表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第3部 全てのヒトガタを呪う者『案山子』
67/235

告発

 マクシムたちが待つホテルのラウンジに、ミッチェンの代わりにテルツァがやって来た。

 テルツァは五十代くらいの痩身の女性で陰が薄い。

 ただし、四十年ほど昔に死去した正規の『案山子』──ハセ・サトリの弟子だった、という。

 彼女はどこか以前は見られなかった余裕を漂わせて、マクシムたちの座るテーブルについた。

 マクシムはおずおずと訊ねる。


「あのー、僕ら、ミッチェンさんを呼んだ気がするんですけど」

「代わって貰ったの。あの子を責めないで」


 責める気はないが、どうしてテルツァが代わりに来たのか理解できなかった。

 マクシムは困惑しながらナタリアに視線を送る。

 ナタリアはコクッと一回頷いて、喋り始める。


「実はワタクシたちはヒトトセ・リョウ様について聞きたいことがあったのですわ。ですので、彼と直接会ったミッチェン様に会いたかったのです」

「ああ、なるほど、それでミッチェンを……。ごめんなさい、勘違いしていたわ」

「勘違いですか?」

「ええ、私たちを糾弾するために呼んだと思ったの。だとしたら、無関係なあの子は明らかに可哀そうだから」

「糾弾……? いえ、そんなつもりはありませんわ。被害者を糾弾する理屈がありませんもの」


 被害者、とテルツァはナタリアの言葉を小声で反芻する。そして、クスリと苦笑した。左目を軽く閉じ、右目は皮肉げな光を湛えている。


「実はうちの会社──『メイド天国』について話をしておきたいの」


 そのために代わって貰ったの、とテルツァは言う。

 その時、タイミング悪く店員が来たので会話を中断する。

 テルツァは「紅茶を、アイスで」と手短に注文した。店員が席を離れてから「ごめんなさいね」と謝る。一瞬何のことか分からなかったが、中断したことを謝ったらしい。

 マクシムは気にしてない、と首を横に振ってから話を戻す。


「いえ、それよりもメイド天国がどうかしたんです?」

「あの会社は私の師匠、ハセ・サトリが創ったの。あと、英雄ハセ・ナナセの遺産も多く使われているわ」

「はい、それは聞いてます」

「その基本理念は呪詛蒐集能力者を救うため、ね。人間は恵まれていたら他人を害さない。もちろん、加害志向の人間がいることも否定しない。でも、衣食住が満ち足りていれば、他人から奪おうとしなくて済む。呪詛蒐集能力者はその気になれば、非常に危険だから、それを防ぐためにメイド天国は創られた。

 ……ここまでは良いかしら?」


 マクシムとしては特に否定することもなかったし、納得できた。

 呪詛蒐集能力者を管理するために組織されたという話はカルメン大佐からも聞いていた。

 ただ、隣にいるナタリアが言う。


「テルツァ様のご意見を否定する気はありません。ただ、一つしかないものを奪い合うこともある気がしますわ。それは衣食住とは異なった、自然な欲望の形ではありませんか? その場合、簡単に恵まれていない側に落ちる気がします」


 それはナタリアがマクシムとの恋を得て考えたことだった。

 一番であることが絶対条件なこともあるという悟り。

 人は完璧ではないし、欲望もある。

 衣食住だけで満ち足りるほど、それほど分かりやすい生き物ではない。

 満足したら、別の不満が噴き出るものだ、と。

 テルツァは首肯した。


「うん。そういうケースもある。でも、衣食住が満ち足りていれば犯罪行為が減るのは納得できるでしょ?」

「それについては特に異論ありませんわ」

「獲得するために争うのは仕方ない。いえ、もしかしたら、人は本質的に争いが好きなのかもしれないわ。そこまでは私には分からない。

 話を戻すけど、メイド天国ができた当初は、衣食住を充実させることで幸せにするのが目的だった。ただ、世界は少しずつ裕福になった。英雄たちのおかげで外界からの脅威が減って、経済や文化が成長したからね。だから、それだけでは満足できなくなった」


 その時、テルツァの注文した紅茶が届いたので会話が中断された。

 しかし、中断されて良かった、とマクシムは思った。

 会話の流れを考えると、かなり危険な方向に進む予感があった。

 テルツァは届いた紅茶に口をつけることなく、会話を再会した。


「ちなみに、今のエンリコ社長は二代目になるの。サトリ様は土台だけを創ったけど、実務は別の方。で、その方が先代社長ね。私はその頃から働いているけど、会社はすいぶんと変わってしまったわ」

