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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
己の身を捧げながら戦う者『士』
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『士』隊舎にて その一

 『士』の隊舎は基本的に個室であるが、それほど広くもないし華美でもない。各地へ派遣される仮宿であるため非常に質素なのだ。

 その一室で、一人の女性がストレッチを行っていた。

 彼女は近く始まる少佐昇任試験に向けて体調を整えている。

 その女性隊員──マーラ・モンタルド大尉はノックの音に返事を返す。


「はい?」

「マーラ、あたしです」

「ディアナ?」

「うん、ちょっと話せます?」

「どうぞ」


 同期の女性隊員が入ってきた。

 ディアナ・フェルミ大尉。

 彼女は一礼してから備え付けの椅子に腰掛ける。

 ディアナはマーラの目から見ても戦闘職にあるとは思えないほど優雅だ。

 ウェーブのかかった長い髪も、たおやかな仕草も深窓の令嬢と言われても納得できる。

 ただ、ディアナの出自はかなり特異で、いわゆるお嬢様では全くない。実はまともに家族というものが存在していない孤児だった。

 それを知っているのは、同い年で同期、同性と最も属性の近いマーラくらいだった。

 逆に、戦闘職としては由緒正しいマーラとしてはその強さ(バイタリティ)を心から尊敬していた。

 マーラは自身の短い髪を指先でつつきながら問いかける。


「で、用件は?」

「決まっています。今度の少佐昇任試験です」

「やっぱり。ボクとしてはあんまりディアナとは争いたくないんだけどね」

「同感です」

「もちろん、手を抜くつもりもないよ」

「分かっています。それで最終的には争う必要がありますけど、途中まで手を組みませんか?」

「それ、ルール違反にはならないの?」

「問題ないでしょう。というより、他の人たちも当然選択肢としてあるはずです。実現可能かどうかというだけで」

「そうかな。そうかもね」


 マーラは普通に準備して参加するだけのつもりだった。

 自分の力だけで戦い抜くのが当然だ、とそんな意識だった。

 王道を進む武の家名を継ぐマーラは、あまり搦め手が得意ではない。『士』として勤務していることで多少慣れてきたが、上手ではない。

 昇任試験の内容を考えると独力よりもディアナと組む方が勝算は高いと判断する。

 ディアナは質問する。


「他の参加者で誰か面識あります?」

「ウーゴ・ウベルティ大尉は能力を知っている。あとの三人は知らないなぁ」

「あたしはリオッネロ・アルジェント大尉は知っています。

 これで、知らないのはオリンピオ・マルターニ大尉とジャンマルコ・プレッサ特務大尉の二人ですね」

「向こう側に知られているかどうかは未知数だけど、ボクの能力は知られていてもあんまり問題ないかな」

「逆に、あたしの能力は知られているかどうかが肝になりますね。その辺りも上手く分担しましょう。

 一番の問題はジャンマルコ特務大尉です」

「『W・D』と同じく特務の任が与えられているんだから、とんでもなく厄介なんだろうね」

「同感です」


 ディアナはそこで渋面をしながら言う。


「これは不確かな噂ですが、ジャンマルコ大尉はあの『武道家』を制圧したとか……」


 マーラは目を剥いて驚く。鼓動が跳ねたのを自覚するほど驚愕していた。深呼吸しながら首を捻る。


「あの『武道家』を? 嘘でしょ? 世界最強よ」

「不確かな噂ですわ」

「信じられない。でも、確かに『武道家』を捕らえているのは事実らしいし……」

「虚空間に繋いで封じているのは確かです。あたしは少し前まで看守をしていましたから保証しますわ」

「ディアナが!? やっぱり、『武道家』ってスゴかった?」


 マーラは自分がアイドルに夢中になる少女のように目を輝かせている自覚があった。身を乗り出しながら質問した。

 しかし、世界を救った六人の英雄の一人。武の頂点にある最強の男の挙動と正体は気になってしまう。

 ディアナは首を横に振った。分かりません、と。


「虚空間に繋いで日常生活を送っているだけですから全然不明です。日常生活を送れるだけ化け物確定ですけどね」

「やっぱり、虚空間に繋がれるとそうなっちゃうんだね」

「はい。竜以外の魔獣にかけたら、全く動けずに衰弱死するほどの封印ですから」

「『武道家』の捕縛は頭領と大佐たちが組んでやったんだと思っていたよ。ジャンマルコ特務大尉がやったとしたら、信じられないなぁ」

「不意打ちか毒か、なんらかの支配系の能力者でしょうね」

「魔法じゃ無理かな?」


 マーラは最初から白兵戦・格闘戦の選択肢は削除している。それらで『武道家』を上回る人間は存在しているわけがないからだ。

 ディアナはマーラの質問に首を振って否定する。


「『武道家』は魔法の対策も完璧なはずです。とにかく、ジャンマルコ特務大尉はまともな能力者ではないでしょうね」

「昇任試験には正攻法の方が適しているって噂だけどね」

「汎用性が低い能力だと安定しませんから。特に『契約者』は弱点も明確ですからね」

「ジャンマルコ特務大尉は『契約者』なのかな?」

「『武道家』に特化した『契約者』の可能性はありますが、どれだけの代償が必要か想像できません。トータルバランスは変わりませんからその場合は敵にはならないでしょう」

「『士』の佐官クラスで『契約者』って誰かいたっけ?」

「いても知りませんよ。秘密にするでしょう。尉官ならそれなりにいても、佐官になると数が限られているから上がるのが難しいのでしょうね」


 マーラはディアナと会話を続けながら、そこで、ふと思い出したことを言う。


「そういえば、もう一人追加で昇任試験に参加する人がいるらしいよ」

「え? あたしは知りませんでした。誰ですか?」

「いや、ボクも知らなくて、外部の人間だって」

「はぁ? そんなバカな話があるのかよ!」


 ディアナはそれまでの穏やかな言動を投げ捨てて怒りを露わにする。表情は変わらないのが逆に怖い。

 マーラは慣れているので「落ち着いて。口調、乱れているよ」と冷静に注意する。

 ディアナは「……申し訳ありません」と落ち着いてから「外部からわざわざ参加するなんて、そして、それが認められるなんてどんな人間ですか?」と言った。

 マーラは驚かないでよ、と前置いてから言う。


「『竜騎士』」

「え?」とディアナは固まる。

「『竜騎士』の参加だから断れなかったんだってさ」


 伝説の英雄の名を告げると、ディアナは「ざけんなよ……」と絶句した。

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