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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
己の身を捧げながら戦う者『士』
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『士』隊舎にて その二

 ディアナ・フェルミ大尉はマーラ・モンタルド大尉から教えられた情報に肩を落とした。

 『竜騎士』が昇任試験に参加する――バカな話があったものだ。

 ディアナは「ふざけんなよ」と毒づく。


「英雄の一族が、『竜騎士』があたしらの戦いに入ってくんなよ!」

「あ、ごめん。ちょっと違ったかも」


 マーラは慌てたように訂正する。


「違った? 何が?」

「『竜騎士』の推薦した人、だったかも」

「全然違うじゃないですか。いい加減にしてくれませんかね」


 ディアナが半分本気で腹を立てながら抗議すると、マーラは「ごめんごめん」と軽く笑う。

 ショートカットに童顔の彼女がそうやって愛嬌たっぷりに笑うとそれだけで許したくなるし、実際に許してしまう。

 マーラは武の名門モンタルド家で厳しく正しく健やかに育てられているため、ひたすらに真っ直ぐだった。

 由緒ある一族に連なっているせいか、身に纏う空気が清いのだ。

 ディアナとは全く違うからこの同期の女性とだけは友人として仲が良かった。


「ただ『竜騎士』の伴侶なのかな? もしかしたら、『竜騎士』の能力は持っているのかも」

「全然ダメじゃない、それ……」

「『竜騎士』ってそんなに規格外なんだ」


 ディアナは深呼吸して心を落ち着ける。絶望しかけたが、まだ不確かな噂だ。


「当然です。『武道家』に会って痛感しました。あれは生き物としての次元が違います。英雄たちは化け物揃いです」

「『(うち)』の佐官クラスだったら太刀打ちできる気もするけど」

「単体じゃ絶対に無理。チームを組んでも相当難しいわ。勝負になるのは頭領くらいです」

「でも、今生きている英雄って『大魔法つかい』と『武道家』だけでしょ? 『竜騎士』は代替わりしたばかりって話だし」

「そのはずです。あたしらも『さむらい』の後継組織ではありますけど、まともに名乗って良いのは聖剣を受け継いだ頭領だけでしょうね」

「『案山子』と『予言者』は後継者がいないって話だし、『竜騎士』だけか」

「いいえ、一応『案山子』の後継組織はありましたよ」

「え、ボク、それ知らない」

「『メイド天国』って会社です。あたし、知り合いが働いていたから知っています」

「そうなんだ。へー、でも、全然話聞かないね」

「能力者としては英雄の『案山子』と比べものにならないほど弱かったし、そもそも、その知り合いも殺されたらしくて……」

「え、本当に?」

「はい。カルメン大佐はその犯人と相打ちになって殉職したらしいですし」

「その犯人、生きていたら英雄並みの強敵だったんじゃない?」

「そうかもしれませんね」

「カルメン大佐、すごい魔法使いだったのになぁ。それと互角に戦える人間がいるんだから大変だぁ」

「他人事みたいに言わないでください。あたしたちも戦うことがあるんですから」

「分かっているって」


 ディアナはマーラと情報交換を行い続けた。

 普段、彼女たちは全然別の任務に就いている。『士』の宿舎にいるのは試験のための仮住まいである。

 だから、こうやって生きて会えるのは貴重な時間だった。

 それに侮るわけではないが、一対一の勝負になれば、ディアナはマーラに勝てる自信があった。

 これは優劣ではなく、相性の問題である。トータル的な戦闘能力では勝てる気がしないが、同時に、戦闘になれば負ける気もしない。

 もちろん、利用するだけのつもりではない。

 どうせ佐官に上がるなら自分か、友人であるマーラであって欲しいと言うだけの話。

 『士』の尉官にとって硝子の剣は憧れなのだ。

 『士』を志した人間、あるいは、『士』として活動していても至れない境地。一握りの人間しか与えられない象徴。

 実際に硝子の剣を武器として振るっているのはピッキエーレ少佐くらいでほとんどいない。

 剣士が少ないこともあるが、そもそも、対人戦の武器として()()優れていない代物だから防衛任務などで役に立つとは限らないのだ。

 ただ、どんなに卑怯であっても勝利を至上とする価値観を象徴とした武器は『士』をとても上手く現している――そうディアナは考えている。

 マーラは思い出したように言う。


「そういえば、今回の昇任試験会場は廃島らしいよ」

「知っています。都市戦の方が良かったですが、山岳戦よりはよほどマシですね」

「都市戦は廃墟を用意することが困難だしね。冬山だと防寒装備に当たるかどうかだけで決まっちゃうこともあるらしいよ」

「運も実力とは言いますが、さすがにそれは運次第すぎる気がします」

「だよね。スノードームなんて作っていたら一撃で吹っ飛ばされるだろうし。その時の優勝者は防寒装備をぶんどったエリア大佐らしいけど」

「あの筋肉男、脳も筋肉野郎なんですかね」

「ディアナ、どうしてそんなにエリア大佐が嫌いなのさ」

「マーラとは違っていろいろあったんですよ」


 佐官への昇任試験は非常にシンプルだ。

 一つだけリュックに入ったアイテムを与えられて、最後までリタイアしないこと。リュックの中身は武器や食料などさまざまなものになる。それ以外は基本的に着の身着のままだ。

 バトルロイヤル形式のサバイバル。

 基本的に殺しはなしだが、大ケガをすることもある。

 かなり過酷な試験だった。

 試験は欠員が出る度に行われるが、再起不能になる人もいないわけではない。


 それでも、ディアナ・フェルミ大尉は全てを承知で、参加を決めていた。

 理不尽な暴力に抗うために。

 理不尽に殺された知り合い――いや、友人のミッチェン・ミミックのためにも勝利を心に誓う。

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