表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第1部 敗北を知らぬ者『武道家』
8/231

僕の能力

 マクシムはため息をつく。

 重い、それはとても重いため息だった。


 目の前には意識を失ったニルデがいる。

 マクシムは彼女をぐるぐる巻きにして縛っていた。

 あまり手際が良いわけではなかったので、かなり不格好である。

 そもそも、彼女が完全に肉体操作を取り戻したら意味はない拘束だ。

 なぜならば、彼女は『武道家』。

 マクシムが抵抗しても、おそらくは瞬殺されてしまうだろう。

 ただ、一応、念のために縛っておく方が安心だった。

 安全ではなく、わずかばかりの安心。

 マクシムはニルデが目を覚ますのをボーっと考えながら待った。

 しかし、深く考えるのが苦手なので特に何も思いつかない。

 ニルデが目を覚ましたのは、それからしばらくしてだった。


「……俺に……何が、起きたんだ……?」


 ニルデは混乱しているようだが、怯えている様子はない。

 英雄としての胆力が彼女を動揺させないのだろう。

 マクシムは答える。


「ん-、その前に確認だけど、僕に対して何か攻撃しようとか思った?」

「黙秘権はあるか?」

「別に黙っているのは自由だけどさ、正直に答えてくれないと僕も正直に答えないよ?」

「ちょっと試そうと思っただけだよ」

「ふーん、ところで、今、手足は動く?」

「……いいや、動かない」

「少しも?」

「少しも」

「そっかぁ。僕のことを殺すつもりだったんだね。怖いなぁ」


 会話の流れがおかしい、とニルデは表情を歪める。

 ただ、この状況は全てマクシムが意図したものだということは理解できた。


「何が起きたのか、教えてくれないか。正直に答える」

「ん-、それってずいぶん失礼だと思わない? 最初、そちらは噓をついたわけだし」

「謝る。すまなかった」

「何を謝っているのかハッキリ言う」

「嘘をついてすまなかった」

「ふーん、殺そうとしたことは謝らないんだ。怖い人だね。さすがは英雄さまだ」


 マクシムは言葉尻を捕らえて皮肉を言う。

 ニルデは渋面で応える。


「殺そうとしたことも謝る。申し訳ございません」

「保証してよ、もう殺そうとしないって」

「保証する」

「嘘はない?」

「嘘はない。もう俺は手出ししない」

「誓う?」

「誓う」

「何に誓ってくれる?」

「……英雄、バジーリオ・スキーラの名に誓って」

「オッケー、それなら許すよ」


 マクシムはホッと安堵のため息をつく。

『武道家』が名前に誓って保証すると言ったのだから、これ以上の裏切りはないだろう。

 マクシムは気楽に告げる。


「ま、最悪のケースでは、もう再起不能だと思うけどね」

「……どういうことだ?」

「毒を盛ったんだよね。実は」

「……具体的な説明を頼む」

「ニルデは毒を食べた。だから、手足が動かなくなった。それが経過と結果だよ」

「待て待て。そんな馬鹿な。一体、いつ俺が毒を食べてしまったというんだ!?」

「昨日の夕飯だね。一緒に食事したじゃないか」


 ニルデは叫ぶ。

 マクシムの答えが理解できない、と。


「俺は警戒して、お前が食べたものと同じものしか食べていないぞ! どうやったらそんなことができるんだ!?」


 マクシムは呆れる。

 そんなに警戒していたのかよ、と。


「簡単だよ。その毒はね、悪意に反応する毒だったんだ」

「悪意、だと?  な、なんだその都合の良すぎる毒は!?」

「うん。えーっと、どう言えば良いんだろう。僕は悪意に反応する毒を作り出したんだ」

「作り出す? どういうことだ?」


 マクシムはこれ以上手の内を明かすのは問題かもしれないと少しだけ思った。

 曾祖母の教えもあり、これは秘匿すべきことだった。

 しかし、まぁ、大丈夫だろうと楽観的に考える。

 手足がすぐに動くようになれば『武道家』の言う通り一瞬の気の迷い。

 もしも、二度と動かないほど殺意が深かったのであれば、いくら『武道家』といえど、再起不能なのだから――。


「お互いに同じものを食べたでしょ。つまり、僕も毒になるものを食べた。でも、僕だって毒は食べたくない」

「ああ」

「だから、毒を生成できるように操作したんだよね」

「操作、だと?」

「うん、野草を」


 ニルデは目を丸くする。


「……つまり、野草を毒化するのがお前の能力、なのか?」

「いや、野草をね、僕の理想の状態にすることができるんだ。美味しくしたり、毒を生成できるようにしたり。あんまり自覚はないけどさ、そうだね、能力だと思う」


 マクシムは説明が面倒になって、正確には言わない。

 彼が毒を生成するようにしたのは野草ではない。

 野草の種である。

 ニルデが「魚卵みたいにプチプチして美味しい」と評価していた種だ。

 種は胃の中で芽吹き、芽吹いた状態で殺意に反応して毒化する。

 種を避けて食べれば、マクシムが食べることもない。

 野草そのものを殺意に反応して毒化させるにしても、成長しきった野草を変化させるよりも種そのものに作用した方が効率が良いという側面もある。

 さすがにそこまで説明する義理はないだろう、とマクシムは考えていた。


「だから、料理しなかったのか……火を通すと野草が変質するから?」

「あー、いや、それは誤解。僕、料理できないから」

「料理、できないのか? 本当に?」

「でも、生でも美味しかったでしょ? 僕ができるのは植物を変化・操作するだけだよ」

「お前が操作できるのは植物全般か?」

「あー、そうだね。うん、多分、できるよ」

「木も草も花も?」

「多分」

「断言しないんだな」

「できないから。あんまり僕も把握できていないんだよねぇ」

「どうして把握しないんだよ。お前の能力だろう。知りたいとは思わないのか?」

「ん-、何となくできるだけだから。それに、今でも十分活用できているし」

「そんな分からない状態なのに人に毒を盛るんだな、お前は」

「まぁ、ひいばあちゃんの教えでね。あんまり信用できない相手にはそうした方が良いって」

「待て。つまり、お前は誰に対してもこういうことをしているのか? 俺を警戒していただけじゃなくて」

「うん。でも、問題ないでしょ。こっちに極端な悪意を持たなかったら何も起きないんだし」


 あっけらかんと言うマクシムに、ニルデは呆れる。


「お前は、なかなか狂っているな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