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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
世界を愛し、世界に愛された者『大魔法つかい』
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七十四年前 第六種接近遭遇

 ギンの仲間は七十四年前まで他に六頭も生き残っていた。

 それが壊されてしまったのは『賊党』フランチェスカ・ベッリーニの行動が原因である。

 彼女は失敗した結果、暗黒大陸で命を落としたが、実のところ、ギンの仲間たち六頭を復活させていた。

 復活させるところまでは成功していた。

 いや、復活させたから、壊してしまったのだ。

 ギンたちを復活させられなかったら、あるいは、七頭すべてが生き残っていたかもしれない。


 戦闘機械生命体たちを仲間にできた理由。

 フランチェスカの二つ名は『賊党』。

 彼女は賊の頭ではなく、党首である。

 フランチェスカは自分の同類を見つけ、仲間にするのが異常に巧かった。

 それは彼女の特異能力じみた魅力がそうさせていただけかもしれない。

 たとえば、『武道家』は魔王討伐時にはその真なる力を開花させていない。あのとんでもない継承能力はこちらの世界に戻ってから発現している。

 それと同じく、彼女はギンの仲間たち――戦闘機械生命体を仲間にするとき完全に発現した可能性もあった。


 その結果、ある一人の警戒線に触れてしまった。

 その人こそが『獣姫』アイーシャ・サレハである。


   +++


 その時。

 『賊党』フランチェスカは賭けに勝ったことを実感していた。

 彼女の後ろにはどんな敵とも戦える圧倒的な力が揃っている。

 七頭生き残っていた戦闘機械生命体のうち、六頭を復活させられたのだ。

 一頭は何かキーが不足しているのか上手くいかなかったが、大した問題ではない。

 六頭を仲間にできた時点で勝ちだ。

 勇者たちに比肩しうる圧倒的な力がフランチェスカの掌中にあった。


 今から勇者たちを追いかけて力を貸すのも良いだろう。

 だが、その時にフランチェスカが考えていたのは別の案だった。


 ——あいつらがいない今がチャンスでは?


 暗黒大陸に力のある勇者が集まっている――もうかなりの数が命を落としているが――今こそが、あちらの世界へ侵略するチャンスだった。

 もちろん、簡単ではないことは理解していた。

 まだまだ防衛線を張る勇者は多数いる。

 だが、フランチェスカは覚えていた。

 『予言者』の言葉を。


 ――成功すれば、人間種の世界は終わりだ。


 あの時、サルドは言っていた。

 戦闘機械生命体を六体も仲間にできたのだから、人間種の世界を終わらせるタイミングは今だということになる。成功することは保証されているようなものだ。

 問題点があるとすれば、あちらの世界へ戻る手段がすぐにはないということ。

 ただ、それも勇者を運ぶ船を襲ってしまえば解決するだろう。

 しかし、戦闘機械生命体の質量は支えられるかどうか……微妙かもしれなかった。見た目以上の質量をしているのだ、こいつらは。


 船の浮力についてフランチェスカが考えていると、暗黒大陸の生き物たちが見えた。

 こちらからは見えるが、向こうからは見えない位置と角度。

 甲殻性の、気持ち悪い生物が、三体。

 大小違いはあるが、よく似ているので同族だろう。

 もしかしたら、家族なのかもしれない。

 暗黒大陸の生き物に家族という概念があるかどうかは分からないが、フランチェスカにとってはどうでも良いことだ。


 殺そう。

 目に入るものはみなごろしだ。


 戦闘機械生命体を仲間にするまでの間、フランチェスカは基本的に逃げに徹していた。

 その溜まりに溜まった鬱屈うっくつを晴らす時だった。

 フランチェスカはかなり派手目な美人だ。

 ただし、棘だらけのバラのような美しさである。

 しかも、その棘にはとんでもない毒がある、世界で一つだけのバラだ。

 その彼女が艶やかに笑った。

 美しいが、見る者をぞくりとさせる笑みだった。


「殺しな」


   +++


 暗黒大陸の生き物は潰れても体液らしい体液のない種もいるが、この三体は違った。

 緑色の体液が周囲に散っていた。

 その亡骸を中心に、地面に染み込んでいっている。

 気分が高揚したフランチェスカは、その体液を「きたな、きたな」と節をつけて歌いながら踊り、踏みつける。

 その周囲には戦闘機械生命体が何事もなかったように佇んでいる。


 勇者たちの戦いにより、暗黒大陸の生物はかなりの数を減らしている。

 好戦的なものは特に減少しているが――勇者たちの前に現れ、あっという間に殺されていた――今いた三体はどちらかといえば、違ったようだ。

 逃げようとしていた。

 しかも、小さいやつを大きな二体が庇おうとしていた。

 家族という概念があるかどうかは不明だが、仲間だったのは間違いないだろう。


「あはは。ま、この世は弱肉強食ってね。あたいたちの初陣のターゲットになったのは不運だけど、弱いあんたらが悪かったんだよ。強ければ殺されなかった。それだけの話だからね。あたいだって命を張っているんだ。お互い様だろう」


 次の瞬間だった。


「なるほど。それがお主の信念か」

「え」


 フランチェスカのは独り言だった。

 それなのに、応答があったのだ。

 ゾッと血の気が引く感覚に襲われ、すぐ声のした右斜め後方を振り返る。

 そこには巨大な女が立っていた。

 いつ、どうやって現れたのか……いや、そもそも、何者かも分からなかった。

 分からなかったが、正体不明の存在ということは分かった。

 巨大な女は続ける。


「言葉が通じるということは、我と同じ文明を基にするのかのぉ。しかし、そんなお主が殺伐とした信念の持ち主というのは嫌な気分じゃ。で、お主は何者じゃ? 会話できるじゃろ?」

「殺しな」


 フランチェスカは命じる。

 この巨大な女と会話ができるが、暗黒大陸の奥地にいる時点で普通ではないし、敵かどうか分からないが、味方でないことは間違いないはずだから排除する。

 自然な流れである。

 戦闘機械生命体たちが乱れのない連携を取りながら巨大な女に襲い掛かる。

 巨大な女は苦笑する。


 その次に起きた虐殺。


 フランチェスカは何もかもを捨てて、そこから逃げ出すことしかできなかった。


   +++


 虐殺の後、『獣姫』アイーシャ・サレハは独りごちる。


「さて、あいつは何者だったのじゃ? 最近、暴れまわっている存在がおるようじゃったが、あいつらなのかのぉ。いや、そもそも、我と同じような存在がいるのか、この世界にも……?」


 どこか物悲し気に、破壊されつくした六体の戦闘機械生命体を見下ろしている。

 それと同じくらい悲しそうに、三体の暗黒大陸生物を見下ろし、それから埋葬を始めた。


 これが『獣姫』と勇者たちの最初の接近遭遇だった。

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