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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
世界を愛し、世界に愛された者『大魔法つかい』
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『大魔法つかい』

 伝説があった。

 『大魔法つかい』クラーラ・マウロと『士』クレート・ガンドルフィの間には。

 『聖櫃アーク』に突き立った剣がその証だという。


「なるほど……それはスゴイことだったんだね……」


 マクシムは感嘆の息を漏らす。


「えーっと、スゴイんだね。うん、スゴイよ! じゃあ、次の話題にいこうか」

「全然スゴイと思っていない人の態度なのです……。マクシム、もうちょっと興味を持つのです」

「いや、悪いんだけど、よく分からないんだよね。伝説があったって言われてもね……」


 実際、『大魔法つかい』は懐かしそうな顔をして剣を見ているが、マクシムはそれにかける言葉がない。

 伝説の剣士による究極の魔法使い解放譚――そこにはきっとドラマチックなイベントがあり、それに伴った様々な想いが去就しているのだろう。

 どういう感情なのか想像もできない。

 なので、マクシムとしては、どう扱って良いのかも想像できなかった。

 ルチアがどこか申し訳なさそうにボソッと言う。


「あれは一種の冗談なのです」

「冗談?」

「クラーラさまは懐かしがっているわけではなく――いえ、懐かしさがないわけではないのですが――、一種の演出なのです。伝説を語るに相応しい態度を取っているだけなのです。マクシムはもっとそのノリを読んで、盛り上げるべきなのです」

「……うっさいわね。ちょっとくらいそれっぽいことしても良いでしょ!」


 クラーラは赤い顔をして怒っているが、おそらくはそれも含めてのノリなのだろう。

 ルチアも計算しているのだろうが、やはりマクシムはノリに取り残されている。

 実際、クラーラは照れ隠しなのかもしれない。

 昔のことを掘り返されて生まれるのは郷愁ばかりではないからだ。

 気恥ずかしさで深夜にベッドでのたうち回った経験がない人間の方が少ないだろう。

 偉大な魔法使いであっても、そのあたりのことは違わないのかもしれない。むしろ、長寿なだけ人よりも多い可能性さえある。

 クラーラは急に真顔になった。そして、『聖櫃』に突き立った剣をポンと指ではじく。


「本当はこの剣を聖剣にしたかったのよ」

「え?」

「聖剣伝説を創りたかったの。クレートの生きた証を残したくてね。でも、失敗しちゃった。この世界では聖剣伝説は生み出せなかったの。『聖櫃』自体にも意味はあるけど、あたしからしたらこれはその夢の残骸ね」

「でも、クレート・ガンドルフィは、『士』は英雄として名前を残しているでしょ。組織だって残している」

「あたしとのつながりを形にしたかったの。ただの感傷よ。でもね、これはクレートが何度も何度も、何日も何日も、雨の日も雪の日も毎日『聖櫃』に斬りつけたの。『テイルブルー』なんかよりもよほどの聖剣なの。この剣を引き抜ける者こそが真の剣士、勇者、英雄としたかったのよね。

 ……そもそも『テイルブルー』なんて魔剣の類だしね」

「いろいろあったんだね」

「その一言で片づける感じ、本っ当にアダムっぽくて嫌なんだけど」


 『聖櫃』そのものよりも、剣が突き立っていることの方がクラーラにとっては大切だということは納得できた。

 しかし、いろいろあったんだなぁ、というのがマクシムにとっての素直な言葉だ。それ以上がないというよりも、それ以外が難しい。

 歴史についてのお話を聞かされているような気分だからだ。人に歴史があるとしても、他人にとってその重みが受け取れるとは限らない。


「そんなことを言われても困るんだけど……。この『聖櫃』が何なのか、僕だけは分かっていないからね。ここに『大魔法つかい』が封印されていたってことは分かったけどさ、どうして封印されていたの? どういうこと?」

「ん-、説明がし辛いわね」


 そこでルチアが挙手をする。


「ルチアが説明するです。ある程度は知っているのです」

「あんた、なかなか便利ね。さすがは『予言者サルド』の後継者」

「ルチアだけがそれを蔑称と知っているのです…!」

「そんなつもりないわ。これは本当よ。さ、説明頼むわ」

「……はぁ。ところで、マクシムは魔法って何だと思うです?」

「? 魔法使いが使うものだよね。体系づけられた学問もあるんだよね。僕は魔法使えないけどさ、魔法自体は何度も見たことがあるからイメージは分かるよ」

「そうです。魔力を技術として確立する者が魔法使いなのです。その多くは数々の物理現象を生み出します。その頂点にして原点が『大魔法つかい』であり、この『聖櫃』なのです」

「頂点にして原点?」

「『大魔法つかい』は魔法使いではないのです。魔力を技術として確立しているわけではないからです」


 です? とルチアは小首を傾げて確認するが、問われたクラーラは「さぁね」とばかりに他人事のようだ。

 少しだけ口の端に微笑が浮かんでいるが、その心は読めなかった。


「技術として確立しているわけじゃない? いやいや、僕、『大魔法つかい』がすごい魔法を使っていたの見たよ。というか、ルチアも見たでしょ」

「技術を確立しているという部分が異なっているのです」

「えっと……?」

「『大魔法つかい』は技術を創出しているのです。そして、その現象を伝播させる者なのです」


 ルチアの説明が難しいのか、マクシムの理解力が不足しているのか、そもそも伝える内容が複雑なのか……。意味が分からなかった。

 マクシムが視線をさまよわせていると、ルチアは分かっているとばかりに頷いた。


「魔法使いは火を上手に操ります。火を上手に扱うように訓練する者です。

 ですが、『大魔法つかい』クラーラ・マウロは火のない世界に火という概念を生み出してしまう者なのです。そこが異なるのです」

「概念を生み出す……。あ! 分かったかも!」


 技術を創出。概念を生み出す。

 それらからマクシムは答えを導き出した。


「つまり、魔法は全て『大魔法つかい』がいるからこそ使えるってこと? 魔法使いの祖って話もさっきしていたし、そういうことでしょ?」

「正解なのです。『大魔法つかい』がいなければ、この世界には魔法が存在しないのです」


 そこでルチアは空中に文字を書いた。

 それはこう書いていた。


 ()()()()()


「『大魔法遣い』クラーラ・マウロさまこそがこの世の魔法の理そのもの。そして、この『聖櫃』はその補助装置なのです」

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