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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第2部 最強の軍団を統べる者『竜騎士』
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騎乗

 結局、草原はマクシムが頑張って変化させ、竜たちに食べてもらう形で処理することになった。

 マクシムは丸一日かけて可能な限り草原の草を変化させた。

 その結果が、目の前の光景だった。

 見える範囲で、十一頭もの竜が草原で草を食べている。

 おそらく見えないところでもう少し別の竜も草を食べているのかもしれないし、後から飛んでくる竜もいるのだろう。

 巨体が草を食べている姿はなかなか壮観だった。

 それを客間から椅子に座ってボーっと見ていると、草原にいたナタリアが軽快な足取りでこちらにやってきた。

 窓の外と中で向かい合う形になる。


「マクシムさん、ありがとうございます」

「? えっと、何のお礼」

「あの子たち、美味しいって食べていますの」

「そういうの、やっぱり分かるんだね」

「はい、それは当然ですわ。竜は高い知性があり、意思の疎通も難しくはありませんもの」


 正直、マクシムは分かる気がしない。

 というか、十一頭見える竜の違いさえも分かる気がしない。

 だが、多少は区別ができる部分もあった。


「竜って、こう見比べてみると、結構大きい小さいがあるんだね」

「はい、幼竜と成竜では三倍ほども体長が変わりますの」

「ちなみに、今食べている中で、成竜ってあの一番大きいの?」

「いいえ、コンウェイは若竜。その途上の竜ですわね。大体、三百五十歳くらいですの」

「ちなみに、竜って何歳くらいまで生きるの?」

「分かりませんの。寿命で死んだという記録がありませんもの」

「三百五十歳とかって記録はあるんだ」

「いいえ、これはコンウェイ自身から聞きましたの」

「聞いたって、え、竜と会話できるんだ」

「会話というより、何となく分かりますの」

「何となく、分かるんだ……」

「はい」


 よく分からないが、竜は『竜騎士』の一族となら交感ができるのかもしれない。


「成竜ってどれくらいの年なの?」

「大体、成竜は五百歳以上ですわね」

「あの一番小さいやつは何歳くらい?」

「あの子はリトルですわね。リトルは十三歳ですわ。次に若い、コルホーンが百三十歳くらいですから、かなり幼い竜ですわ」


 一頭だけやたら小さい竜がいるから気になっていたが、百年に一頭くらいのペースで増えているのか……いや、そうすると最年長は五千歳近い計算になるが、さすがにそれはないだろう。

 しかし、さすがは最強の魔獣。予想以上に長命だった。


「リトルはナタリアよりも年下なんだね」

「はい、唯一の弟ですの」


 弟。

 違和感を覚える表現だが、ナタリアは獣人種のシラも妹と言っていたし、あまり血の繋がりは重視しないのかもしれない。


「ねぇ、ふと思ったんだけどさ」

「はい?」

「弟ってことは、ナタリアの方が姉になるんだよね」

「そうですわ」

「なら、あのリトルなら背中、許してくれるんじゃないの? 敬意というか、姉の威厳パワーって無敵でしょ」

「……それは……」

「うちにも姉がいるけど、絶対に逆らえないからね?」


 ナタリアは少し考えていた。


「リトルなら背中を許してくれるかもしれませんわね。言われてみれば、あの子、まだまだ幼いですから試しておりませんわ。正直、言われて思い出したくらいですし」

「でしょ? 姉さんは絶対だから」

「少し、マクシムさんの家の姉弟関係が気になりますが、ワタクシは弟は可愛がる姉ですのよ?」

「そんな姉がいるわけないじゃないか」


 ハッハッハとマクシムが乾いた笑い声をあげると、なぜか非常に気の毒そうな目で見られた。


「ただ、リトルにも拒否された場合、本当に希望が無くなるのですわ。今まで他の子たちは誰も許してくれませんでしたから」

「ちなみに、どんな感じで拒否されるの?」

「怒られますわ。すごい剣幕で怒られますの」

「吠えられたり?」

「そうですわね。あとは睨まれたり、説教されたり。そんな感じですわ」


 竜にされる説教――マクシムの想像の外だった。


「そういえば、フレッチャーだっけ? ニルデはあの竜以外にも乗れたの?」

「はい。お姉さまには、ほとんどの子たちが背中を許していたはずですわ」

「ちなみに、君のひいおじいさんは? 英雄だからやっぱり多いの?」

「いいえ、ひいおじい様はキンバリーとの仲が良すぎるから、他の子たちに騎乗することはありませんわ」

「そういうパターンもあるんだ。いろいろなパターンがあるんだね」

「そうですわね。一言に『竜騎士』といってもそう単純ではありませんわ」


 マクシムは一応助言する。


「とりあえず、リトルに乗ってみれば? もしかしたら、他の竜たちとは違う反応があるかもしれないし、竜と交感できるくらいだから『竜騎士』になれる可能性はありそうだからさ。挑戦する価値はあると思うよ」


