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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
目的達成のため手段を選べぬ者『予言者』
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勇者編 『大魔法つかい』の失敗 その一

 視線が集まったことにクラーラ・マウロは不思議そうな顔をする。

 不思議そうな顔をすることが、『博士』ジュリオ・ピコットには理解できなかった。

 もちろん、魔法の世界に限らず若い天才は存在する。

 だが、才能の有無が結果につながるとは限らないし、若い天才がいるとしたら浪費はさせたくない――死地のような暗黒大陸派遣からは外したい、そういった思惑がクラーラには伝わらないのだろう。


「えーっと、よく分かんないけど、あたしたちに文句があるみたいね。ほら、クレート起きなさいよ。あんたもカンケーしているみたいよ」


 たどたどしい口調があどけなさに拍車をかけるが、この場の勇者たちの中で場違いだった。

 隣の老剣士もそうだ。

 本当にあの天才、史上最強の剣士と言われたクレート・ガンドルフィなのか。一体何があったのか。

 老人性の咳をする姿など、これから過酷な旅を始めるとは思えない。

 クレートはのろのろとした動作で顔をあげ――すごく眠そうだ――クラーラに言う。


「クラーラ、あのなぁ……」

「なんだか今けんかを売られているっぽいわよ。こいつらに思い知らせるヒツヨーがあるとおもうんだけど」

「どうでもいいから眠いから寝るな」

「え」


 言うが早いが、クレートは再度ぐーぐーと寝息を立て始めた。

 お腹が膨れて眠くなるのは幼子のようでもあった。寝顔は無邪気そうでさえある。

 老人は子どもに回帰するというが、『博士』ジュリオ・ピコットはふと思う。

 仮に本当にこの老人がクレート・ガンドルフィだとして、少年からいきなり老人になったのだ。

 青年期を経ずに老人になる、それがどれほど残酷なことかは想像すらできない。

 一体、どんな精神性を持つのだろうか。

 仮にそれが史上最強の剣士だとしたらどうなるのだろうか、と。

 クラーラは少しの間クレートを起こそうとしたが、すぐに諦めた。


「……ま、いいわ。あたしに用があるならなんでも応じてあげるわ。あたしは世界さいっこーの魔法つかいだし、この中でイチバンのおねえさんだもん。ひっろーい心でゆるしてあげるわ」

