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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第2部 最強の軍団を統べる者『竜騎士』
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出撃

 『魔王』の眷属がやってきたというアメデオの話を聞いても、最初、マクシムはただの妄言だと思った。

 いくつか理由はあるが、どうして彼にその危機が察知できたのか分からなかったからだ。

 その疑問はシラも抱いたらしく、彼女はやや強張った顔で訊ねる。


「おじいちゃん、どうして分かったの?」

「防衛線が突破されたという連絡が入った。現在、洋上で『さむらい』の連中が戦っている」

「それ、大丈夫なの?」と、マクシムも思わず質問する。

「突破されたということは大丈夫じゃないだろうな」

「それは……そうだよね」

「しかし、。防衛線もメインは『与力よりき』の連中だったんだろうが、『士』の人間が簡単にやられるとは思えない。ただ、おそらくはそう遠くないうちに、『魔王』の眷属たちは侵攻してくるだろうな」

「そうなんだ。ごめん、話の腰を折るけど、『与力』って?」

「ああ、『士』の下部組織だな。『士』たちの補佐をしているが、単純にいうと兵隊だな」


 『士』たちだけで国土を守り切れるほど、この国は狭くない。

 そう考えるとさまざまな組織が活躍しているのだろう。

 しかし、通常の国王軍以外に、そんな組織があるとは思わなかった。

 マクシムがそう考えていると、シラが珍しく不安げに顔を曇らせながら言う。


「おじいちゃん、どうするつもり?」

「そりゃ、老骨はムチ打つのが道理だろう」


 シラは迷ったように逡巡しながら、さらに言った。


「……死ぬの?」

「人間、いつかは死ぬもんなんだよ、シラ」

「え? だって、『士』が対処しているんでしょ? どうして、アメデオさんが行くのさ」

「わしのところに連絡がきた理由を考えてみろ」

「防衛線が突破された……侵攻される……。アメデオさんに助けを求めているってこと?」


 アメデオは分かるだろう、と肩を竦める。

 どうやら当たりだったようだ。

 それにしても、アメデオは三十歳は若替えったようだ。

 普段の老人然とした様子はまるで見えない。

 服装も動きやすそうだが、よく見ると首回りや胸には装甲板が入っているようだ。

 その装備も含め、彼の姿はロウソクの火が最後に燃え盛るようだった。


「ナタリアは?」

「お姉ちゃん、呼ぶ」

「いや……良い。未練は残しておいた方が生き残れる気がする。殺されるつもりはないからな」

「このまま出撃するってこと?」

「ああ、できるだけ早い方がな。上陸されたら厄介だ」

「それ、眷属が『魔王樹』、樹だったりするから?」

「それもあるが、シンプルに上陸されたら厄介だろ。洋上で撃退すべきだ」

「あー、そうだよね」


 マクシムはシラに一瞬だけ視線を送る。

 シラは意図を理解して、ナタリアを探しに行ってくれた。

 アメデオは特にシラを止めることもなかった。

 確かに未練がある方が生き残れることはあるかもしれない。

 ただ、これが最期になる可能性も十分あった。

 その場合、ナタリアが傷つくのは――会わないことの方だと思ったのだ。

 マクシムは少し考えてから提案する。


「あのさ、僕も一緒に行けないかな」

「? お前さんが? 何のために?」


 マクシムはポケットから植物の種子を取り出し、それを成長させる。

 アメデオは目を丸くする。


「その能力は……っ?」

「これは止血作用のある植物。他にも、一般的な毒消しとか強心作用のある植物とか作れるからさ」

「ああ、それは……便利だ。そうか、アダムの血縁だったな。あいつは木の根も美味しく調理してくれたが、同じような能力か」

「うん。『庭師』って言われたよ」

「そうか……ん? 誰に?」


 『武道家』に、とは言えなかった。

 会ったことはアメデオには内緒だった。

