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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第3部 全てのヒトガタを呪う者『案山子』
48/235

『案山子』の名代

 かかし なぜころす

 かかしは やさしい

 くるしい このよから ときはなつ


   +++


 金融都市ディアマンテ。

 経済規模は首都であるズメラルドよりも大きく、科学技術も最先端のものが集積している。

 見上げるような高層建築物も多く、国内で最も高い人工建築物である魔力波塔もディアマンテ中心部に建てられている。

 そもそも、シンプルに道が広く、平坦で、完全に舗装されているところからして、マクシムの知る街とは一線を画している。

 下水・上水設備はもちろん、魔力線も電線も整備されているさまは、さすがはお金持ちの街である。

 それに道行く人がキッチリと身だしなみを整えており、ザ・都会人という洒脱さをやたらと振りまいている。

 マクシムはナタリア、シラと一緒に道を歩きながら「おおー」と感嘆の声をあげる。


「さすがはお金持ちそうな人が多いよね」

「マクシム、恥ずかしいので、もうちょっと落ち着いてください」


 ナタリアは少し顔を赤くしながら言う。

 マクシムは「ごめんごめん」と謝りながら続ける。


「でも、こんな大きな街、僕初めてだよ。ね、シラ」

「シラは全然動じない」

「いやいや、目泳いでいるよ」

「うるさい」


 マクシムのテンションが上がっているのは空の上での出来事も関係していたが、それは言わない。さすがに気恥ずかしいからだ。

 それに、本当にディアマンテの街は見たこともない車やお店が多数並んでいて、ただ見るだけでも十分楽しめた。

 ナタリアもマクシムもシラも、この街に入って違和感がないように服を新調したが、正直、着せられている感がないのはナタリアだけで、マクシムもシラもザ・お上りさんが拭えていない。


 ちなみに、ディアマンテ最寄りの街の郊外でリトルからは降り、そこからタクシーを使って移動した。既にホテルも借りているが、それも一流ドコロ。ただ、マクシムは1ダルも払っていない。

 マクシムを借り受けるところでもそうだが、ナタリアにどうしてそんなお金に余裕があるのか不思議だったが、その理由は明かしてくれた。


「竜たちのおかげですわ」とナタリア。

「外界からの防衛とか、国から雇われているパターン? それでお金持ちなの?」

「そういうものもありますが、微々たるものですわ。サバト家の主な財源は鉱山の貸し出しと、採掘した鉱物を売っているので」

「ジャーダってあんまり鉱山っぽくなかったけど、操業されているんだね」

「ええ、マクシムは竜が鉱物を食べるというお話を覚えていますか?」

「ああ。植物も肉も食べるけど、主食は鉱物なんだよね。忘れていないよ」

「はい。竜の排せつ物は高密度の魔力を帯びていて、さらに希少鉱物も含んでいるので、とても有用性が高いのです。それを売ることで主たる糧を得ていますの」

「へー」

「はい」

「つまり、竜のうんこ凄い」

「お願いだから排せつ物と言ってくれませんかね!?」


 ということらしい。

 サバト家はその他にも不動産をはじめとしたさまざまな不労所得もあるので、毎年、莫大なお金が入ってくる大金持ちだった。

 もうナタリアは人生でどれだけ豪遊しても使いきれないほどの財産があるし、これからも積み上がり続けている。


 ジャーダ鉱山は研究用の採掘は行っているらしいが、商業で考えると竜のうんこを売る方がはるかに安価になるので(勝手に竜が食べたものを売るだけなので採算性が違い過ぎる)、新たにどこかの企業が入るのも難しいようだ。

 国内最大級の鉱山が寡占状態ということで、このままマクシムがサバト家に入り婿してしまえば、ものすごい玉の輿になってしまう。

 その辺りのことは、ルチアのことも含めてとりあえず棚上げしているマクシム。なるようになるだろうと、それよりも初めての恋人の可愛らしさに浮足立つ気持ちの方が大きい。

 ゴホンと咳払いして、ナタリアに問いかける。


「で、これからどうする? 『案山子』ハセ・ナナセのお墓とか探してみようか」

「それよりも確実に情報が得られる場所を目指しますわ」

「へー、どこに」

「『士』のディアマンテ支部ですわ。『士』の誰かがいれば、お話が聞けるはずですわ」

「『士』ってあんまり大きな組織じゃないよね。多分」

「ええ、全員含めても300人程度のはずですわ」

「ディアマンテにいるの?」

「ええ、これだけ大きな街であれば間違いなく何人かは。これだけお金持ちが集まるなら、悪いことを考える人もいらっしゃるので、鎮圧のためにも配員されているはずです」


「治安は良さそうだけど、昔は郊外にスラムもあったんだっけ」

「ええ。ただ、数年前に篤志家のおかげで概ね解消されました。サバト家も多少は金銭面で貢献したのですわよ」

「へー、高貴なるものの義務(ノブレスオブリージュ)

