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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第2部 最強の軍団を統べる者『竜騎士』
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『士』見習い

 ナタリアの話を聞いたマクシムも『竜騎士』アメデオを見に行ったが、ボケたフリには見えなかった。

 マクシムは恐る恐る、豹変の可能性も考えながら話しかけたのだが、


「あのー」

「? おお、イーサンじゃったか?」

「…………」


 いきなり知らない誰かの名前を呼ばれて、何も言えなくなった。

 ナタリアが会話を引き取ってくれた。


「それは別の方ですわよ、ひいおじい様」

「そうじゃったかい、レナータ」

「……お疲れですわね、お休みになってくださいませ」

「そうじゃのぉ、妙に疲れたわい……」


 アメデオは寝息をすぐに立て始めた。

 マクシムはナタリアと目を合わせて、どちらともなく首を横に振る。

 とても聞き出せる流れはなかった。


   +++


 マクシムたちは先ほど寝ていた客間まで戻ってきた。

 そして、ナタリアはお茶を用意しながら言う。


「おそらくですが、あなたの存在がストレスだったのですわ」

「どういうこと?」

「もちろん、マクシムさんに責任はございませんわ。ただ、ひいおじい様はああ見えて繊細なのです」

「そうなんだ……」


 マクシムの疑問の表情に、ナタリアは声を小さくしながら言う。


「実はひいおじい様の趣味は詩作ですの」

「そ、そうなんだ。意外だね」

「そもそも、才能があることと好きなことは別といいますか、あまり詩作も上手ではなかったようですが、ひいおばあ様もその繊細さに惹かれたとか」

「は、はぁ」


 正直、そんな話をされても反応に困るのだ。

 というか、世界を救った英雄にそんな一面があるのは意外だった。

 しかし、それも当然なのかもしれない。

 なりたい自分となれる自分が一致するとは限らないのだから。


「本当は『竜騎士』になんてなりたくなかったはずですわ」

「英雄なのに?」

「ええ。元々、ひいおばあ様が『竜騎士』の血筋で、ひいおじい様はその伴侶。あくまでも補佐でしたから」

「え? じゃあ、本当は君のひいおばあちゃんが『竜騎士』だったんだ」

「ええ、ひいおばあ様の適正は低かったようですが、逆に、ひいおじい様は竜との相性が良かったようですわ」

「そういうこともあるんだ。英雄になるほど……あれ? 『竜騎士』と結婚したら『竜騎士』になれるんだ?」


 ナタリアはピクリと眉を動かした。

 そして、プルプルと震えてから、穏やかにほほ笑む。


「何のことですかしら?」

「いや、内緒なら誰にも言わないけどさ。しかし、それなら『竜騎士』って段々増えていきそうな気もするけど」

「……いえ、必ずしも『竜騎士』の伴侶が『竜騎士』になれるとは限りませんし、『竜騎士』の子どもが『竜騎士』になれるとも限りませんもの」

「そういうものなんだ。あれ?」


 そういえば、とマクシムは思い出す。

 聞き間違えたような気がしていたが、ナタリアは自分が『竜騎士』ではない、と言っていたような気がする。

 それのことだろうか?

 しかし、竜にブラッシングしている姿は、とても信頼し合えているような気がしたが、それでも『竜騎士』にはなれないのだろうか?

