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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
目的達成のため手段を選べぬ者『予言者』
235/235

勇者編 『天使』の角笛

 勇者たちの中で最も完成度の高い兵士は誰か?

 その答えの一つが『全人前』アントニオ・マンフレッジである。

 完成された兵士。

 『全人前』アントニオは()()()()()()()()だった。


   +++


 勇者たち一行の旅は慎重に始まった。

 いきなり二人の脱落者が出たのだから当然かもしれないが、行軍は慎重にならざるを得ない。

 遅々とした行軍はストレスとして勇者たちの中に溜まりつつあったが、まだ溢れ出ない。

 世界を救うという使命感、それに、皆が平等に過酷であるという当然。『料理人』の料理がそれを未然に防ぎ、勇者たちの秩序を保っていた。


「クリア。こっちは大丈夫だ」


 それは斥候としての役割で先行していたアントニオの合図だった。

 勇者はアントニオの判断で行軍を進めていた。


 アントニオは長身痩躯だが、ひと目をひかない地味な顔立ちの男性だ。

 薄いブラウンというよくある髪色など地味である理由はいくつかあるが、いちばんの理由は表情がほとんど変わらないからだった。

 特に任務中はそれが顕著だ。

 実際のところ、オフには冗談を口にする陽気な一面もあるが、暗黒大陸という過酷がそれを阻害していた。


「お疲れさま、アントニオ。すこし代わろうか」

「自分の仕事はする。お前は休んでいろよ、バジーリオ」


 アントニオに声をかけたのは『武道家』バジーリオ・スキーラだった。

 彼は大量の荷物を担ぎながら平気な顔をして進行についてきていた。

 その荷物は非武闘派というか、肉体的に強靭さのない『大魔法つかい』や『案山子』らの荷物だった。

 徒手格闘の達人にとってその荷物は枷になりそうなものだが、特に気にした顔はしていない。案外、適度な負荷だとさえ思っているのかもしれない。


「休むも何も十分気を張っているつもりだよ」

「それは不要だ。緩めとは言わないが、ほどほどで良い。自分に任せろ」

「二人体制の方が失敗は少ないよね」

「少なくとも超長遠距離からの攻撃以外は自分が担当するのが効率的だ。お前はお前の仕事をしろ」

「それは認めるよ。でもね、やっぱり、手伝いは必要だと思うんだよね」


 でも、と『武道家』は薄い笑みを浮かべた。

 まだ少年とは思えないほど深い。


「アントニオしかできないのは問題があるよね。君が死んだらその役割は誰が担うのさ。なら、僕が少しでも肩代わりするからさ」

「誰かがやる。自分ほどではないが、似たような芸当ができる人間もそうだな、三人はいるな」


 アントニオは指折り数える。

『しのび』カルロータ・オルシーニ。

『山岳家』ヴィットリア・ ピアッツァ。

『投賊』チアラ・ロッセィ。

 意外な名前を聞いたとバジーリオは目をぱちくりさせる。


「チアラにも可能なの?」


 カルロータとヴィットリアが索敵能力があることに異論はなかったが、チアラ・ロッセィについては疑問が生じたからだ。

 どちらかといえば、のんびりとした性格の『投賊』に目端の利く技術があると思えなかった。

 戦闘能力は高いが、実際、今も後方で他の勇者同様ついてくるので精一杯に見えた。


「あいつは技術を隠しているだけだ。勇者の中には技術を開示していない人間も少なくないからな。自分やお前のように手の内を明かしている方が少ないんじゃないか」

「僕は確かに隠してないよ。流派を開示してる。でも、アントニオはもっとできるころありそうだけどね」

「ない。自分は兵士だ。あくまでも組織の中で力を発揮することが前提の役割。それに、言い換えると自分のは技術だ。習得すれば誰にでもできる」


 だから、隠す意味がないとアントニオは言った。

 バジーリオとしては疑問しかなかった。


「誰でも……? 本当に? 確か一キロメルくらい先に弾当ててなかった? そんなことが誰にだってできるの?」

「できる。大切なのは練習だ。お前なら自分よりもそのうち上手くなるんじゃないか、意外とな」


 それは軽口でもあり、本音でもあった。

 『全人前』アントニオ・マンフレッジは最も完成度の高い兵士だ。

 人類種の兵士が習得できる技術は、おおよそ白兵戦における技術は最高水準で獲得している。

 故に、半人前ならぬ『全人前』。

 だが、技術だ。

 技術は再現性が必要だ。

 そして、『武道家』という少年の実直さは技術を身に着ける上で大切な要素だった。


「それに、自分たちには『聖剣』がある。クレートがいる限り、長距離攻撃や奇襲はそれほど心配する必要がない。ただ道の異常先行してを確かめるだけなら、それほど危険はないさ」

「なら僕と代わっても」

「お前はその水準に達していない」

「身のこなしには自信があるんだけど」

「お前は格闘者でしかない。いかに身軽であっても戦地での振る舞いを理解していなければ意味がない」


 それに、とアントニオはバジーリオの荷を見る。


「その荷物を渡された方が困る。自分ならすぐに潰れる」


 実際は運ぶことくらいはできるだろうが、そんな負担を負いたくはない。


「重いけどそうでもないよ。ほら、前に荷物の整理の仕方を教えて貰っただろう。あれからずいぶん楽になったからね」


 荷物は重心の位置が重要になる。

 それを理解しているかどうかで全然疲労感が異なるのだが、そもそも、物理的に二百キロを超える荷は普通の人間には重しでしかない。普通でなくとも重しだ。

 バジーリオの体力が異常なのだ。

 そして、整理術もあっという間に習得してしまったバジーリオの学習能力の高さは驚異的だった。


「……お前はまだ全然だ」

「分かったから」

「だが、見どころはあるから自分の後ろについて目で盗め。学べ」

「教えてくれないんだ」

「そこまで甘えるな。お前ら武術家だって技術は秘匿するものだろうが」

「技術を伝えたいのか、隠したいのかどっちだよ」

「両方だ」

「ややこしいな。でも、僕は目で盗むの得意だから文句は言わないよ」


 それは文句だろとアントニオは言い返さなかった。

 殺し合いのようなシビアさと同様、兵士の技術もタダで教えるほど安いものではない。

 そもそも、教えながら進めるほど『暗黒大陸』は甘いものではない。

 言外に伝え、アントニオは先へ進む。


   +++


 『全人前』アントニオのおかげで少しずつ進行速度は上がってきた。

 意外にも『魔王の眷属』の襲撃はそれほど多くなかった。

 可能な限り少なくなるようなルートを『予言者』が選んでいるとはいえ、それは嵐の前の静けさのような不穏さをはらんでいた。


 そんなある日だった。

 『暗黒大陸』上陸から十三日目。

 アントニオはそれを()()していた。


 それはある形をしていた。

 角笛だ。

 ねじくれた雄牛の立派な角の笛。


 ()使()()()()()()()である。

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