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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第3部 全てのヒトガタを呪う者『案山子』
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推理ではない推理

 犯人はカルメン大佐。

 名探偵犬である『W・D』はそう言った。

 マクシムたちは『さむらい』支部──花屋タイランから速足で遠ざかる『W・D』を追いかける。


「え? それはどういう意味?」

「だから、犯人はカルメン大佐だぜ」

「え、どうして? カルメン大佐が犯人って? 何でそんなことをしたのさ」

「まだ分からない。だから、調べるしかないぜ」


 マクシムはナタリアと顔を見合わせる。

 そもそも、この犬が正しいかどうかも分からない。

 ただ、確信があるのだろう、自信を感じさせる確かな足取りだった(犬だけど)。


「証拠はあるの?」

「ない」

「ないの!? じゃあ、何を根拠に犯人って分かったのさ?」

「俺は名探偵だぜ」


 それ以上の説明はなかった。それだけで説明は十分だと判断したのだろう。

 ただ、身内であるカルメン大佐を犯人と名指ししているのだから『W・D』の言葉は信頼性が高い気がする。だが、やはり証拠は欲しかった。


「そもそも、どこへ移動しているのさ」

「あの場から離れたかっただけだぜ。どこかで作戦会議が必要だ」

「カルメン大佐が犯人だとしたら話は聞かれない方が良いんだね。じゃあ、ホテルに戻ろうか」

「それで良いぜ」


 『W・D』はそう言ったのに、先頭のままだった。不思議なことに、場所を知るわけがないのに先導している。しかも方向は今のところ当たっている。


「ただ、俺を呼び出したのは頭領だ。だが、それを妨害しなったということは、カルメン大佐は自分が犯人だと判明するのも織り込み済みだぜ」

「バレるの前提ってどういう意味さ」

「そういう意味だよ。その辺りも含めて状況確認だな。そのための作戦会議だぜ」

「それ、僕らで良いの? 『士』の人たちに相談すべきというか……」

「カルメン大佐が犯人じゃなかったらそうしていたぜ」

「『W・D』って特務大尉なんだよね? 組織に弓引くみたいな……その辺り、大丈夫なの?」

「組織の論理は俺には関係ないぜ。安心しろ。組織ぐるみの犯罪じゃない。カルメン大佐の暴走だろうさ」

「その根拠は?」

「俺は名探偵だぜ」


 『W・D』はまた一言で説明を終える。

 この言葉の方がよほど決め台詞っぽかった。

 マクシムたちはホテルにまで戻った(犬を入れることに少しだけホテル側が難色を見せたが、ナタリアがお金で黙らせた)。

 そこでマクシムは今まで起きたことを説明する。

 『W・D』は聞き終わってから「なるほどね」と頷く。

 ナタリアが目を丸くしながら言う。


「分かったのですか?」

「殺害方法なら分からないぜ」

「……名探偵ですわよね?」

「名探偵だぜ」

「名探偵なら推理してくださいませんか……?」


 『W・D』は文字通りの犬歯をむき出しにして笑う。


「違うな。名探偵は事件を解決するのが仕事だ。推理することが仕事じゃないぜ」

「いや、解決するために推理が必要なんじゃないの?」

「それは普通の探偵(二流)の仕事だぜ」


 理屈も根拠も不要で解決に至る。

 それが名探偵だ――と『W・D』は言うが、さすがにそれは乱暴な意見だろう。

 マクシムはふと思いついた疑問をぶつける。


「『W・D』は名探偵として『士』の中でも信任されているんだよね」

「当然だぜ」

「じゃあさ、仮にカルメン大佐に『お前が犯人だ』って言ったら、カルメン大佐はそれを認めると思う? 証拠を見せろって言わないの」

「認める。間違いないぜ」


 その根拠も分からないが、前提として認めてしまう。

 この名探偵なら解決できるのだ。だとしたら、次に取る一手は決まっている。


