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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第1部 敗北を知らぬ者『武道家』
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お前の名は

 ――何かが狂っている。


 それがマクシムに対するニルデの正直な感想で、思わずため息をつく。

 ニルデの手足はまるで動かない。

 これがどういう毒による作用かは分からないが、再起不能であることは確信できた。

 それは長年、鍛錬を続けてきたからこそ養われた勘ともいうべきもの。

 そして、『武道家』がアダムの一族に抱いていた悪意はそれほどまで大きかったのか、と考えていた。


 強い悪意。

 それは憎悪から生まれるものではない。

 それは()()から生まれるものだった。


 まだまだ修行が足りないな、とニルデは――いや、『武道家』は考えた。

 さて、これからも戦いは、そして、人生は続くのだ。

 ニルデはマクシムに謝罪の意味で告げる。


「お前の能力はおそらくはアダムとは異なっているな」

「はぁ……そうなの?」

「ああ、マクシムは植物を変化・操作するんだろう。生き物は不可能だよな?」

「うん。動物は無理だね」

「アダムは『料理人』だった」

「あー、うん。そう」

「あいつの作る料理は美味しかった。俺はもう二十七代も経験を重ねてきたが、アダム以上の『料理人』を知らない」


 マクシムは首を傾げる。

 ニルデの雰囲気がおかしかった。

 今までは違和感はありつつも、少女らしい空気があった。

 しかし、今の彼女は――年老いた男性のように見えたのだ。

 そういう面は元々あったが、より顕著に明らかになったという方が正確な表現だろう。


「ただ、ひとつ疑問点がある」

「えーっと、どういう話か分からないけど、何?」

「『魔王』のいたあの暗黒大陸は、まともな生き物がいなかった。我々の知識の外にある存在ばかりだった」

「そうなんだ」

「しかし、『料理人』は栄養バランスも良い食事を提供してくれた」

「うん」

「新鮮な肉もたっぷりあった」

「うん」

「『竜騎士』の使役する竜の分もアダムが担当、用意していた」

「うん」

「大量の肉だった」

「うん」

「どう考えても、毎日、現地調達したとしか考えられない」

「うん」



()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「え?」


 マクシムは適当に相づちを打っていたから聞き逃しそうになった。

 何の生き物か分からないが新鮮な肉。

 それを毎日?

 どこから仕入れたのか、六人の英雄たちは誰も知らなかった?

 そもそも、誰も疑問に思わない?

 そんなことがまともにありえるのだろうか?

 少し考え――マクシムは息を呑む。

 正体不明の肉を大量に用意する。

 それは家で畜産もやっていたマクシムだからこそ、理解できない気持ち悪さがあった。

 そして、曾祖母の兄は勇者だったのかもしれないが、かなり謎の多い人物だということが分かった。

 ニルデはボソボソと続ける。


「考えてみると俺たちは美味しいと絶賛していたが、誰もどうやって用意したのか、知らなかったし、考えもしなかった……」

「いや、何で?」

「分からない。いや、『予言者』だけは知っていたのかもな。だから、あいつは自殺してしまったのか……。もしかして、世界を救った後の俺たちの扱いに絶望したわけじゃなくて、アダムの真実を知っていたからなのか……?」

「いやいやいや、え、どういうこと? え? 怖いんだけど」


 ニルデはフッと顔を上げて笑った。


「きっと、アダムとマクシムは似て非なる者なんだな」

「いや、よく分かんないけど、一緒にされると超怖いんだけど」

「ああ、そうだな。何も知らないだけじゃなく、やっぱり根本的に別物なんだろうな」

「確かにひいばあちゃんのお兄さん、なんか不気味だけどさ。僕は一緒にしないでよ、本当に」

「だが、やはりお前も危険分子なのかもしれない」

「どうしてだよ、そういうの止めてよ」


 マクシムは抗議する。

 本気で何だか嫌だった。

 割と物事を深く考えない彼にしては珍しいほど嫌悪感があった。

 ただ、曾祖母から少しだけ聞いたことのある、曾祖母の兄の印象を思い出すと、それほど悪いものではなかった気もする。

 いや、そういうものなのかもしれない。

 誰かにとって善で好であっても、別の誰かにとっては悪で嫌の可能性はある。

 ニルデは思い出したように言う。


「そうだな……名づけるとしたらマクシム、お前の名は『庭師』だ」


「『庭師』? 『農家』とかの方が近いでしょ」

「いや、()()()()()()()()()()()()()()()。これは得難い才能だ。七十三年前なら、お前が俺たち英雄の仲間になったのかもしれない」

「そうなの?」


「ああ、そして、やっぱり、アダムと同じようにお前も俺たちの手で殺されたのかもな」


「え?」


 今、聞き逃してはならないことがあった気がする。

 アダム・ザッカーバードは()()()()()()()()()()

 英雄たちに殺された? と言ったのか?

 どうして?


「ニルデ、君は今、何て言ったの?」


 ニルデは顔を上げた。


()()()は、今、何て言ったんだ?」

「いや、アダムが俺たちの手で殺されたとか何とか」

「あー、そう……。そうなんだ。あたしももう終わりなのか……そうか、そうだよね。もう手足が動かない。それは『武道家の呪い』も発動しちゃうよね」


 もう何が起きているのか、マクシムは混乱してばっかりだった。

 手足が動かない。

 つまり、悪意がそれほど濃かったということだろうか?

 一体、どうしてそこまで自分を害そうと思ったのか、マクシムは理解できない。

 過去に親族と因縁があったのかもしれないが――自分とは初対面なのだから。

 ニルデは再び老男性のような深い瞳になり、マクシムに告げる。


「最期のアドバイスだ。マクシム。お前は自分をもっとよく知るべきだ。いつか、お前の血が、お前自身の運命を決めるだろうからな」


 いやいや、もっとアドバイスがあるなら親切に言ってよ――と、マクシムが抗議しようとした時だった。

 ニルデは口笛を吹いた。

 澄んだ、キレイな音が遠くまで届く。

 そして、空気が動いた。


「え」


 その口笛に引き寄せられたのだろうか。


 ()()()()()()()()()()

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