「お姉さん、ねぇ。はっはっは、このお嬢ちゃんはおもしろいことを言うじゃねぇの」


 ニヤニヤと笑うのは『超人』ルイジ・カルボーニだ。

 テンションが上がっているのか、頬がわずかに紅潮している。


「俺はな、ここにいる他称勇者の有象無象とは違う」


 いきなり全員を敵に回すような言い方に、ジュリオはビクッとなる。

 怯えたわけではない。

 仮に触発されて怒る人間がいて今から争いが起きる可能性を考えたのだ――巻き込まれるのはゴメンだ。

 だが、そこまで短気な人間はいなかった。

 意外にもというか、そこまで怒る内容とも思わなかったのか、短気な人間が聞き漏らしたか。


「俺は自称し、自認した世界を救う本物の勇者だからな。お前が普通じゃないのは分かる」


 ジュリオは笑いそうになったのを慌てて堪える。

 『超人』はアホだ。

 自称勇者は誰だってなれる。

 それこそ木の棒を振り回すそこらの四歳児だって心意気は誰よりも立派な勇者サマだろう。


 他人が認めるためには実績が必要だ。


 このクラーラという少女に欠けたのはそれで、世界最高の魔法使いを自称しているが、同じ魔法使いのジュリオでさえ今日の今日まで存在すら知らなかった。

 ただ、謎すぎるのにこの場にいるのは逆にいえば普通じゃない。確かな根拠、理由があるはずだ。

 そこで『成功者』カルミネ・ダモレが口を挟む。


「ルイジ、そんなことは問題じゃないんだ。過酷な旅に耐えられるかどうか、そこが問題なんだよ。この可憐なお嬢さんはどうか、という話だからね」

「カレンなオジョウサンってあたしのこと? んー、まだ若いのになかなかデキたおとこね、あんた」


 クラーラは照れたのか、笑いながらバシンバシンと寝ている老人――クレートの肩を叩く。

 クレートはむにゃむにゃと寝言のように文句を言ったようだが、誰も聞き取れなかった。


「でも、心配はムヨウよ。あたしは世界さいっこーの魔法使いだもん。話にきくアンコク大陸だってムカンケイなの、ここと大差ないわよ」

「ねぇ、ひとつ訊いても良いかな?」とジュリオ。

「ええ、あたしは心が広いもの。なんでもきいて」

「そもそも、世界最高の魔法使いってなに?」

「あたしのことよ」

「いや、そうじゃなくて」

「あたしが世界サイコウの魔法つかいじゃなかったら、誰が世界サイコーの魔法ツカイなのよ」

「会話が通じない……」

「じゃあ、あんたが思う世界最高の魔法ツカイって何なのよぉ」


 分からないから質問しているんじゃないか、とジュリオは思った。

 だが、考えてみると、なかなか難しい質問だった。考えながら続ける。


「魔法は学問なんだ」

「そうなの?」とクラーラ。


 そんなことも知らないのか、この少女は。


「火炎や水氷、風や土なんかを操る魔法は属性の違いがあっても、基本的には自分の魔力を加工しているんだ。属性の違いは向き不向きだね。で、その手法を体系化した者が魔法使いなんだ。だから、学問。僕が考える世界最高の魔法使いはその魔法の理を完全に理解した者、になるかな」

「全然わっかんない。もうちょっと簡単にまとめてよ」

「どんな魔法でも使える人、かな」


「なぁんだ。じゃあ、あたしじゃん」


「え?」

「でも、あたし、まだ分かんないの。とりあえずさ、あんたえーっと、名前は何だっけ?」

「ジュリオ・ピコット」

「あんた詳しいし、魔法使いでしょ? だから、ジュリオが魔法使ってよ。あたし、それをずーっと高度にして再現するからさ」


 見ただけで高度に再現? そんなことできるわけがない。

 それは超高度な計算式から導いた答えを見て、その超高度な計算式を逆に求めるようなものだ。しかも、個人差というか、人により癖のある計算式だ。

 数学でたとえるなら、微分を導関数から求めるのと、公式丸覚えでは答えが同じでも導き方が違うようなものだ。

 似たような魔法は再現できるかもしれないが、『博士』ジュリオ・ピコットなら見破れる自信があるし、そもそも、簡単にマネさせられるような魔法は使わない。

 不可能だ――ジュリオが言う前に、それを聞いた『成功者』カルミネは「面白いじゃないか!」と快哉の声をあげた。


「すごく分かりやすい提案だ! 彼女が最高の魔法使いかどうか誰が見ても分かるだろう!」

「確かにな。面白そうな趣向だぜ。はっはっは。最高の料理の腹ごなしとしては最高の余興でもあるな!」と『超人』ルイジも頷いた。


 あれ、これ、やる流れに呑み込まれている……? と、『博士』ジュリオは思った。

 ジュリオ以外にも魔法使いはいるのだが――『火空師』や『葵炎』、『雷鉱』は国家魔法使いだし顔見知りだ――知らない顔をしている。

 失敗した。

 だが、子どもの遊びに付き合うのも大人の義務だろう。そう思うしかない。

 それに、クラーラが失敗したら、この死地とも言うべき任務から外してもらえるかもしれない。

 若者が死ぬ可能性は低い方が良いのだから――。


「ま、仕方ないかな」


 この言葉をジュリオは後悔する。

 圧倒的に次元と格の違う魔法使いの存在を知ったからだ。


 そして、これは『大魔法つかい』にとっても不幸だった。

 魔法は学問――その知識という名の呪いをかけられてしまい、自由な発想を奪われることになるからだ。

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