「それに、『案山子』は危険視されているはずですから監視されていると思いますし」

「危険視されているんだ」

「はい、間違いなく。最強の殺し屋ですよ。ひいおじい様も対人戦闘では勝ち目がないとおっしゃってましたし、平和な世の中であれば持て余される存在ですもの」

「問題があるとすれば、そもそも、ディアマンテに『案山子』がいないケースだね」

「その場合は、手がかりだけでも探しましょう。最悪、イーサンの伝手を頼りますわ」

「なるほどね」


 そんな会話をしていた、その時だった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 いきなり会話に割り込まれた。

 マクシムたちは驚いてパッと振り返った。

 不思議なことがあった。

 道は広いが、他に人も車もいなくなっていた。

 それは不自然なほど奇妙な光景。


 ただ、一人だけいた。


 それはやけに中性的なほっそりとした体形をしているが、二十歳くらいの男性だった。

 軍服のようなものを着ており、直立不動の姿勢で、こちらを見ながら敬礼をする。


「『案山子』は危険ではありません!」

「……あなたは?」

「『竜騎士』ナタリア・サバトさまでありますね! 『案山子』を探しているでありますね!」


 一方的に言う男性。

 マクシムは相手に聞こえるように、半眼で告げる。


「なんというか、会話ができなさそうな相手だね」

「酷いであります! 自分はそういう人間ではありません! 会話は得意であります!」

「じゃあ、名前を名乗りなよ。いきなり無礼だと思わないの。こっちは『竜騎士』だよ」


 マクシムはナタリアが『竜姫』であると訂正しなかった。

 相手が間違えているのであれば、正しい情報を与える必要もない。

 完全にこちらのことを知られているわけではないのであれば、それは幸いだった。

 こちらは攻撃をされたとして、竜が駆け付けるまでわずかなタイムラグがあることなど知られては不味い情報も多数ある。

 竜の全速力であれば、ナタリアの指示で10秒とかからないはずだが、最悪致命的な隙になる可能性もあった。

 男性は申し訳なさそうな顔をした。


「おっしゃる通りであります! 失礼したであります! 自分の名前はヒトトセ・リョウ。現代の『案山子』ハセ・ミコトの名代としてやってきたであります!」


 ヒトトセ・リョウと名乗る男は、とんでもないことを言ってきた。

 どうして彼は、いや、現代の『案山子』はマクシムたちが探していることを知っていたのか。

 いや、それこそが『竜騎士』アメデオ・サバトが『案山子』を探せと言った理由なのかもしれない。

 そして、現代にも『案山子』は存在しており、ハセ・ミコトという名前であることも分かった。

 マクシムはナタリアに視線を送ってから訊ねる。


「どうして僕たちが『案山子』を探していることを知っているのさ」

「それは『案山子』だからであります」


 答えになっていない気がするが、それ自体が答えなのかもしれない。

 つまり、『案山子』はそれこそ千里眼のような、異常な調査能力を保有している。

 それに、どうして知っているのかは大きな問題ではなかった。


「じゃあ、どういう目的で僕らにコンタクト取ってきたのさ。それを教えてよ」

「ハイであります! 『案山子』の伝言であります! 『どうして私を探すのか理由を教えて。力を貸して欲しいのなら相談にはのってあげる』とのことであります!」

「……えーっと、それはん-、ちょっと相談しても良い?」

「ハイであります! お待ちします!」


 マクシムはナタリアとシラに言う。


「どうしてこちらの動向を把握されているんだろうね。詐欺?」

「詐欺ではないと思いますわ。ワタクシたちが『案山子』を探していることなんて誰も知らないはずですから」


 そこでマクシムたちは何かを忘れている気がしたが――ルチアが『案山子』のことを話題に出したことだが、キスが鮮烈すぎて誰も覚えていなかった――首肯する。


「そうだよね……どういうことだろう」

「シラは気にすべきじゃないと思う。意味がない」

「なかなか建設的な意見」

「突撃あるのみ」

「いきなり無謀な意見だなぁ。だけど、下手したら足をすくわれそうなんだよね」

「ですが、シラの言葉は一理あると思いますわ。勇気ある行動は、時には蛮勇に似た決断も必要だと思います」

「さすがはナタリア」

「ええ、当然ですわ」


 思わずナタリアの頭を撫でると、彼女はとても嬉しそうに頬を緩めた。超かわいい。

 シラは白けた視線を向ける。


「イチャイチャ……」

「そ、そんなことはありませんわ」

「シラと大して意見違わないのに……」

「いやいや、全然違うじゃないか」

「付き合っているからヒイキと盛るのは仕方ない」

「さ、盛るって……」


 ナタリアは赤くなったが、確かにそれどころではない。

 マクシムはヒトトセ・リョウに言う。


「分かったよ。実は頼みたいことがあるから『案山子』に会わせて欲しいんだよね」


 ヒトトセは言う。ポンと手を打ち、忘れていたとばかりに。


「言い忘れていたでありますが、もう一言。『会うのは勘弁』とのことであります!」

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