 ナタリアは悩んだ後、不安そうにこちらを見た。


「あの、失敗しても……失望されませんか?」

「どうして僕が失望するのさ。失望するのはナタリア自身じゃない?」

「マクシムさんは見失わないのかという意味ですわ」

「全く。というか、得意不得意があるのは当たり前だし、別に『竜騎士』になれなかったから価値がないとは思わないよ」

「そうですか」


 ナタリアは少し安心し、嬉しそうだった。

 しかし、嬉しそうなのを隠したいのか、表情はほとんど変わらなかった。

 ただ、マクシムの目にも明らかに安心していた。

 意外とシンプルな性格をしているのかなぁ、と何となく微笑ましく思う。

 ナタリアは小さく力こぶを作って宣言する。


「なら、挑戦してみますわ」


   +++


「リトル、リトル」


 ナタリアが呼びかけるその竜は明らかに他の竜より小さかった。

 と言っても、十分に巨大な生き物である。

 ナタリアが呼びかけると一所懸命食べていたのに、食事を中止した。

 そして、ナタリアに顔を寄せている。

 表情など分からないが、マクシムの目にも、リトルは甘える弟のように見えた。


「これ、どうやって乗るの?」

「騎乗は竜に一度許していただければ大丈夫なのですわ。リトル、お願いがありますの、少し聞いてくれませんか」


 リトルはキュルルゥと高い鳴き声で応じた。

 こんな高い鳴き声を出すのか、とマクシムは内心で驚いた。

 何となくだけど、甘えているように見える。

 伏せに近い体勢で、顔をナタリアの方に寄せている。


「お姉さまが亡くなって、ひいおじい様も高齢ですの。もう『竜騎士』はワタクシがなるしかないと思いますの」

「キュゥルゥ」

「だから、リトル。あなたに頼みたいですのよ。ワタクシ、あなたの背中に乗せてほしいですの。『竜騎士』になりたいですの」

「……キュウ」


 リトルはプイッと顔を横に向けた。

 嫌だ、という意思表示だろうか。

 しかし、怒られるというよりは、嫌がっているというよりは、少し違う様子に見えた。


「ねぇ、ナタリア」

「今、忙しいのです。後にしてください」

「怒られるってこんな感じだったの?」

「……いいえ、それは違いますわ。もっと吠えられましたわ」

「このリトル、明らかに怒っている感じではない気がするんだけど」

「そうですわね。どちらかというと、これは――」

「何だろう。抵抗にしては弱いよね。どういうことだと思う?」

「……これは、悲しんでおりますわ」


 悲しんでいる。

 最強の魔獣が人間と同じ感情を持っているのか分からない。

 ただ、ナタリアに乗られるのは悲しいことなのだろうか?

 懇願されて、悲しむ……マクシムにはよく分からなかった。


「無理に乗ろうとしたら乗れるんじゃないかな?」

「それはできれば避けたいですわ」

「でも、これ、多分乗ろうと思ったら乗れそうな抵抗の仕方だよ」


 マクシムが言った、その瞬間だった。


 ぐぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!


 リトルはそれまで大人しかったが、いきなり怒ったように吠えた。

 いや、思い切り威嚇している。

 体勢を低くし、牙をむき出しにしている。

 そして、その視線の先は――マクシムだった。

 明らかにマクシムに怒りを向けていた。


「いやいや、何で!?」

「こら、リトル! いきなり吠えるなんて行儀が悪いですわよ!」


 ナタリアがリトルを叱った。

 すると、リトルは吠えるのを止めて、どことなく気まずそうにプイッと視線を向けて、背中を向ける。

 そのままのしのしと二歩、三歩と歩き――そのまま飛び去って行った。

 なんとなく拗ねた子供のような仕草だった。

 あれだけの巨体なのに風圧が全くなかったのは、竜なりの気遣いも感じられた。

 マクシムはナタリアに言う。


「その、ごめんなさい」

「どうしてマクシムさんが謝りますの」

「多分、あのリトル。傷ついたようだったからさ」

「ワタクシの責任ですわよ、それは」


 ナタリアは重いため息をつく。


 ナタリアの『竜騎士』への挑戦は失敗に終わった。

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