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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第3部 全てのヒトガタを呪う者『案山子』
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『案山子』VS『魔女』

 戦闘態勢を取るカルメンを見て、ハセ・ミコトは「止めましょう」と言う。


「あなたとでは戦いになりません。それに、私はあなたを止めたいだけです」

「舐めてもらっちゃ困る。あたいは『魔女』カルメン・ピコット。『さむらい』として誰よりも長く戦い続けた魔法使いだよ」

「別に舐めていません。ただの事実です」


 ハセ・ミコトは本当に戦意はなさそうだった。

 カルメンが構えても、棒立ちのまま特に動きがない。

 そもそも、彼女の言葉が本当であれば、ハセ・ミコトに戦闘経験はほとんどないはずなのだ。

 勝機を見出せる可能性があった。

 冷静になり、カルメンは考える。


 カルメンの勝利条件は明確だ。

 ハセ・ミコトがヒトガタを作って攻撃する前に、攻撃魔法を当てられれば勝ち。

 非常にシンプルである。

 それは非常に難易度の高いミッションかもしれないが、不可能とまでは言えない。

 『案山子』は最強の殺し屋かもしれないが、戦闘能力が最強ということはないからだ。


 たとえば、超長射程、死角からの狙撃を行えば『案山子』は殺せるはずだ。

 いや、それで殺せないのは高濃度かつ高密度の魔力で守られている『竜騎士』や『大魔法つかい』、あとは殺しても死なない『武道家』くらいだろう。

 少なくとも『案山子』が防御術に優れているという話は聞いたことがないし、ないはずだった。

 つまり、速度勝負になる。

 これだけ向かい合った近距離だからこそ勝機があるのだ。

 カルメンは心を鎮める。

 相手は英雄に匹敵する強敵だ。

 自分の母(英雄ハセ・ナナセ)に並ぶほどの能力者だ――と戦意を静かに高める。

 養父――グランド・ピコットは英雄を超越することを目標としていた。

 今こそは娘の自分がそれを証明する時だった。 


 超高速起動の無詠唱魔法なら倒せる!

 まだヒトガタは作られてないのだから!


 カルメンは何の挙動もなく魔法を発動させる。

 超高速の光柱こうちゅうが、ハセ・ミコトを貫く!

 ──ことはなかった。

 魔法は発動しなかった。カルメンは動揺する。理解できない。今まで呼吸をするように魔法を使ってきた。もう体に染みついた業なのに、何故使えなかったのか分からない。いや、そういえば、先ほどのマクシム・マルタンを狙った一撃も当たらなかった。あれも『案山子』ハセ・ミコトの仕業だったのかもしれない。そもそも、魔法の術式が思い浮かばない!

 無力感に襲われ、ガクリとカルメンは膝を落とす。


「どうして……何が……?」

「死を自在に操る『案山子』に勝てる存在は多くありません」


 ハセ・ミコトは体勢を変えることなく、淡々と続ける。


「まず『武道家』。彼の者を殺すことは可能ですが、その後により強くなって蘇ります。その際に、誰が『武道家』になっているのか私には分かりません。その正体不明になった死なない暗殺者は『案山子』を容易に上回ります。私の天敵といえるでしょう」


 ハセ・ミコトは続ける。


「次に聖剣『テイル・ブルー』に守られた『士』。こちらも勝てないでしょう。かの聖剣は呪詛蒐集を妨げます。現代であれば、イーサン・ガンドルフィは私の天敵といえるでしょう」


 ハセ・ミコトは続ける。


「少し異なりますが、『竜騎士』も難しいでしょう。『竜騎士』は殺せても竜は殺せません。報復を考えると勝てません。引き分け狙いが限界です」


 ハセ・ミコトは続ける。


「あとは非戦闘時における毒物の混入や遠距離攻撃。この辺りも対処できません。いえ、対処できる方が異常。他にも可能性はありますが、向かい合った状態で私を上回ることは人類には困難でしょうね」


 いつの間にか、ハセ・ミコトの手にはヒトガタが握られていた。

 それはカルメン・ピコットを模していた。

 あれを操り、魔法を使えなくさせたのだろう。

 しかし、どうやって?

 ハセ・ミコトは微動だにしなかったはずなのに?

 疑問に思うが、カルメンはハセ・ミコトの声を聞くことしかできない。


「さて、英雄ハセ・ナナセの能力及び二つ名の『案山子』ですが、これはヒトガタの見た目からの連想から生まれました。ですが、それだけではありません」

「…………」

「案山子の意味は、まず鳥獣除けの人形。そして、別の意味として()()()()()()()とあります」


 カルメンを模したヒトガタはゲラゲラゲラゲラと嗤い出した。

 天に向かって吠えるように、()くように(わら)う。


「ところで、不思議には思いませんでしたか? 英雄『案山子』ハセ・ナナセは魔王の眷属の人型タイプを根絶やしにしました。しかし、ヒトガタを作り、それに攻撃するやり方では、どう考えても大量殺戮に不向きだ――と。その謎こそが『案山子』の本領です」


 ヒトガタの嗤い声を聞いて、カルメンはある衝動と戦うことになる。

 それは異常なほどの熱量で彼女をさいなんだ。

 頭痛と眩暈めまい、それに吐き気を覚えるほど強烈な衝動だった。


「呪詛蒐集能力を用いてヒトガタを作られた対象は何もできなくなります。いえ、できることは一つしかなくなります」


 カルメンを襲った衝動の正体は──()()()()

 彼女は今、死にたいと心から感じていた。

 理性が働かなければ、自分の頭に向けて攻撃魔法を放っていただろう。

 魔法が使えない今、どうにかして死ぬために、自分の胸を一突きして貫きたい気持ちと戦っていた。

 彼女の卓越した理性がわずかにその衝動を留めていた。

 ハセ・ミコトは優雅に一礼する。


「『案山子』の真の能力は()()()()()()()()()()()()()()()()()こと。これこそが英雄の中でも対人戦闘で最強と目された理由わけ。『案山子』の無敵の殺人能力になります」


 カルメンは耐えられなくなり「ああああ!」と叫びながら

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