 マクシムが更に問いかけようとした時だった。

 シラが部屋にノックもせずに入ってきた。


「ナタリアお姉ちゃん、『さむらい』が来た」

「シラ、ノックはしなさいな」

「ごめん、そして、『士』ここ」


 シラの背後には一人の青年が立っていた。

 比較的この地域では珍しい金髪碧眼も目立ったが、そもそも鼻梁も整っている美男子だった。

 かなり背が高いため、ロングコートを着ていると、筒のようなシルエットが目につく。

 年齢は二十前後だろうか、青年は爽やかに笑いながら片手を上げる。


「よ、ナータ」

「お久しぶりですわ、イーサン」


 ナタリアも立ち上がり、親しげに出迎える。

 ナータという愛称呼びにも驚いたが、イーサンは先ほどアメデオに間違えられた名前である。

 この『士』は『竜騎士』と交流があるらしい。

 シラがナタリアが用意していたお茶を引き受けて、三人分のお茶を用意してくれた。一応、マクシムの分も用意してくれた。

 シラはそのまま壁際に下がり、用事に備える。

 イーサンが席に座ってから、ナタリアは緊張を見え隠れさせながら頭を下げた。


「忙しいところ申し訳ありませんでしたわ」

「いや、俺もニルデが本当に()()だったとしたら、知りたかったから気にするな」

「それでお姉さまは?」

「いや、それがな……」


 と、そこでイーサンはマクシムの方に視線を向ける。


「彼が電話で話に出た?」

「ええ、ですから、隠す必要はありませんわ」

「そうか。実は見つかったのはこれだけなんだ」


 イーサンはロングコートの前を開く。

 その下の服装はスーツだったが、二つほど目につくものがあった。

 ロングコートの内側には不自然なほど大小さまざまなポケットがあった。

 そして、体の左半身に沿うように直剣が収められていた。

 服の上からは剣の存在が分からなかったが、上手く隠しているのだろう。

 イーサンはその内ポケットの中から取り出した。

 それは一枚の、大きな葉っぱ。

 人を一人包めるほどの、そして、赤い血が付着している。


「それは……?」

「電話の場所を掘ったらこれがあったんだぜ。話通りならニルデの血だろうな」

「あ……」


 マクシムが声を漏らした瞬間、イーサンの目が光った。


「君は知っているのか?」

「僕が、その、包んで埋めたから……」

「死体はなかった。心当たりは?」

「ないよ、かなり深く埋めたから獣とかじゃないと思うし」

「だろうな。人ひとり分の肉体が、そのまま抜きられていたようだったからな」


 死体消失。それは不可解な謎であった。


「あそこに死体が埋まっていることを知っていたのは君だけだよな」

「え、まさか、僕を疑ってます?」

「いや、なら、わざわざここまで来たのは疑わしいからな。黙って逃げれば見つかるわけがない場所だった。でも、誰か他人に言わなかったか?」

「言ってないよ。言うわけがないよ」

「じゃあ、どういうことだと思う?」

「それは……」


 ひとつだけ思い当たることがあった。

 それはあそこで死んだことを知っている人は、もう一人どこかに存在するからだ。


「『武道家』が」

「つまり、お姉さまが?」

「多分、だけど。意図も分からないけど」


 マクシムとナタリアが頷き合うと、イーサンは首を傾げる。


「おい、ナータ。君らだけで納得するのは止めて説明を頼む」


 ナタリアに視線を送ると彼女は頷いてくれた。

 だから、マクシムが『武道家』について説明する。

 説明しながら、ここまで信頼されているイーサンに少しだけ嫉妬していた。

 イーサンは聞き終わって考え込む。


「『武道家』……あの……」

「イーサン。『士』の方では何か情報はないのかしら?」

「ない。『武道家』は不可侵な存在だからな」

「そうなのね……」

「俺が見習いだから教えられていない情報はあるだろうが、それにしても、英雄か……」


 イーサンは葉っぱを綺麗に折りたたみ、元の内ポケットに入れた。


「とりあえず、これは預かっておく。何かの役に立つかもしれない。うちの『W・D』に見せれば何か分かるかもしれないしな」

「分かりましたわ。少し『士』の方で探していただけるなら助かりますの」

「また連絡する」


 イーサンはそのままあっさりと出ていった。

 分かり合っている感のあるやり取りに、マクシムは多少モヤッとする。

 一応、気になっていたことを訊ねる。


「イーサン、確かに良い人そうだね」

「そうですわよ。正直、『士』は無条件に信頼できる組織でもないのですが、あの方だけは信頼できますわ」

「付き合い、長いんだ?」

「ええ、そうですわね。あの方は『士』の中の『士』、秘蔵っ子として物心つく前から育てられていますから、ワタクシたちともずっと付き合いがありますわ」

「ふーん、『竜騎士』とも交流のある『士』。見習いとは言っても、将来有望そうだね」

「もちろんですわ。彼は見習いと言っておりましたが、他の方の話では、イーサンは『士』の次代を支える幹部候補ですもの」

「なるほど、それは凄いね」

「イーサンは凄い方なのですわ」

「ところで、君の初恋の人?」

「それはも――」


 ナタリアは途中で言葉を止めたが、顔を真っ赤にしている。

 その表情を見ただけでマクシムは胸が苦しくなった。


 なんというか、完全に負けだった。

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