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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第1部 敗北を知らぬ者『武道家』
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出会い

「あ、トビ……」


 少年は木にとまった鳥を見ながら歩いていたため、木の根に足を取られて転倒しそうになる。

 首にかけている麦わら帽子が揺れた。

 背負った荷物から小ぶりのなたがこぼれ落ちそうになる。

 誰に見られるわけでもないが、少年はすこし恥ずかしそうにはにかんだ。


「危ない危ない」


 極相きょくそうに達した森は比較的歩きやすい。

 下草があまり生えていないからだ。

 しかし、足元を見ないで歩けるほど楽な道でもなかった。

 その割に、少年は軽快な足取りで道なき道を歩いている。

 そして、見えない空を見上げながら呟く。


「まだ昼だよね。多分」


 一人で旅をしている少年は独り言が多い。

 いや、友だちが少なかったため、元々独り言は多かった。

 そもそも、少年は大した目的を持って旅行しているわけではない。 

 目的の村まであとどれくらい歩けば着くだろうか、と考えている。

 朝出発した街で、場所や距離は聞いていた。

 しかし、それにしては遠い気がしていた。

 この時、少年は自分の事態を把握していなかった。


 迷子になっていた。


   +++


 本格的に迷っていたが、少年の顔に焦燥感はない。

 何故ならば、いつかはどこかにたどり着くと分かっていたからだ。

 それと、食料の心配もない。


「お腹すいたな」


 少年はキョロキョロと周囲を見渡す。

 すぐに、「おっ」と言いながら背中にくくりつけた鉈を手にする。


「うりゃ」


 軽くジャンプしながら、木の枝を切り落とす。

 落下する前にキャッチして、そのまま躊躇なく枝についた葉っぱをモグモグと食べ始める。


「うん、美味しい」


 とても幸せそうな顔をしている。

 ただの木の葉であるが、一流料理人の作ったフルコースでも食べているような笑顔だった。

 葉だけでなく、枝も咀嚼そしゃくしてから少年は満足したようにお腹をさする。

 ただ、それから顔を曇らせる。


「さすがにそろそろ村に到着しないかなぁ」


 彼は迷子になっているという自覚がない。

 だから、それからも歩き続ける。

 そうして日が傾きかけてきた時、ようやく道なき道が開けた。

 最後まで迷子になっていることに気づかなかった少年の表情に「おっ」と喜色が広がる。


 そして、到着した村はどう見ても人の気配がなかった。

 どう見ても廃村だった。

 おかしい。

 5ダル払って得た情報では、ここに村があるはずなのに……。

 少年は首を傾げる。


 ――と、その時だった。


 ズシンと地響きが聞こえてきたのは。

 地震のような揺れではなく、何か大きなものが地面に倒れたような振動と音だった。

 なんだろう、と好奇心で少年は足を向ける。


 そこで見た光景は――()()()()()()()姿()だった。


「え?」


 それは見ていてだまし絵のような状況だった。

 強大な魔獣と矮小わいしょうな存在のはずの少女が戦闘行為を行っていた。

 遠近感がおかしくなるような絵面である。

 普通であれば、少女が襲われていると判断するのが普通だったろう。

 一方的な蹂躙じゅうりんでないのは状況を見ても明らかだった。

 少女は魔法や武器を使っている様子がない。

 少女は竜を殴り、蹴り、頭突きし、投げ飛ばす。


 ()()()()()()()()()()()()


 しかし、竜が一方的に殴られていたわけではない。

 尾を振り、牙で噛みつき、火を吹き、翼で吹き飛ばそうとする。

 つまり、竜と少女は互角に戦っていたのだ。


 なんだ、これは。

 少年は言葉を失った。


 竜は世界最強の魔獣である。

 単体の生物で比肩する存在はない。

 食物網の頂点に立つのが竜だった。

 しかし、少女はひいき目なしに竜と互角に戦っている。

 異常事態に少年は混乱していた。


 そして、決着の時は意外にも早く訪れる。

 少女の正拳突きが竜の首の下部に刺さった。

 とても重い一撃である。

 それは踏み込みの音や打撃音から明らかだった。

 竜が崩折れる――その瞬間だった。


「あ」


 竜の振り回した尾が少女を跳ね飛ばした。

 少女の一撃は渾身のものだったのだろう。

 少女の体勢はやや崩れていた。

 直撃だったため、少女は地面を転がってピクリとも動かない。

 少女は失神しているようだった。

 砂埃が舞う。


「くっ……」


 少年は葛藤する。

 このまま放置していたら少女は殺されてしまうに違いない。

 少年はどうすべきか考える。

 助けに出たとして、竜に勝てるわけがない。

 最強の魔獣なのだ。

 しかし、見殺しにするのは良くない気がする。

 少年は()()()()()()()()()()()()と決意する。

 森から飛び出ようとした、その瞬間だった。


 竜は大きくひと吠えすると――()()()()()()()()()()


「え……」


 竜は少女にトドメを刺さなかった。

 そのことに安心しながらも少年は不思議に思う。


「――じゃあ、なんで戦っていたんだ?」


 殺し合いをしていたわけではないのか?

 いや、そもそもどうして戦っていたのか?

 そこで少年は気付く。

 もしかしたら、少女は気絶したフリをしているのかもしれない。

 油断させて反撃に出るのだ。

 それを警戒して竜は逃げたのかもしれない。

 いや、遠距離攻撃のある竜に対して、そんな戦法は取らないか……。

 そんなことを考えながら、少年は恐る恐る少女が倒れているところに足を運んだ。


 少女は紛れもなく気絶していた。

 白目をむき、土埃にまみれている。

 それでも、少年は慎重に少女の肩をつつく。

 とても演技には見えないが、覚醒後に襲いかかられてはたまらないからだ。

 優しくつついただけでは起きない。

 少年はすこし大胆に、手にしていた水筒の蓋を緩めて、中身をぶっかけた。


 少女は跳ね起きた。


 しかし、少年はそれを視認できなかった。

 気づいたら、目の前にいて、こちらを斜め下から睨めつけていたのだ。

 あまりにも素早い動きだった。

 目で追えない、人知を超えた動き。

 しかし、竜と素手で殴り合えるほどの人間なのだから当然かもしれない。


 少年は驚いていたが、表情には出なかった。

 表情が動かせるほど状況を認識できていなかったのだ。

 そして、目が合い、そこで少年は表情が変わる。


 あまりにも少女が美しかったからだ。

 赤い髪に気の強そうなつり上がった瞳。

 年の頃は、少年よりすこし上だろうか。

 十代の後半に見える。

 竜と互角に戦える人間なのに、いや、だからこそかもしれないが、とても美しい少女だった。


 少年が呆けていると、少女の表情が変わる。

 それは驚愕。

 少女はとても驚いていた。

 そして、彼女は叫んだ。


「アダム! 貴様何故! 何故生きているんだ!」


 少年は首を傾げて言い返す。


「いや、僕の名前はマクシム・マルタンですけど……」



 ――こうして少年は少女と出会った。

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