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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第3部 全てのヒトガタを呪う者『案山子』
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メイド天国

 マクシムたちと『さむらい』の協力関係が結ばれたことで、カルメン大佐は「じゃあ、まず、今の呪詛蒐集能力者たち、つまり、『案山子』の後継組織を教えるわねい」と言った。


「はい、よろしくお願いします」

「総合人材派遣会社『メイド天国』」

「え、すみません、もう一度」

「総合人材派遣会社『メイド天国』」


 冗談かと思いマクシムは聞き返したが、断言されてしまったので本気の現実らしい。

 ナタリアとシラは『総合人材派遣ってなにをする会社?』と思った。

 マクシムは『絶対にデリバリーするエッチなお店だ!』と思った。


「ちなみに、エッチなお店ではないわ」

「それはそうだと思いますわ」

「当たり前」

「うんうん。当然だよね」

「「「……」」」

「……何か?」


 三人のジトっとした視線と、その背後で気の毒そうなベニート大尉の視線を、マクシムは胸を張って言い返した。

 カルメン大佐がヒトガタを作ろうとしたので、マクシムは本気で謝罪降伏する。どんだけ白状させたいのか。


「ごめんなさい! ちょっと思いました! だって、メイド天国って、名前がいかがわしすぎるでしょ!?」

「そうですか? ワタクシは全く思いませんわ」

「お姉ちゃん、お怒り。自分がいるのにって」

「それは思っていません! 今回は思っていませんわ!」


 カルメン大佐は笑いながら言う。


「メイド天国はいわゆるメイドさんを派遣する会社。家事代行業だよねい」

「それ、元々殺し屋だった人たちがやっているってことですよね」

「だから、本来の意味での『案山子』はもう四〇年以上も昔にいなくなっているから殺し屋じゃないんだよねい」

「でも、呪詛を操って、人に害せる能力者なんですよね。どうして家事代行業になったんです」


 ナタリアはふと気づいたとばかりに、不思議そうに言う。


「もしかして、マクシム。家事代行業は何か裏があるって考えているのですか」

「うん。だって、人材派遣するんでしょ。その家庭に送り込まれる。つまり、スパイみたいなことなのかなって思ったんだ」

「なるほど……」

「ヒトガタの能力ってただでさえ、他人の考えが読めるんだよ。それで家事代行業で相手の家に入れるなら、すごく危険な気がしたんだ」

「それはそうかもしれませんわね」


 カルメン大佐はベニート大尉にニヤニヤと笑いながら言う。


「なかなか賢いじゃないか。本当に『士』にスカウトするかい?」

「現状戦闘能力に疑問はありますが、伴侶として『竜騎士』の能力にも目覚めれば、一気に佐官もめざせる逸材ですね」

「お、ベニート。お前の上司になるぞ」

「よろしくお願いします」


 ベニート大尉はめちゃくちゃ丁寧にマクシムへ頭を下げる。

 明らかに冗談とは分かっているが、目の前でやられると反応に困った。

 反応したら負けと思ったので、マクシムは無視して話を続ける。


「つまり、正解ですか」

「合格点ってところだねい。ちなみに、それなりの規模の会社だが、その中で『案山子』の能力を有している人間は三人だけだよ」

「たったの三人。じゃあ、会社はカモフラージュなんですね」

「いや、呪詛蒐集能力はそれくらい珍しいんだ。大した才能がなくても目指せる魔法使いとは訳が違う。で、その才能の持ち主を管理する意味合いもあるけど、家事代行業も嘘ではないんだよ。『案山子』ハセ・ナナセの遺産で生み出された会社だし、ハセ・サトリの平和な会社として人様を笑顔にしたいという理念も間違いではないというか……分かるかい?」

「なるほど、僕は理解しました」

「それならば、『案山子』の呪詛蒐集能力を封印してしまえば良いのではありませんか? 誰も継承しなければ、その懸念はなくなると思いますが」

「それでも呪詛はなくならないし、管理からはずれる方が危険ってことはあるんだよい」

「なるほど。つまりは、様々な観点から生まれた産物ということですわね」


 なくそうとしても、呪詛はこの世からなくならない。

 ならば、管理し、操作できる能力者は必要だ、とカルメン大佐は言った。

 危険なものを見えないように遠ざけるばかりではなく、管理・保護することでコントロールが必要という考え方は武力組織の人間として現実的だな、とマクシムは感じた。

 カルメン大佐は軽く肩をすくめてぼやく。


「ま、とか言いながら野良の『案山子』が生まれてしまった現状は懸念したことだったんだがねい」

「ちなみに、メイド天国の三人はどんな方なんですか?」

「ま、普通の人たちだよ。直接話をした方が早いでしょう。紹介してあげる会ってみなさい」

「分かりました。ありがとうございます」


   +++


 そういえば、前から疑問に思っていたことがあるんです、とナタリアは問いかける。


「イーサンって、今、階級は何になるのですか?」

「ん? ナタリアちゃん、知らないのかい?」

「ええ、まだ見習いだからと教えて貰っていません」

「ふーん。そうなんだ……」


 カルメン大佐とベニート大尉は顔を見合わせる。

 そこでベニート大尉は言う。


「彼は尉官でも佐官でもないよ」

「まだ官職ではないのですか。年齢的にもそろそろ貰えないとおかしいと思うのですが」

「彼なら大丈夫だよ。ナタリアちゃんは良い子だねい」


 そこでカルメン大佐はニヤリと笑う。


「しかし、恋人の前で他の男のことを気にするなんて悪い子かもしれないねい」


 マクシムはせっかくなので悪ノリすることにした。


「ナタリアにとっては初恋の人だから仕方ないよ。僕は悲しいけどそんな小さい男、嫌われちゃうから言えないよね」

「え、え、そんなことはなくて、いえ、本当にちょっと気になっただけなのです。というか、思い切り言ってますよね?」

「あーあー、これが嫉妬か。身が引き裂かれる思いだよ」

「いや、絶対に思っていないですわ!?」


 騒いでいるマクシムたちを横目に、カルメン大佐たちはホッと胸をなで下ろしていた。

 イーサン・ガンドルフィの件についてナタリアたちが知らないのであれば教える必要はない。

 『士』の最終兵器であるイーサンは、秘密兵器である『絶対』と共に隠匿すべきことだったからだ。

 説明しないのも何か意図があるに違いない。

 唯一となる、カルメン大佐の上司の意図を考えて、彼女たちは内緒にしたのだった。

 そういえば、『二十八代目武道家』も捕縛しているという話があったが、その話も伝えない。

 伝えるべき情報は伝える。

 だが、基本的なルールは『士』たちの手の上にあった。

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