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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
世界を愛し、世界に愛された者『大魔法つかい』
183/235

出現

 『幻想境』は目の前に()()()()()()という。

 なぞなぞのような話だが、『大魔法つかい』ならそのくらいの不思議を現実としてしまうのだろう。

 なんといっても、世界最高の魔法使いなのだから。

 不可能状況に陥っていたが、マクシムはそこまで困っていなかった。


「でも、何か方法があるんだよね」


 マクシムがそう言ったのはルチアの言葉を覚えていた。この旅が始まった時に請け負ってくれたからだ。


「『獣姫』に会えれば、『大魔法つかい』にも会えるんだよね。いくつか条件があるみたいに言っていたけど、もう揃っているのかな」

「はいです。条件は揃ったのです。問題点はなくはないのですが、現状ならクリアできるのです」

「なるほど。その条件ってさすがにもう教えてもらえるよね」

「まずはギンです。ギンを仲間にすることが条件でした」

「……それはギンがいないとここまで辿り着かないって意味じゃないよね。ギンがいないと『獣姫』に会えないってこと? どうして?」

「ギンの存在そのものが一つのカギになっているのです。『獣姫』は長すぎる人生にんでいるのです。なので、少しでも興味をひかれるものが必要になるのです」

「ギンは釣りの餌みたいなこと? 『獣姫』の興味をひくのはずっと昔から存在しているからかな」


 話題になっているギンはどこか落ち着かない様子で湖を見ている。

 大きな体を小さくした、いつでも動けるような力を溜める体勢だ。


「それもあるのですが、ギンと『獣姫』にはちょっとした縁があるようなのです。具体的にどういうものかは分かりませんが、敵対的な関係に近いこともあったようなのです」

「それ、いきなり戦闘になることもあるんじゃない?」

「そこまで敵対していたわけでもないはずなのです。人類種である『獣姫』と人類種が生み出したギンが争ったとは思えないからです」


 マクシムはふと思った。違和感というか、ひっかかった。


「でも、人間同士でも喧嘩とか争いはあるよね? そう考えると別に不思議でもない気がするけど」


 ルチアは「むぅ」と唸った。少しだけ困った顔。


「その可能性は低いと思いたいのです」

「願望過ぎない? もしかして、それも問題なの?」

「いえ、問題点ではなかったのですが、問題点が増えたのです」

「それは大丈夫なのかな。なんか結構大きな見落としな気がするんだけど」

「『獣姫』は敵対したかどうかなんて大した問題ではないのです」

「……強いから?」

「ですです。彼女は最強なのです。ちっちゃいことなんて気にしないはず、だと、はい、です」

「声がちっちゃい。願望が過ぎるけど、仕方ないんだね……」


 考えてみると、この世界には最強なんて呼ばれる存在がたくさんいる。

 『武道家』や竜種と『竜騎士』、『案山子』、『大魔法つかい』、それぞれがそれぞれの在り方として最強なのだろう。特警隊『士』や戦闘機械生命体のギンだってその枠組みに入れても良いのかもしれない。

