使ったことはない。いや、『竜騎士』アメデオ・サバトに襲われた時と規模的には同じくらいかもしれないが、あの時は本当の必死だった。

 限界まで能力を使い、そこで冷静になった。


 ──今、この瞬間に襲われたら危険では?


 そこでマクシムは一旦休息することにした。

 なるべく早めに回復して戦闘に備えたかった。


 ハンモックの位置は大体地面から七メルほどの位置だ。

 視線よりもかなり高くすることで、枝の陰で目立たないよう擬装もした。

 それでも超人揃いの『士』隊員であれば、見つかってしまうかもしれない。

 それを恐れて、マクシムは静かに、静かにしていた。

 呼吸の回数だけを数えて、静かに、静かに。

 マクシムが限界まで能力を使用した理由はシンプルだ。


 ()()()()()()()()()


 全力疾走をした後の開放感。

 排泄にも似た脱力感。


 マクシムは何の制限もなく、全力で能力を振るう心地良さを初めて実感していた。

 空の青さ、木の緑、雲の白。

 そういったものが視界に入るが、ドクンドクンと耳裏で血液の流れる音の方が意識に上る。


 ──疲れた……でも、気持ち良い。


 マクシムの昇任試験でのスタンスはシンプルだ。

 まず、島全体を『庭師』の支配下に置く。

 そこで植物を操り罠にかける。


 マクシムは目を閉じて深呼吸する。

 そうすることでより世界が鮮明になる。

 『庭師』の領域内は手に取るように分かった。


 四人が森の端から進入を開始する様子さえも見えた。

 まだそれぞれが、具体的に誰かは分からない。

 だが、体型からして男性と女性が二人ずつだ。

 四人が手を組んだ動きに見える。

 マクシム以外の参加者は五人。

 だから、一人は森の外で待機しているのか、あるいは、手を組まずに森の外にいるのか。いや、もう既に倒された可能性もあるのか。


 とにかく、一人だけ所在が分からなかった。

 その誰か──人数構成から考えて()がまだ森に入っていないことしか分からない。

 その彼への警戒はしつつ、マクシムは脱力しながら安心する。


 奇襲はない。

 まだマクシムのところに辿り着くとしてもずいぶん先だ。


 ここまで相手の動きが分かれば、対処の仕様がある。

 マクシムは目をつむったまま手近な枝を折り、しっかりと咀嚼して食べる。

 木の道管を通して地下水で水分補給もする。

 リュックの中身の水や食料はできるだけ保管しておく。

 今のところ、マクシムは順調、予定通りだった。


 ──さぁ、これからが勝負だ。


   +++


 その時、ジャンマルコ・ブレッサ特務大尉は()()()()()()()()


 木々が猛烈な勢いで成長をしていたため、その場で動かないようにしたのだ。

 不思議な現象だ。


 マクシムの能力の支配下にある木たちが、ジャンマルコの周囲だけ成長を拒んでいた。

 まるで結界でも張られているように綺麗な球形状の空間。


 空白があった。


 ジャンマルコ特務大尉はそこで静かにしている。

 正座の体勢で彼は思考を深めている。


 ──これからの行動について。


 周囲がどういう状況になっているかは分からない。

 そういった探知は、今のジャンマルコ特務大尉にはできない。

 この森への対処に専念している。

 だから、ある程度戦いが進み、勝者が決まった後で動くのが最善だろう。


 しかし、そうすると勝者はマクシム・マルタンの可能性が高そうだ。

 ジャンマルコ特務大尉はマクシム・マルタンを打倒することだけのために参加を決められた。

 つまり、完全決着の少しだけ前に動き出す必要があった。


 ──それにしても凄いな。


 周囲の森を見て思う。

 さすがにこの規模の能力は想像以上だ。

 これだけのことができるのであれば『士』にスカウトすべきではないだろうか?

 どう考えても、伝説の英雄クラス。

 『士』の佐官に相応しい人材だ。

 しかし、頭領の意向に沿うとそれは不可らしい。

 優秀な人材は常に求めているはずなのに、いろいろ大人の世界は奇々怪々。


 ──ま、しばらく待機だな。


 そう考え、ジャンマルコ特務大尉はのんびりと座ったまま目を閉じた。


「ぐぅ」


 そのまま寝息を立てながら寝た。

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