表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
己の身を捧げながら戦う者『士』
84/235

挑戦状

 マクシム・マルタンはいろいろ悩んだ挙句決めたことを『竜姫』ナタリア・サバトに伝える。


「──やっぱり、おかしいと思うんだよね」


 ナタリアはマクシムの言葉に不思議そうに首を傾げる。


「それは『案山子』にまつわる事件ですよね」

「うん。正確にはカルメン大佐の起こした事件なのかな? だけど、あまりにも不可解だったよね。特に『案山子』が何だったのか僕には何も分からなかったよ」

「ですが、『案山子』はいなかったということで『士』(イーサンと『W・D』)が教えてくれましたよね」

「そこがおかしいと思うんだよ」

「つまり、『さむらい』が何かを隠しているとマクシムは考えているわけですね」

「うん」


 ナタリアの前にはケーキとお茶のセットが並んでいる。彼女は優雅な仕草でティーカップを傾ける。

 少し話し合いたくて、せっかくだからとマクシムが誘ったのだが、結局ナタリアのオススメのお店になった。

 マクシムはケーキではなく、焼き菓子を注文したが、それもかなり美味しかった。添えられたサワークリームが非常に合う。

 ちなみに、デートなのでナタリアと二人きりだ。

 シラを一人きりにするのは少し心配だったが、竜のリトルと一緒にいるからと送り出してくれた。彼女のためにケーキの持ち帰りも併せて頼んでいる。閑話休題。


「正直、ワタクシもそんな気はしてきましたわ。ですが、追求するには材料がワタクシたちに不足しています。どうしますか?」

「もう一度直接訊ねるのはどうかな?」

「それは無駄でしょうね。イーサンはそういう場合、決して教えてくれませんから」

「僕としては素直に話してくれるのが一番ありがたいんだけどなぁ。『W・D』(名探偵)なら教えてくれないかな?」

「無駄だと思いますわ。それに、ワタクシたちでは丸め込まれるだけかと……」

「だよね。僕もそう思うよ」


 マクシムもナタリアも腹芸の得意な方ではない。

 そもそも、素直に話し合って通じるのであれば、最初から話している。それができないからこうなっているのだ。マクシムたちとしても疑っているだけで確証があるわけではない。

 ただ、マクシムにはちょっとしたアイデアがあった。


「ところでさ、『士』の佐官は十四人しかいないって話、覚えている?」

「……『士』の佐官に授けられる武器──硝子の剣は十四振りのみ。ですから、大尉より上にいくにのはかなり難しいという話のことですよね。覚えていますが、それがどうしましたか?」


 『士』のディアマンテ支部へ行った時、ベニート大尉が独りごちていたことをマクシムは覚えていた。

 ──片足を失ったピッキエーレ少佐の代わりに硝子の剣を誰が授けられるのか、と。

 実際にはピッキエーレ少佐は前方で戦い続けているようだが、重要なポイントは一つ。『士』は佐官の空席ができた時、補充のために何らかの選抜が行われるはずなのだ。

 マクシムは言う。


「カルメン大佐がいなくなったから一振り分空いたんだよね」

「……まぁ、そうですわね」

「でさ、僕の能力って『士』も佐官目指せるって話が出たでしょ?」

「あれはただの軽口。冗談ですわ。マクシムの能力では難しいと思いますわ」


 ナタリアは渋面になる。

 反対されると思っていたので、マクシムはどうにか説得しようと試みる。


「挑戦してみる価値があると思わない?」

「思いません。そもそも、入隊が難しいと思います」

「そうかな? 『竜騎士』枠とかないのかな」

「マクシムは『竜騎士』ではありませんわ」

「でも、可能性があると思うんだよね」

「どうしてですか?」

「『竜姫』の伴侶になるんだから資格はあるでしょ」

「っ!?」


 ナタリアはそれまで美味しそうにケーキを頬張っていた。せっかくの機会だからと追加注文までしていた。

 だが、その伴侶という単語を耳にして、それまで嬉しそうに動かしていたフォークが停止した。

 そして、むせ返るほど動揺し、頬が熱を帯びたように真っ赤になる。

 ナタリアは視線をあちらこちらに動かしながら言う。


「い、いえ、そ、そうかもしれませんが、しょ、将来的には。いえ、ですが、それは今ではありませんから」

「いや、そこまで照れられると僕も恥ずかしくなるんだけど……」


 マクシムも気恥ずかしくなってお茶を口に含んだ。

 少し沈黙の時間の後、ナタリアはボソッと言う。


「ですが、マクシムには婚約者ルチアちゃんがいますわよね」

「だから、あれは自称だから。まだ子どもだよ」


 いつまでも子どもではありませんわ、という言葉をナタリアは飲み込む。ナタリアは深呼吸して落ち着く。マクシムにいきなり言われて少し動揺しただけだった。

 ナタリアは気を取り直すためにゴホンと咳払いをする。


「どちらにせよ、『士』に入って情報収集がしたいというのであれば、ワタクシは反対ですわ。どう考えても難しいですもの」

「『竜騎士』の力があれば、余裕だと思うんだけどなぁ」

「……ですが、『竜騎士』の立場を使えば、確かに潜入することも可能だと思いますわ」


「手伝ってくれるの?」


 マクシムは驚いてナタリアに視線を送る。

 実際、自分の植物を操る能力だけでは難しいと思っていた。ただ、竜の力を借りられれば、十分チャンスはあると考えていた。


「少しだけ。その――は、伴侶として最大限力を尽くしますわ」


 ナタリアは視線を逸らしたまま言った。彼女は耳もまだ赤いままだった。

 マクシムは顔を綻ばせながらお礼を言う。


「ありがとう」

「別にお礼を言われるほどのことではありませんわ」

「うん、僕らの力で『士』に挑戦状を叩きつけよう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