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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
世界を愛し、世界に愛された者『大魔法つかい』
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姉妹

 ルチアが死んだ。

 マクシムはその事実に耐えられずに泣き叫んでいた。

 すると、


「勝手に絶望しないでよ。バッカみたい」


 そんな声が降ってきた。

 マクシムは泣き叫んでいたのに、スッと言葉が届いていた。涙が、途切れる。


「え……?」


 マクシムが顔をあげると、そこには一人の少女がいた。

 その少女は特徴的な容姿をしていた。

 まず小柄だ。

 おそらくはルチアと同じか、もっと小柄だ。

 耳が長いというか、尖っている。

 銀髪碧眼で、顔立ちも美しく整っている。

 少し、ルチアと似ていた。

 それくらい美しい少女だった。


「この子、知ってるわ。この子のことあたし、知ってるもの。でも、なんか嫌な気分になるのよね」


 ちょっとだけ苛立ったような口調でそう吐き捨てると、少女は続ける。


「勝手に死ぬんじゃないわよ。このあたしが、目の前で、死なせるわけないでしょ!」


 その瞬間、ルチアを中心に巨大な光が放たれた。彼女を抱きかかえていたマクシムも包まれる。

 光は精緻な魔法陣を描く。

 まぶしくなったマクシムは目を閉じる。

 まぶた越しにも明るく、その光が収まってから目を開ける。

 すると、そこには。


()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()


 無傷のルチアがいた。

 傷痕どころか、ボロボロになっていた服も元通りになっている。

 魔法だろう。

 だが、信じられないほどの効果を発揮していた。

 奇跡のような回復魔法。いや、蘇生魔法だった。


「え」

「マクシム、心配をおかけしたのです。でも、この通り、ルチアは元気になったのでもう大丈夫なのです。実は予定通りだったのです。これも作戦なので許して欲しいのです」

「いや、え……」


 意味が分からなかった。

 マクシムが呆然としていると、少女も会話に加わってきた。


「あんた、『料理人アダム』の子孫でしょ。あたしも覚悟決めたから話をしてあげる。こんなところまで来るなんてホンット頭おかしいでしょ」


 少女はそう言った。

 曾祖母の兄だから、厳密には子孫じゃないよなぁ、とそんなことを考えていたが、状況把握できず、マクシムは思考停止している。

 もうイッパイイッパイだった。

 マクシムは涙を拭いながら――喜ぶよりも驚きの方が大きい――問いかける。ルチアの件は後回しだ。


「あなたは『大魔法つかい』クラーラ・マウロ? 英雄の一人の……?」

「知っているでしょ、そのくらい。えーと、マクシム・マルタンに、あんたがルチア・マルタンか」

「まだルチアはゾフ姓なのです、クラーラ様」

「そっか。どうでも良いけどね。興味もないし」

「ルチアが『予言者サルド・アレッシ』の後継者であってもです?」


 クラーラの視線が鋭くなる。


「……なるほど。あたしはあんたのこと知っているわけね」

「ルチアの予定通りなのです。『大魔法つかい』に会うためにここまで来たのです。だから、歓待して欲しいのです。ルチアは『獣姫《アイーシャ様》』の不手際で死にかけたのですし、優しくして欲しいのです」

「命を助けてあげたんだからそこはいいでしょ」

「ルチアはとっても痛かったのです。とーっても痛かったのです! 死ぬかと思うほど痛かったし、マクシムの心もとても痛かったのです! あの涙をクラーラ様は無下にしてしまうのです?」

「分かった分かった。あんたたちの勝ちよ。まさか命を賭けるなんて思わなかった。でも、あたしが無視したらどうするつもりだったの? あたしは神サマじゃない。できることとできないことがあるの」

「十分勝率のある賭けだったのです。ルチアの暗黒大陸での死に方は決まっていたので、ここで死ぬことはないと分かっていたのです」


 死に方は決まっていた?


「あ、違うです。一回だけ殺されかけたです。『魔王』の遺体に殺されかけたあの時は危なかったのです」

「……ああ、『賊党フランチェスカ』、か。あの子もまだ少しだけ残っていたのね。そっか……」


 それはあの『魔王』の種に寄生された遺体の件か。

 マクシムたちでは知らない何かをクラーラは知っているようだった。

 ただ、それよりもマクシムも気になったので質問をする。


「やっぱり、あの時は危なかったんだ」

「ですです。あれは本当に予定外だったので死んでもおかしくなかったのです。ギンがいなかったら本当に死んでいたのです」

「そういえば、ギンは?」

「ああ、あのネコなら無事だから大丈夫よ。それより、死に方が決まっていたってどういうこと? まー、サルドの後継者なら何を知っていても別に不思議もないけど」


 ルチアは淡々と答える。


「衰弱死か、衰弱に伴った病死なのです。ルチアは栄養不足で死ぬところだったのです」


 そこでマクシムはふと思い出した。

 それは『魔王』の種の時、ルチアを助けた後のことだ。彼女をお姫様抱っこした時に感じたのだ。


 ()()()()()()()()()()、と。


 栄養失調になりかけていたのは間違いなかった。

 あのままいけば死因になったのか。危険だらけの暗黒大陸の中で? それが?


「マクシムが能力を成長させられていなかったら危なかったのです。ルチアはマクシムほど内臓が強くないので、それほど食べられないのです。効率的な栄養が摂取できるように、食事内容が改善されて死を回避できたのです」

「じゃあ、ルチアが最後のお願いをしなかったのも、死なないって分かっていたから?」

「非常に低い可能性しかなかったのです。『大魔法つかい』は優しい人なので、ルチアが死にかけていたら助けてくれるに決まっているのです」


 ね、とルチアはクラーラに視線を送る。

 クラーラは苦虫を嚙み潰したような顔だ。意外と照れているだけな気もした。


「うっさいわね。アイーシャがしでかしたミスくらいあたしがフォローしてやるわよ。でも、できることならあんたには会いたくなかったわ」最後のはマクシムに視線を向けての一言だ。

「もうマクシムは『料理人アダム』が殺された理由も知っているのです。そもそも、クラーラさんが逃げ回る理由はないのです」

「別に逃げてないわよ! あんた、本当にサルドの後継者だわ。なんかムカつくところがそっくり」

「それは超絶侮辱なのです! 撤回を要求するです!」


 ルチアは珍しく声を荒げている。

 一体、『予言者』と似ているのが何故侮辱になるのかは分からないが、何か思うところがあるのかもしれない。

 ただ、クラーラは懐かしげに笑った。ごめんごめんとおざなりに謝りながら、


「立ち話もなんだし、そろそろ招待してあげるわ。我が家――『幻想境』に行きましょう」


   +++


 そして、『幻想境』には『獣姫』とギンが既にいた。

 『獣姫』は反省した表情だった。

 ギンも和解したのか、もう暴れる様子はない。小さくなっているのは反省しているのかもしれない。

 アイーシャは頭を垂れて、申し訳なさげに言う。


「お姉ちゃん、ごめんなさい。その子を助けてくれてありがとうなのじゃ」


 お姉ちゃん?

 いや、喋り方もどこか幼くなっている。


「ま、妹のミスの尻拭いは姉の役割よね」とクラーラは苦笑しながら答えた。

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