探偵
竜からユーゴーを突き落としたのではないか?
カルメン大佐はそう言っていた。
根拠として『それ以外に飛行していた物体はいなかった』というのだ。
マクシムはナタリアに代わり抗弁する。
「そんなことナタリアはしていませんよ!」
「身内の証言は採用されないのが一般的だねい」
「そもそも、僕らには動機がありません!」
「動機なんて重要じゃない。誰が誰を邪魔に思っているかなんて分からないからね。たとえば、このユーゴーが呪詛蒐集能力を用いて、ナタリアの秘密を握った、だから消したって可能性もある」
「秘密を握られたかどうかなんてワタクシに分かるものではありませんわ」
「脅迫されたのかもしれない――が、まぁ、これはあくまでも可能性の話。たとえ話だよ。あたいらは警察じゃないんだ。手段がある人間を疑って拘束する。悪いが、『疑わしきは制圧』が『士』の基本なんだよ」
カルメン大佐は仕方ないだろ、と肩を竦めた。
彼女も心からナタリアが犯人だと考えているわけではないのだろう。
ただ、最もシンプルな手段がナタリアにあるから疑わざるを得ないのだ。
マクシムは考えながら、言う。
「でも、たとえば、他に飛行物体があったのを見落としたとか」
「可能性としてはあるね。今一度探知結果のログから見直すよ」
「魔法が使われなかったとしても、その、カルメン大佐が探知できない手段で魔法を使ったとか」
「可能性としてはあるね。誰か別の人にも魔法の使用の有無を確認して貰うのが筋だろうね」
「いえ、カルメン大佐。あなた以上の魔法使いは『士』にはいません」
「なぁに、探知に関してならあたいと同レベルの人間は何人かいるさ。それに、頭領に報告したら『W・D』の招集も決定した」
「『W・D』もですか……!」
よく分からないが、ベニート大尉の反応から察するに『W・D』という探知に関してエキスパートが来るようだ。
「他には……」
マクシムは更に疑問を呈しようとしたが、そこでシラが口を挟んだ。
「――お姉ちゃんは違う」
「シラちゃんはそう言うだろうけどねい」
「後から調べれば良い。それよりも、」
シラはユーゴーの死体を指さした。
「早く弔ってあげたい」
それは非常に正論であり、冷静な意見だった。
この中で最年少の少女が最も正しかった。
マクシムは頭を掻きながら「そうだね」と肯定する。
カルメン大佐はベニート大尉に視線を送りながら「参ったね」と苦笑する。
「そうだね。調べ終わったらそうすべきだねい」
マクシムは少し恥ずかしくなった。
ナタリアが疑われているという状況に、頭に血が上っていた。
冷静にならないと。そうしなければ、ナタリアの疑いを晴らせないのだ。
マクシムたちが調べ終わった後、人材派遣会社『メイド天国』と警察に連絡した。
+++
死亡したユーゴーは身内が存在していなかった。
獣人種に多いのだが、彼らは文化的にあまり家族というものを重視していないらしい。
正確には家族を重視する者もいれば、そうでない獣人種もいて、後者の割合が人間種に比べるとかなり多いようだ。
もしかしたら、ユーゴーの身内もどこかに存在しているのかもしれないが、それが公式記録に残っていなかった。
だから、会社であるメイド天国が後処理を担当した。
普通に人間と同じように、火葬した後に埋葬するらしかった。
+++
状況が落ち着いたところで、マクシムたちは『士』ディアマンテ支部へと集まっていた。
ナタリアは自分が疑われていることに納得していた。
そもそも、犯人ではないので疑いは晴れるだろうと冷静に提案する。
「ワタクシが疑われる理由は分かりましたわ。ですが、自身が潔白であることをワタクシは知っています。ですので、存分にお調べいただいて構いませんわ。その間、ワタクシを拘束するなりお任せしますわ」
「いや、それは勘弁して欲しい。『竜騎士』を拘束なんてできない」
ベニート大尉はナタリアの提案を拒否した。
どういう意味ですか、と訝るナタリア。
マクシムも意味不明だったし、それはシラも同じく。
カルメン大佐が部下の言葉を補足する。
「ベニートの意見にあたいも、いや、『士』の上官として同意するよ。仮にナタリアが犯人だとしてもあたいらでは処罰できない」
「え、それは何故でしょうか? ワタクシは犯人ではありませんが、疑いを晴らすために提案しているのです。あなたたちに従いますわよ」
「それを竜たちが納得するかどうかは別の話でねい。正直、『竜騎士』とまともに戦える存在はこの国にはどこにもないよ」
カルメン大佐には諦念の色があった。
マクシムは不思議に思って言い返す。
「いやいや、そんなことはないでしょ」
「そんなことあるんだよ。たとえば『案山子』は最強の殺し屋だ。遠隔完全殺人という力なら『竜騎士』であっても殺せるだろう。問題はその後だ。殺した後に、暴れる竜たちを征する手段が『案山子』にはない」
「それは、そうかもしれませんが、犯人が分からないのだから竜たちも報復しようがないじゃないですか」
「だから、人類社会を滅ぼすんだろ」
「は? そんなことは――」
「ないとは言えないね」
カルメン大佐は本気でナタリアを、いや、竜たちを恐れているようだった。彼女は続ける。
「そうだね……。『武道家』と『大魔法つかい』が旗印になり、『士』の全戦力を費やしてそれをサポート。さらに、国の全兵力があらゆる兵器を持ち出しても分は悪いね。賭けになるくらいには勝算が生まれるかもしれないけどさ。仮に撃退できたとしても国は荒廃してやってられない。それくらい最強の魔獣は圧倒的なんだね」
無茶苦茶な意見だったが、真実なのだろう。武力は絶対という現実でもあった。
ナタリアは困ったように言う。
「それではワタクシはどうやって身の潔白を晴らせば良いのでしょう」
「拘束、尋問はできないし、しない。あたいらの要求としては竜が墜落死させたのでないという証拠だねい。もしくは真犯人の身柄。またはその手段。それを探して欲しい」
「つまりは?」
「分かるだろ?」
マクシムはそれでようやく理解した。
──疑いは自分たちの手で晴らせ。
どうやらカルメン大佐たちはこちらに探偵の真似事を要求しているようだった。




