七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか？

世界を愛し、世界に愛された者『大魔法つかい』

七十五年前 勇者は

　それは遠い昔、暗黒大陸であった会話。

「あははは、『料理人《あんた》』が『賊党《あたい》』の仲間になってくれるなら世界は手中にしたも同然さ！」

「×××××××××××××××××××××」

「分かっているよ。世界を救った後の話さ。あんたと手を取って逃げれば、『案山子《ハセ》』に殺されかねない。いや、『武道家《バジーリオ》』かな？　あいつは案外、あたいらに近い」

「×××××××××××××××××××××」

「へぇ、人間種のあんたが獣人種のあたいに興味を持つとはね。そういう趣味なのかい？」

「×××××××××××××××××××××」

「まぁ、あたいらは人類種ではあるけど、変わってるね。博愛主義かい？　これだけ過酷な旅を続けているのに」

「×××××××××××××××××××××」

「ふーん。あたいとしてはあんたに興味があるからね。仲間になってくれるなら一夜を共にするくらい喜んでオーケーさ」

「×××××××××××××××××××××」

「照れるなよ。いや。違うな。あたいも嫌じゃないんだから少しは喜べよ。それに、その欲望は誰だってあるものさ」

「×××××××××××××××××××××」

　また、ある別の時にあった会話。

「この遺跡は、おかしい。あんたもそう思うだろう？　『予言者《サルド》』」

「『賊党《フランチェスカ》』……死ぬつもりだね」

「あんたは話が早いね。で、あたいをどうするつもりだい？」

「別に。こちらに干渉しなければ、何もしない」

「……あんたの言い様だとあたいは失敗するみたいだね」

「でも、フランチェスカはやるつもりだろ。いや、やるしかないと思っている」

「ああ。失敗するとは分かっていても、万が一を考えてしまうからね」

「ふむ。では、我の予言を。ほとんど失敗するが、万が一よりは多少マシな可能性で成功する」

「可能性はあるが、見過ごせる程度ってことか」

「ああ」

「あたいはやるよ。こ(・)の(・)遺(・)跡(・)の(・)兵(・)器(・)を(・)蘇(・)ら(・)せ(・)る(・)」

「成功すれば、人間種の世界は終わりだ」

「……本当に、あたいの成功率はほとんどないんだね」

「ああ。だがね、『賊党』。成功するか、失敗するかは君の判断材料じゃないはずだ。やるしかない。それが君の行動原理だ」

「あたいは『予言者《あんた》』が大嫌いだよ。その分かったような態度が腹立たしい」

「申し訳ないね」

「悪いと思っていないのに謝るなよ。余計に腹が立つし、こちらの苛立ちを受け止めようと理解する姿勢は――気持ち悪い」

「ふむ。それが我だ」

「分かっている。それがあんただ」

「ああ、そうだ。『料理人《アダム》』には保存食を用意しておいてもらった。それを受け取ってから別れよう」

「餞別《せんべつ》か。ありがたいが、正直、あいつはさらっていきたいくらいだ」

「そうされると君の成功率は極端に上がり、同時にそれは叶わない」

「？　意味が分からない」

「『料理人』がいれば、暗黒大陸でも食料には困らなくなる。活動時間が極端に増えるから君の成功率は上がる。だが、彼を連れ去ろうとした瞬間に、我が命じて『案山子』に君を殺させる」

「なるほどね。怖い怖い」

「フランチェスカ。無駄だとは思うが、『賊党《君》』が英雄になる世界もあるんだよ」

「その場合、あんたの予言じゃ、誰(・)が(・)脱(・)落(・)す(・)る(・)ん(・)だ(・)い(・)？　英(・)雄(・)は(・)七(・)人(・)だ(・)ろ(・)？」

「『案山子』だよ」

「なるほど。あいつもあたいも獣人種だ。仲間だからやはり諦めるしかないね」

「獣人種と人間種。そんなにこだわる必要がなるのかね」

「それはあたいにとっては暴言だよ」

「そうだね。すまない。これは本心だよ」

「さっきの謝罪はやっぱり口だけだったんだね。ははは、あんたらしい」

　それはまた別の場所での、ある独り言。

「あたいは、ここで死ぬのか……。

　失敗することは分かっていた。いや、分かった気になっていた。それでも挑戦してやろうと決意したのに、後悔している……。

　だけど、本当に失敗することがこんなに辛いなんてな……。

　ただ、人間種に対して切り札を得たかっただけなのに……。

　獣人種が虐げられている現状を変えたかっただけなのに……。

　人間種の方がずっと多いんだ。

　別にちょっとくらい虐殺したって、それが平等ってものじゃないか！

　いや、そんなことを言っても仕方ないか。

　あたいは失敗した。

　もうどうしようもない。

　冷静に考えると、あたいら勇者なんて呼ばれている人間のほとんどは自分が死ぬとは思っていなかったのか。

　強いから。

　だから、自分が犠牲になるとは本心では分かっていなかった。

　英雄になれるのは七人しかいないって分かっていたのにね。

　でも、誰が英雄になるんだろうね？

　『大魔法つかい(クラーラ)』と『士《クレート》』は間違いないね。あとは誰だ？　『超人《ルイジ》』と『案山子《ハセ》』、『成功者《カルミネ》』も堅そうだ。いや、『竜騎士《アメデオ》』も生き残るか。

　あれ？

　そういえば、『予言者《サルド》』と『料理人《アダム》』はカウントされるのかい？

　いや、アダムはカウントされるに決まっていたか。

　あの対面式の時に六人って言って、その後に七人って訂正したんだから。

　まぁ、どうでも良いか。

　あたいはその一員じゃないことは分かっていたが、それでも、こんな時に想い出にふけるとはね……。

　それにしても、この遺跡は何だい？　あの古代兵器のあった遺跡とは違うみたいだが……。

　あれ。

　これは……種だね。

　見たことがないけど、どうしてこんな厳重に封がされて――。

　あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！」