 だから、「ナタリアに」と言い換えた。

 アメデオは「良い二つ名だ」と感想を言ってから考え始めた。

 実のところ、マクシムはアメデオの出撃に付いていくつもりなど全くなかった。

 竜は『竜騎士』以外に背中を許さない。

 つまり、マクシムが一緒に戦地へ向かうことは不可能なのだ。

 ただ、シラがナタリアを探すための時間を稼ぐ意味で、少し会話を長引かせるだけの提案だった。

 アメデオは言う。


「さすがはナタリアの婿殿。その覚悟、わしは感動した!」

「いやいや」

「せっかくだから一緒に来てもらおうか。その力があれば、最期まで戦えるかもしれん」


 え。

 いやいやいや、待って。

 マクシムはそう言いたくなる気持ちを抑えて問いかける。


「ち、ちなみに、どうやって? 竜って『竜騎士』以外騎乗できないんだよね?」

「ああ、キンバリーの足にカゴを装着するんだ。『竜騎士』以外の移動手段として、そうやって人を運ぶこともできるんだ」


 アメデオに言われてみて納得した。

 なるほど、『竜騎士』になれない一族が、たとえば病気になった時など運ぶ際の手段もあるのだろう。

 背中を許さないが、誰も運べないとは言っていなかった。

 完全にマクシムの勘違いである。

 ここで、冗談です、と言える空気はなかったし、ナタリアがタイミング悪く駆け込んで来た。


「ひいおじい様!? 今から出撃するとは本気ですか」

「ああ、本気だ。それに婿殿も一緒すると言ってくれたよ」

「マクシムさん、ほ、本当ですか?」


 マクシムは心で涙を流しながら笑いかける。


「当然だよ。僕のできることをやるだけさ!」


   +++


 キンバリーに装着するカゴは、人ひとりが載れるサイズだった。

 体全部がスッポリ入るが、正直、寒いかもなぁと感じた。

 それに、下が見えると正直怖いだろう。

 空を飛ぶなんて経験、今まで一度もないのだから想像もつかない。


「あの、マクシムさん、無理する必要はありませんわよ」

「無理なんてするわけないだろ」


 無理しかしていなかったが、マクシムはもうやけくそだった。

 ただ、竜という世界最強の魔獣の近くにいれば、そうそう死ぬこともないだろう、と安心材料にするしかなかった。

 そして、思い出すのは十一年前に全滅したという『竜騎士』の一団の話。

 一般的な毒消しがどれくらい効果があるのか……。

 全く信じていないが、大昔にこの世界から去ったという神さまを信じたい気分だった。

 ナタリアは決然とした顔で言う。


「あの、ワタクシも竜たちを説得しますわ」

「えーっと、それは『竜騎士』として加勢するつもり?」

「はい、そうですわ!」


 マクシムはそれを告げるべきかどうか悩んだ。

 ただ、残酷であってもここで言ってあげるげきだと判断する。


「無理しない方が良いんじゃないかな?」

「え……?」

「僕さ、『竜騎士』のことなんてまるで知らないけど、騎乗するのもスキルが必要でしょ。仮に『竜騎士』として今から認められたとしても、戦いには間に合わないと思うよ」

「それは、そうかもしれませんが……」


 さすがに、ハッキリ足手まといとは言えない。

 マクシム自身も多分足手まといになるからだ。

 ただ、ナタリアは真剣だ。

 あなたが行くのに、ワタクシが安穏と待つなどできません。

 ナタリアの目はそう物語っていた。


「僕が行くのはあくまでも補佐だし、それにさ、アメデオ・サバト(英雄)がいるんだよ。大丈夫だって」

「べ、別にあなたのことを心配しているわけではありませんわっ」

「知っているから。ま、祈っていてよ」


 マクシムはそう軽く答えた。

 ナタリアは何故か泣きそうな顔をしている。

 アメデオはそれを見て、言う。


「安心しろ。ナタリア。わしが婿殿は守る」


 ナタリアは何かを言おうとして、それを呑み込み、首を横に振る。

 そして、祈るようにして告げる。


「ひいおじい様……ご武運を」

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