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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
己の身を捧げながら戦う者『士』
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『士』隊舎にて その三

 そこは『士』隊舎の中でも訓練場だった。

 さまざまな用途に使われれるが、今回は戦闘訓練で使われていた。

 訓練場で『アンストッパブル』ピッキエーレ少佐は二人の男性を見下ろしながら言う。


「おまえたちじゃ、リハビリにもならないな」


 呆れた表情だが、見下しているわけではない。冗談めいた軽口だった。

 ピッキエーレ少佐は『さむらい』屈指の剣の達人である。

 訓練では木の短剣を使っているが、実戦では透明な硝子の剣を振るっている。太った人の良さそうな中年男性だが、訓練の際にはその優しさは消え失せる。

 洋上での腕の化物との戦いでピッキエーレ少佐は片足を失っていた。そのために一旦後方に退いていたが、既にケガを治し、義足をつけることで復帰していた。


 ピッキエーレ少佐の前には二人の男性が倒れている。

 仰向けに倒れているのがウーゴ・ウベルティ大尉。

 横倒しになっているのがリオッネロ・アルジェント大尉である。

 次の少佐昇任試験に参加する二人だ。

 先に起きあがることができたのはウーゴ大尉だった。


「……いや、剣じゃ勝負になるわけないでしょ」


 陰気な表情のままグチグチと言う。

「本当にお前は言い訳ばかりだな」とピッキエーレ少佐はため息をつく。

 ウーゴ大尉は痩せて背は高いが、常に背筋が曲がっている。性根と同じくらい曲がっている。

 暗器(隠し武器)の達人だから言いたいことは分かるが、二対一で片足を失ったリハビリで手加減もしている。それでも勝負にならないのだからピッキエーレ少佐としても文句を言いたかった。

 どうやら気を失っていて覚醒した瞬間、跳ね起きたのはリオッネロ大尉である。

 彼は叫ぶようにして言う。


「もう一勝負お願いします!」


 こちらは威勢がとても良いのだが、足が震えている。怯えているわけではなく、純粋にダメージが抜けていないのだ。視線も定まっていない。ただ豪快に笑っている姿は強がっているだけでもなく、戦意はまるで衰えていない。

 中肉中背で特徴のない体型をしているが、リオッネロ大尉は両手が異常に発達している。それを隠すように袖の長い服を着ている。

 彼は『契約者』だ。

 上位者と契約をして、力を手に入れたのだ。英雄クレート・ガンドルフィと同じように。

 接近戦は『士』の尉官としてかなりの上位に上り詰めているが――やはりいろいろ甘かった。

 ピッキエーレ少佐は「終わりだ」と言う。


「これ以上続けても無駄だろう。俺のリハビリにもならんし、お前たちを昇任試験前にケガさせたくもない」

「絶対にケガしないから大丈夫です!」

「……いや、止めます」

「ウーゴ大尉! もっと前向きにやりましょうよ!」

「……勘弁してくれ」


 ウーゴ大尉は既に撤退ムードが漂っている。実際、手にしていた小刀と鉤爪を外して片付けた。そして、リオッネロ大尉に半眼で言う。


「……ピッキエーレ少佐は不慣れな短剣を使ってくれているのに手も足も出ないんだぞ。こちらはフル装備だ。やりたければ、リオッネロだけで続けてくれ」

「自分一人だと手も足も出ないです!」

「……その威勢の良さで後ろ向きなことを言うなよ」

「せめて硝子の剣は使わせましょうよ!」

「……殺されたいのか、お前は」


 一応ウーゴが少し年上かつ先輩だった気がするが、意外と仲が良いなとピッキエーレ少佐は少し奇妙な感情に駆られた。どう考えてもウマが合うとは思えない。


「とりあえず、汗流して食事でも行くか」

「……俺は大丈夫ですけど」

「自分は食事に制限があります!」挙手しながらリオッネロ大尉。

「あー、そうか。それが契約の代償だったな」

「はい!」


 『契約者』の代償は様々だ。

 英雄『士』クレート・ガンドルフィのように寿命と子どもが作れない身体のようなものから、食事に制限がかかるようなものまである。

 捧げる代償の大きい方が与えられる能力は大きくなる。ただし、トータルとして人間としての価値・尊厳が増加するわけではない。特殊な能力を手に入れられるだけ。歪な力である。


「ちなみに、詳しい代償の内容は聞いても大丈夫か?」

「はい、穀物類が消化できません!」

「なら、肉を食べに行くか。それなら構わないだろう?」

「はい! ごちそうになります!」


 奢るなんて一言も言ってないが、最初からそのつもりだったのでピッキエーレ少佐は頷く。そして、ふと思ったことを言う。


「しかし、その代償、今度の試験で不利になるな」

「そうですか!」

「試験は昇任後を見据えてサバイバルの要素も大きいからな。長期戦になったらどう考えても不利だろ」

「それまでに倒してしまえば良いだけです!」

「それは難しいな。今回の参加者は七名いるからな。一人が圧勝する展開は考えづらい」

「……まず、戦いが発生することも難しいかもしれない」

「ガンガン動きます! 短期決戦です!」

「……その戦術はリスクが大きすぎるだろ。狙われるぞ」

「問題ないです!」

「……問題しかない……」


 リオッネロ大尉は楽天家すぎる。

 逆に、ウーゴ大尉は悲観的すぎる。

 二人で足して割ればちょうど良いのに、とピッキエーレ少佐は思うが、それでは強みも消えてしまうのだろう。

 そこでひとつ思い出したことを告げる。


「今回、俺はジャンマルコ特務大尉以外の人間は面識があるが、なかなかお前たちじゃ厳しいだろうな」

「ちなみに、ピッキエーレ少佐は誰が勝つと思っていますか⁉」


 リオッネロ大尉の質問にピッキエーレ少佐は即答する。


「マクシム・マルタン君だな」


 二人の大尉は首を傾げ、不思議そうな顔をする。


「……そんな隊員いました?」

「いいや、外部からの参加者だ」

「あ! 聞きました! 『竜騎士』の伴侶ですね!」

「……少佐は面識があるんですね」

「ああ」と喪われた片足を見ながら肯定する。「優秀だ。防衛戦に優れている」

「……そんなに優秀なんですか?」


 ウーゴ大尉の質問にピッキエーレ少佐は頷く。


「食料に困らない能力の持ち主だ。それは優秀だろうさ」

「……厄介ですね」

「『士』外の人間なら真っ先に排除すべきですね!」


 集中的に狙われるかもな、とピッキエーレ少佐は陰気なウーゴ大尉の表情を見ながら思う。

 ただ、それでも勝ち残ることができれば――本物としてマクシム・マルタンは受け入れられるだろう。

 もうピッキエーレ少佐は認めているが、他の『士』たちも認めざるを得ないはずだ。

 その未来を期待しながら「どの店が希望はあるか?」と、ピッキエーレ少佐は美味しいお肉の店について思いを馳せる。

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