「でも、それは仕方ないんじゃないです? ずっと同じサービスだとやっていけないのが普通でしょ」


 マクシムはそう言った。

 それは野菜の品種改良を能力で行った経験から実感したことだった。

 世界が成長しているとすれば、停滞は退化と同義になってしまう。

 人は前進し続けることしかできないのだ、と。


「会社は生き物だから仕方ない。それには同意するわ。ただ、呪詛蒐集能者は極々限られた人数しかいない。この歪みが会社を少しずつおかしくした」

「どういうこと?」

「基本的に家事の人材派遣業は薄給になりやすい。これは制度的な仕組みね。人を雇ってプロに掃除や料理をしてもらうためには、それ以上にお金持ちである必要がある。自分が働いて手に入る額よりも高価なサービスに手を出す人は少ないからね」

「それは分かりますけど、それが?」

「その説明の前に、二つほどキーワードがあるんだけど、十一年くらい前に全国的な冷害が起きたのって知っている? 二人とも若いから覚えてないかもしれないけど」

「『天麗の飢饉』ですわね。よく、覚えていますわ」


 ナタリアは苦い顔で頷いた。

 彼女たち『竜騎士』の一族がほぼ全滅の危機に瀕した、『魔王』の眷属襲来事件だから忘れられるわけがない。

 マクシムも能力が目覚めるきっかけとなった事件であるから「はい」と頷いた。

 テルツァは通じていることに頷いてから続ける。


「あと、もう一つ。このディアマンテの街には数年前──正確には八年ほど前までスラムがあったの。そちらはいろいろ行政の手が入って浄化作戦が行われたんだけど、これは知っている?」

「はい、そちらは情報として知っていますわ」


 これはナタリアが言っていたのでマクシムも知っていた。

 『竜騎士』の一族も金銭的に多少手助けした、という話だ。


「これには流れがあったの。『天麗の飢饉』でスラムの人間を中心に大量の死者が出た。その結果、ディアマンテも治安が悪化。そこで根本の問題となるスラムを消すことにした。ただ、私が子どもの頃とは違い、あまり強硬な手段は取れなかった。時代が違うもの。だから、『天麗の飢饉』から三年ほど時間をかけて平和的に問題を解消したの」

「そうなんですね。なるほど」


 それは歴史の授業のようだった。

 テルツァはおそらく五十代くらいに見える。

 この街の、そして、メイド天国の変遷をその身で感じ続けていたのだろう。


「さて、ここで話は戻ると言ったけど、この浄化作戦でスラムの人間が社会で自立するために職が必要になった。その際にメイド天国もいくらか人材を雇ったわ」


 それは自然な流れだったのかもしれない。

 最初の理念が『呪詛蒐集能力者も幸せにする』だった以上、弱者を救う形はそうおかしいものではない。公共とまではいかないが、英雄が設立した会社という立場もあったのだろう。


「ただ、あまり優秀な家事ができる子ばかりじゃなかった。というか、元々盗みなんかもやっていた子もいたからまともに仕事ができる子の方が少なかった。だから、たびたび問題が起きた」

「えーっと、それはそういう暮らしをしていたわけですし、いや、ダメですけど……ん-」


 マクシムはなんと言って良いか分からなかった。

 仕方ないで済ませて良いのかも分からない。

 適性のある子を雇えるばかりではなかったのだ。

 それでも生きていくために仕事は必要だった。


「話を続けるわ。で、そういう流れでうちの会社は赤字経営になったの。そこでその状況を打破するために就任したのが今のエンリコ社長。あの人は元『士』の人間だったから、その経験を踏まえた打開策を考えた」

「それは?」


()()()()()


「え」

「つまり、呪詛蒐集能力者を利用して、さまざまなところから情報を得て、株や債権などに投資し、資産を増やしたの。本業が薄給な仕事だから、それ以外で儲ける選択肢を得た。脅迫紛いのことも手を染め始めた」

「でも、元々呪詛蒐集能力者の力は使っていたんじゃないんですか?」

「いいえ、逆。呪詛蒐集能力者が能力を使わずに生きられるための会社だったの。それに、言ったはずよ。私がサトリ様に習ったのは『使わないでいられるという制御の真髄』よ。その理念は破綻してしまった。でも、それはそれで構わなかった」


 呪詛蒐集能力者を救うための会社だったのに、呪詛蒐集能力者がその他の人間を救うシステムになった。

 逆転現象。

 でも、それは自然な流れ、仕方ないことだったのかもしれない。


「そこで終われば良かったのだけれど、もっと儲けるためにエンリコ社長はさらなる一手を打った」

「それは何?」


()()()()()


「は?」

「私たちは『士』と相反する組織にも情報を売ったの」


 マクシムはテルツァが最初に言ったことを思い出していた。

 糾弾。

 それは確かに『士』にとっては裏切り行為だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