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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第3部 全てのヒトガタを呪う者『案山子』
73/235

カルメン大佐 その二

 それは昔話。

 もう()()しか知らない話。


 カルメン・ピコットが『士』の一員になったのは今からもう五十年近く前になる。

 つまり、彼女は半世紀ほども人類の防衛を任としてきた。

 当然だが、『士』に彼女のキャリアを超える人間はいない。

 最古参である。


 カルメンがそれほど長く続けられた理由の一つとして、ある高名な魔法使いの元で幼くして英才教育を受けたからだ。

 彼は師であり、養父でもあった。

 元々は実父の友人であったらしい。

 父も母も幼くしてなくした彼女を大切にしてくれた。

 ただし、その大切さは厳しさを伴ったものだった。

 虐待ではないが、虐待と変わらない強度の訓練を受けていた。

 カルメンは夜一人で涙することもあったが、長じた今はとても感謝している。

 あれは紛れもない愛情だった。


 魔法に関する思い出しかないが、彼の見出した魔法技術の真髄全てを継承させてくれた。

 そのおかげで当時最年少隊員として『士』へ所属することができた。

 養父がそこまで熱心だったのには訳がある。

 彼には()()()()があり、その実現のためにカルメンを鍛え上げていたのだ。

 ただ、その養父もカルメンが少佐に昇進した歳に亡くなっている。

 彼自身はその望みを叶えることができなかった。


 カルメン・ピコットが家庭を持ったのは養父が亡くなってそれほど間もない時期だった。

 おそらくは寂しかったのだと思う。

 何らかの繋がりが欲しいと自然に考えた。

 連れ合いは潜入捜査(アンダーカバー)で知り合った花屋の店員だった。

 タイランという名前の彼はとても優しい青年で、困ったような温かい笑顔に惹かれた。

 ただ、優しすぎた。


 カルメンはそれから少しして生まれた娘に、自分が受けた魔法教育と同じことをしようとした。

 だが、やはり肉親が故の甘えか、大分手加減をしていた。

 それでもタイランにとっては厳しすぎたようだ。

 何度も口論したがカルメンは教育を続けた。

 その結果、夫は娘がまだ十歳に満たない時、彼女を連れてカルメンの前から姿を消した。


 『士』の構築したネットワークは強固だ。探せば見つけられたと思う。

 しかし、カルメンは追いかけなかった。

 いくつか理由はあるが、結局は娘が自分ほどは魔法の才能がなかったからだろう。

 それでも期待してしまうし、期待は過度な教育となって表れてしまう。

 肉親だから諦めきれない。

 それは不幸だった。


 タイランはどうやらそれから少しして事故で亡くなったらしい。

 娘と再会した時に少しだけ話が聞けた。

 そう、カルメンは娘が大人になって一度だけ会っている。

 『士』の仕事として、ジャーダの街の防衛任務に行った時、偶然再会した。

 ジャーダは竜のいる街だ。

 最強の魔獣を駆る英雄──『竜騎士』に挨拶に行った時、()()()()()()()()()()()()()


 あの時は非常に驚いた。

 ただ、カルメン・ピコットは、娘と関係を再構築できなかった。

 やはり時間が経っていたせいもあるだろう。

 どうにかしたいと思っていたが、気まずくて連絡を取れないでいる間に、彼女も亡くなっていた。

 仕事に没頭することで意識から取り払った。

 家族なんていなかった。

 そう思うことでストレスを忘却した。

 養父の望みを叶えるために努力を続けた。

 だから、孫がいるなんてあの日まで本当に知らなかった。


 ()()()()()

 ()()()()()()()()()の存在は、本当にカルメンにとっては意外だったのだ。


 ただ、シラはカルメンについて何も知らないようだった。

 気になって一応、家名についても訊ねたが、本当に伝わっていないようだった。

 それはナタリアも同様で彼女を安心させた。

 知らないでいてくれることはカルメンにとって幸いだった。

 彼女のもう一つの目的の障害になるかもしれない、そう考えずに済んだからだ。

 できるなら孫は殺したくなかった。


 カルメン・ピコットは国内屈指の魔法使いであるが、最強──『大魔法つかい』クラーラ・マウロに比べるとかなり劣る。

 ただ、この比較は意味がないかもしれない。

 その実力差は種族の壁で隔てられており、研鑽や努力などで超えられるものではないからだ。

 最強の魔獣である竜に素手で勝てると考える人間はいない。

 いや、『武道家』を除いていないだろう。

 根源的な肉体の差は絶対的だ。

 有するエネルギー量が桁違いである。

 それは魔法という技術体系のしっかりした学問でも別ではない。

 ただ、不思議なことに、魔法の場合は素人でも勝てると考える人間が若干名いる。

 頭脳戦においては素人が玄人を凌駕してしまうことがあると考える人間がいるのだ。

 もちろん、カルメンも養父もそこまで愚かではない。


 養父の抱えた大望は『魔法技術の進化』。

 成長ではなく、進化である。

 階段を上るのではなく、次元を超える試み。

 純粋な魔法だけでハイエルフ種に勝てないのであれば、少し違った方向性から超えよう。

 魔法技術に加えて、もう少し別の技術を取り入れることで進化しようと考えたのだ。

 それは『大魔法つかい』の存在を前提として、その域にまで達する方法論の確立である。

 クラーラ・マウロという絶対的な存在とは異なった道筋で、人間種の限界を超越する。

 その夢のためにカルメンも人生を費やしてきた。


 それが『案山子』の有する呪詛蒐集能力の解析である。

 魔法技術と呪詛蒐集能力の融合──それこそが養父の夢見た真の姿。


 カルメン・ピコットが託されたのは、彼女が『()()()()()()()()()()()だったからだと思う。

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