「なら、とりあえずカルメン大佐を拘束してしまった方が良いんじゃない? 自白はしてくれるんだよね」

「結論を言う。それではダメだぜ」

「何故?」

「まず、カルメン大佐が大人しく拘束されるとは思えないぜ。犯人として自白することとそれは別問題だ。発覚することは前提として動いているからだ」

「でも、周囲の『士』の力を借りて制圧すれば良いだろ」

「間違いなく犠牲が出る。『士』の最高戦力の大佐だぜ? 仮にナタリアの力を借りたとしても無理だろうぜ」


 続けた、次の『W・D』の言葉でマクシムたちは固まる。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「は……? それは……?」


 ナタリアはマクシムにアイコンタクトを送ってきた。自分に任せて欲しいという意味だろう。

 『士』に対して秘匿する意味があるかどうかは分からないが、『竜姫』という立ち位置は説明し辛いのも分かる。

 『W・D』は飄々(ひょうひょう)と続ける。


「俺は名探偵だぜ。どういう名前で立場かは分からないが、『竜騎士』とは()()()が違うぜ」

「……ワタクシは『竜騎士』ですわ。あなたの言葉を認めませんわ」

「別に俺も言い触らしたりはしないぜ。どうやらもっと厄介な立場なようだ。ただ、あんたじゃ緻密な制圧作戦は遂行できないだろ」

「必要であれば、それくらい可能ですわ」

「余計に犠牲が出るんじゃないか? ま、それよりもカルメン大佐の意図を読んで、解決する方が良いだろうな」


 本当に『W・D』はこちらの状況を気にしていないのだろう。すぐに話題を戻した。

 ナタリアの拍子抜けする表情を横目に、マクシムは質問する。


「カルメン大佐の意図は予想できているの」

「いや、全く」

「名探偵……」

「とりあえず、被害者の墜落死の謎について考えるか。ま、これはそう難しくないだろう」

「名探偵!」

「カルメン大佐は疑似的な空間転移が可能だぜ」

「そうですわね」とナタリアが首肯する。

「だから、魔法で移転させた時のポジションを高所にしてしまえば良い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだぜ」


 『W・D』は自信満々に推理を披露した。

 マクシムはナタリアに視線を送る。可能なの? と。

 ナタリアは落胆の表情を隠しもせず、首を横に振った。


「いえ、そんな大魔法の痕跡を消すことは不可能ですわ。それに、検知した記録を見ましたが、疑似空間転移は使う対象(ユーゴー様)に行使していますから、絶対に遺体に魔法が残ってしまいますわ」

「ふむ、空間に作用しているわけじゃないのか?」と『W・D』は推理に誤りがあってもふてぶてしいままだ。

「それが可能なのは完全空間転移ですわ。『大魔法つかい』にしか不可能な魔法です」

「じゃあ、『大魔法つかい』が協力したのかもな」

「単独での暴走みたいなことおっしゃっていませんでしたか?」

「なら、検知したのはカルメン大佐だ。その魔力を消すのも難しくはないだろう」

「いえ、魔法は痕跡が残るものです。消そうとした痕跡が残りますから、そういうことはできないですわ。それに別人も検知していますし、魔法がユーゴーに使われなかったのは間違いないかと」

「じゃあ、カルメン大佐が現場に疑似空間転移しただろう? それに紛れて分からなくなったんだぜ」

「それも難しいと思いますわ。時間が経ち過ぎているから二回分でキチンと別に記録が残ります。ちなみに、カルメン大佐の移動した分はキチンと記録に残っていますわ」


 いくつか仮説を披露する『W・D』とすぐに否定するナタリア。

 『W・D』は「あー、もう」と面倒くさそうに言う。


「カルメン大佐が犯人なのは間違いないんだ。手段は適当で良いだろ」

「おい、名探偵」

「俺は推理なんて全く興味ないんだぜ」


 『W・D』は名探偵とは思えないとんでもない言い草だった。

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