 ただ、どうやらその枠組みを超えて、真に最強と呼ばれる者がいるとしたら、『獣姫』こそなのだろう。


「最強かぁ。最強……でも、だから何って気もするよね」

「マクシムさんが考えているのは分かるです。強いだけでは意味がないという意見は一理あるのです。何故なら、強くたって問題が解決するわけでもないのです」

「そこまで明確に考えているわけではないけどね。強ければ、いろいろ解決する問題だってあるだろうし。でも、僕が抱えている問題って腕力で解決しないからね」


 マクシムはため息を吐く。

 アダムの件だって、ニルデの件だって、まぁ、他にもいろいろあるけど、腕力でどうこうできない件が多すぎた。


「ギンがいるだけで『獣姫』はこちらに興味を持つのかな。いや、『幻想境』ってこちらにあって、ないみたいな状態なんだよね? 気づくのかな?」

「『獣姫』なら可能です。彼女はもっと違う次元をまたいだ存在らしいのです」

「次元をまたぐ?」

「異世界とつながった、とかなんとかです。理屈は分かりませんが、そういう存在らしいのです」


 ふとマクシムは思う。以前から思っていたが、この機会に聞いておこう、と。


「ルチアちゃんの知識ってどうやって得ているの? 『予言者』の力ってそんなことも可能なの」

「はいです。完璧でも完全でもありませんが、目的遂行をちょっとだけ助けてくれる能力なのです」

「ちょっとじゃないと思うけどね。何でも知っているみたいだよ」


 そもそも、マクシムはルチアのことをほとんど何も分かっていない。

 踏み込むことができなかったのだ。

 自分のことが好きなことは理解しているし、妹たちの親友としての側面も知っている。

 だが、『士』の特務大佐としての側面、つまり、『予言者の後継』としての側面については踏み込むことができなかった。


 マクシムはここまで来ても躊躇していた。

 いや、ここまで来てしまったからこそためらった。


 それはルチアのことが大切だからだ。ナタリアに対する意味とは違うが、やはり大切なのだ。付き合いは長く、情もある。大切だからこそできなかった。

 彼女がここまで来てくれたからこそそれはより困難になっていた。もっと初期なら別だが、聞くことで何かが壊れるとしたら、こんな暗黒大陸の奥地ではためらってしまう。

 下手したらお互い死にかねなかった。


「本当に何でも知っていれば、もう少し楽に会えるのです」

「困難でも『大魔法つかい』に会えるなら構わないよ」

「もうほぼ確実なのです。可能性は目の前です」

「じゃあ、ギン以外の条件も教えてくれる?」

「説明しなくてもマクシムさんならすぐに分かるのです」

「僕、そんなに敏くないんだけど」

「そんなことはないのです。マクシムさんは最高なのです」


 手放しで褒められてもからかわれているとしか思えない。


「それよりも、そろそろ現れるかもしれないのです。周囲を警戒して欲しいのです」

「警戒して意味があるとも思えないけどね」


 『獣姫』が本当に超越的だとしたら、マクシムが警戒しても通用しそうにない。

 実際、この湖の周りには不自然なほど何もなかった。なので、周囲を見渡していれば見過ごすことはあり得ない。

 湖に面したところは崖のようになっているが、その周囲には草木がもっとあってもおかしくなさそうなのに何もない。

 まるで湖の周りを避けているように、あらゆる動植物の姿がない。


 旅していく中でも、暗黒大陸ではさまざまな生き物と遭遇してきた。

 大きな生き物ばかりではなく、小さな生き物も多かった。

 こちらの世界では見ない生き物だが、全体的に外骨格的というか甲虫のような硬い殻をまとっている種が多かった。

 ここには何も見当たらない。


「風が強いね」とマクシムは一人呟く。


 それを最後に、しばらく会話が途切れる。

 風の通る音に混じって、何か金属が擦れるような音。

 シャラシャラと一定間隔の音――歩いているようだ。

 もしかしたら、暗黒大陸の生き物が近くにいるのかもしれない。

 硬いゴツゴツした外見のせいか、こういう音を立てる生き物もいたような気がする。


「マクシムさん」

「ん」

「神様のお話、覚えているです?」

「うん、いたけど、もういないとかそういう話だっけ」

「はいです。神様はもういないけど、大昔には確かに存在していたのです」

「神様がいれば、僕は苦しんでないんだよね」


()()()()()です」


「え?」


 マクシムはルチアの言葉に遅れて反応した。

 そこで気がつく。

 ギンが先ほどまでいたところにいない。

 いや、いた。

 最初いないように見えたのは――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。


「え」


 マクシムは目を疑った。

 ギンはかなりの戦闘能力がある。それは暗黒大陸での旅路で何度も助けられたからよく知っている。

 それなのに、まるで苦しんでいるような体勢で埋まっていた。それは目を疑うしかない光景だった。

 そこで更にマクシムは理解する。


 埋まったギンの隣に一人の女性が立っていた。ギンに軽く手を添えている。


 ()()だ。

 ()()()()()()のだ。


 彼女は背が高い。今まで見た人間で一番背が高い。二メルを軽く超え、もしかしたら、三メル近いかもしれない長身。

 そして、褐色のあまり見たことがない肌をしていた。

 彫りの深い顔立ちは美人の範疇にあるのだろうが、やはりあまり見慣れない人間種である。

 布を多く巻き付けたようなヒラヒラとした変わった服装をしている。


 そして、彼女の手首には鎖のついた錠が撒かれている。

 その鎖は中空に浮いている。

 繋がった先が虚空に消えていた。

 この世ではないどこかにつながっていた。


 異世界につながるという言葉の意味を直感的に理解する。

 先ほどのシャラシャラという音はこの鎖が接触する音だったのだろう。

 だが、ギンと争う音どころか、ギンが埋まる音さえもなかった。

 それは驚愕すべき事実だった。

 彼女は言う。


「ぬぅ、わしは少し撫でただけなのじゃ。どうしてじゃ」


 彼女は首を傾げているが、そこに悪意などは見えない。

 純粋に不思議がっているようだが、逆に、それが恐ろしかった。

 そして、彼女はこちらを見た。

 小さな声で呟く。


「で、お主らは誰じゃ?」


 マクシムは言葉が返せなかった。

 生き物の格の違いに、気圧されてしまったからだ。口中の唾液を飲み込み、ただ思考が空転する。


   +++


 『獣姫』アイーシャ・サレハ。

 マクシムは人類種の頂点と出会った。

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