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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
世界を愛し、世界に愛された者『大魔法つかい』
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『幻想境』で

 『幻想境』――伝説の魔法使いたちの住処。


 ここがそうだ、とマクシムは言われてもよく分からなかった。

 田舎のどこかと言われても納得しそうなほど平凡な集落に見えた。

 マクシムたちの実家とそう大差はなさそうだ。

 本当に普通なのだ。

 ただの家がいくつか並んでいる。六軒、七軒……? いや、民家だけか。畑もなければ、家畜小屋もない。


 『幻想境』そのものも位相がズレた空間とのことだが、それがどういうことかマクシムには理解できなかった。

 『幻想境』までの移動手段は『大魔法つかい』クラーラ・マウロの魔法によるものだ。

 呪文を唱えることもなく魔法陣で一瞬のことだった。

 途中経過がすっ飛ばされてしまったので感慨はない。

 いや、暗黒大陸の長い道程を想えばそれなりにあるはずだが、ルチアの件で感情が揺さぶられすぎたせいで、そこまでマクシムは自分を取り戻せていなかった。


「あれ……?」


 そこでマクシムは不思議に思う。

 普通の家が並んでいる。

 マクシムの生家とそれほど規模も変わらないだろう。

 だが、他に人はいないし、生活感も欠如している。


「えーっと、クラーラさんたちって、ここに住んでいるの? 普通の家だけどさ」

「なに? あたしが普通の家に住んでいたらダメっていうの」

「いや、なんというか、不思議だなって。『獣姫』のサイズを考えたら家のサイズも大きくないといけないだろうし、そもそも、他に人がいる気配もないし、畑とかもないというか、生活感がないから」


 マクシムは言い訳のように口早に説明する。

 『大魔法つかい』が怖かったからだ。

 ちょっとでも不愉快にさせてしまったら、マクシムなんて消し炭にされかねない。

 マクシムだけなら良いが、隣にいるルチアに害が及ぶことだけは避けなければならなかった。


「……そんなに恐れないでよ。別にあたしはあんたたちに何かしようって気はないんだから。こう見てもあたしは友好的なの」

「クラーラさま。マクシムは純粋に疑問を感じただけです。それに、あなたは世界最強なのです。畏れを感じない方がおかしいのです」

「あたしは()()()()()ってだけなんだけどね」

「あなたは『大魔法つかい』なのです。あなただけが、と言った方が良いです?」

「ルチア、あんた、やっぱり『予言者サルド』の後継者ね。あたしのこと、よく知っているのね」


 ルチアは首肯する。


「あなたこそがこの世の魔法使いの祖ということは」


 魔法使いの祖? どういう意味だ。

 クラーラは苦笑した。

 

「全っ然、そんな大したものではないんだけどね」

「いいえ、あなたが偉大なのは明白です。なので、この『幻想境』の種明かしもお願いしたいです」

「種明かしもないわ。ここはあたしたちの家だから。ただ、まぁ、あたしたちが暮らしやすいようにちょっと手を加えることもあるってだけ」


 クラーラは手を振った。

 その次の瞬間、田舎の家は消え去り、目の前には巨大な城門が生まれていた。


「え」


 城門の向こう側には白亜のお城が。巨大で豪奢なお城が生まれていた。

 つまり、今まであった集落は消滅していた。


「え、え、え?」


 マクシムが混乱していると、ルチアが言う。


「『大魔法つかい』ならこのくらいのことは朝飯前なのです」

「朝飯前って、そんな難しいことでもないんだけど」

「? 難しいです?」

「朝食をどうするかって結構大変でしょ。飽きないようにさせないとダメだし」


 朝飯前という慣用句がクラーラの中では通用しないようだ。

 城を生み出す方が朝食をどうするより簡単らしい。逆の意味になっている。

 その時、大人しくしていた『獣姫』アイーシャが言った。


「お姉ちゃん、勝手に家を変えないで欲しいのじゃ。わしはあれが気に入っていたのじゃ」


 彼女の後ろにいるギンもずっと大人しかったが、彼女は本当に巨体を縮めていた。


「分かっているわよ。でも、この子らが期待していたのはこういうお城なんでしょ。なら少しくらい期待に応えてあげないと」

「いや、期待も何も……。ここって何なんですか」


 もうマクシムは何が起きているのか把握できなくなっている。考えることを止めたいと心のどこかが叫んでいる。

 クラーラは「ん-」と唸った。


「魔法よ。それ以上は説明が面倒くさいわ」

「何でもアリってことなの?」

「何でもはないわよ。あたしが魔法で実現できることくらいは可能ってだけ」


 マクシムは会話していて思った。

 確かに『大魔法つかい』はけた違いの存在なのだ。

 あまりこちらの常識で測らない方が良さそうだ。

 気がついたら家も元に戻っていた。『獣姫』の要望に応えたのだろう。


「お茶くらいは出してあげるわ。好みはある?」

「好みに対応できるくらい種類があるんだ」

「舐めないでよ。あたしはお茶にはうるさいの」

「食事は適当なのじゃ」

「うっさいわよ、アイーシャ」


 舐めているわけではなく、こんな暗黒大陸の深部でどうやって手に入れるのか分からなかった。

 栽培をしているわけではないだろう。畑もないのだ。


 そこでマクシムはふと気になった。

 この『幻想境』の広さはどうなっているのか?

 家が数軒に道がある程度しかないが、ここが暗黒大陸のどこかだとしたら、地続きで繋がっているはずなのだ。

 だが、分からない。

 そもそも、道の先がどうなっているのか目を凝らしても見えないし、そもそも、最初疑問に考えなかったのもおかしい。


 訳が分からなかった。

 訳が分からないなりにひとつ思い出したことがあった。

 それはとても大切なことだった。

 『幻想境』がどういう場所かなんて後回しにしても良いほどに大切だった。


「悪いんだけど、お茶の前にルチアと二人きりになって良いかな」

「ふーん。ま、お茶くらい出してあげるわよ。二人でお茶でも飲みながら、しっかりお話しなさい」


 ある程度察してくれたのか、クラーラはそう言った。


「……マクシム、その、ごめんなさいです」


 先回りしてルチアが謝って来たが、マクシムは許す気がなかった。

 彼女は自分が傷ついても問題ないとしていたし、命をなげうつような真似もした。

 ルチアが自分を軽んじるような真似をした――そのことにマクシムは腹を立てていた。時間が経過し、冷静になってから立腹していた。

 会話は必要だった。

 それ以上に、ルチアに説教をしなければならなかった。

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