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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
世界を愛し、世界に愛された者『大魔法つかい』
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最終兵器

「計算通り……? どういうことなのです?」

『まだ実感はないだろうが、可能性を選択することは恐ろしいことだ』

「それは誤った選択肢を選ぶからです」

『我らは、いや、ルチア・ゾフは人よりも正しい選択できるだろう。だが、それだけだ』

「どういう意味なのです?」


『それしか選べない。選ぶしかない。つまり、()()()()()()()()()()可能性を君は軽視している。我々は存在しない可能性は選べないのだよ』


「っ、そんなことはないのです」

『ナタリア・サバトが『竜姫』になる最も高い可能性はサバト家の全滅だ。これに間違いはないな?』

「……それはそうなのです」


『我もナタリア・サバトが竜への騎乗に失敗するルートでの『竜姫』覚醒の可能性は見えていた――だが、それでは不足だね』

「……確かに真なる『竜姫』に比すと弱いかもしれないです」

『それには愛する人を守りたいという気持ちも必要だ。最適なのはマクシム・マルタンだね。ところで、君は大好きなマクシムを差し出せるかね?』

「そこまでしなくとも、ナタリアさんは『竜姫』として活躍できるのです」

『先ほどの言葉をそのまま返そう。真なる『竜姫』としては弱い。違うかね?』

「……それは、そう、です」


『君はなるべく上手く立ち回るための選択肢しか取れないだろう。我にもその未来は見えていたよ』

「…………」

『言い返せないかね。君は優しい、普通の女の子だ。それでは世界は救えない』


「そんなことはないのです。ルチアは世界を救ってみせるのです!」

『無理だね』


「お前程度と一緒にするなです! サルド・アレッシは有能な勇者を揃えていたのに、ほとんどを使い潰してしまったのです!」

『そうだな。我は低能力者だ』

「ルチアの方が上位の能力者なのです! そんなお前がどうしてルチアに説教をするのです!」

『実績だ。確かに我はそれほど大した予知能力者ではないが、それでも『魔王』を伐採できた。理由は分かるかね?』

「それは、何故なのです?」


『何故ならば、我は目的達成のために悪人になれるからだよ』


「悪人、です……?」

『君は我よりもずっと上位の能力者ではあるが、このままでは目的未達成になるだろう』

「そんなことはないの、です……」

『ルチア・ゾフは残酷な選択肢を排除する。それではダメだ。だから、お手本として手の汚し方を見せたわけだよ。いや、ある意味では既に共犯だね。おめでとう。君も悪人としての一歩を踏み出したわけだよ』

「勝手にやったのはお前なのです!」

『確定させたのは君だよ』

「…………」

『君の手は汚れてしまった。だから、告げる。手を汚すことをためらうな。悪人になれ。目的のために手段を選ぶな』

「…………」


『ははは、どうやら未来は変わったようだね。君に覚悟が生まれたようだよ。やはり上手くいっている』

「サルド・アレッシ」

『ん?』

「ルチアはお前のことが大嫌いなのです!」

『はっはっは、光栄だね』


   +++


 その時にネコが発した音声をマクシムは理解できなかった。

 ただ、毛が逆立つような感覚に襲われた。

 それは本能が感じた恐怖。

 マクシムは身の危険を感じていた。

 ジリと一歩後ろに下がりたくなる気持ちを押し殺せたのは、ルチアの存在があったからだ。

 彼女が動かないということは、それが必要だということ。

 ただ、理性的な判断と感情的な感覚が相反している状況はどうしようもなかった。


「これ、まずくない?」

「…………」


 そのマクシムの呟きをルチアは無視した。

 正確には、ルチアは無視しようと思って無視したわけではなく、ギンという名のネコに集中していて聞き逃していた。

 ルチアは一歩足を踏み出そうとする。

 が、マクシムはとっさにそれを妨げようと前に出る。

 ルチアはやんわりと言う。


「まだ、大丈夫なのです」

「まだって何さ」

「今、この子はルチアたちを観察しているのです。認識されていない個体は敵だと判別するシステムなのです」

「やっぱり、危険じゃないか」

「敵だとしても即座に攻撃するほど、乱暴でも低能でもないということなのです」


 ルチアの言葉を裏づけるように、ネコは起動したようだが、待機状態なのか動かずに光っている。

 ピカピカと何か機械が動いているが、どういう状態なのかマクシムには分からない。


 ルチアはネコを観ながら微笑んでいる。

 ただ、よく見ると彼女は熱に浮かされたように汗をかいていた。

 珍しいことだった。

 沈着冷静というか、いつも余裕があるのがルチア・ゾフという少女だからだ。


「このネコ、どうすれば僕らを味方って認識できるの?」

「人類種に対しては基本的に好意的なはずなのです」

「でも、敵だと認識するんだよね?」

「それは仕方ないのです。人類種同士の争いでもネコさんは投入されたようなのです」


 人類種同士でも戦争していたのだろうか?

 おそらくは七百万年という大昔だから、マクシムはあまりピンとこなかった。

 現代では人類種同士が戦争なんて想像できないし、ありえないことだ。

 暗黒大陸からの侵略という脅威が、人類種を団結させたのだ。

 ただ、それよりも気になることがあった。


「えっと、それはつまり、無条件に仲間にできるわけじゃないのかな」

「…………です」とルチアは笑顔で視線を逸らす。

「前半が聞き取れなかった……」とマクシムはネコから目が離せない。

 ルチアは意を決したように語り掛ける。


「ネコさん、ネコさん、聞いて欲しいのです」


 ネコは静かに光を発しながら佇んでいる。


「ネコさんにお願いしたいことがあるのです。ルチアたちに力を貸して欲しいのです。困っているのです。『大魔法つかい』、クラーラ・マウロさんに会いたいのですが、移動手段がないので手伝って欲しいのです」


 ネコは静かに光を発しながら佇んでいる。

 変化は見られない。

 マクシムにはルチアの説得が意味を成しているようには見えなかった。

 というか、それは説得というほどのことではなく、事情を説明しているだけ。

 それでは通用するわけがない。

 ルチアは首を横に振る。


「いえ、ネコさんじゃないのです」


 ルチアはゆっくりと言う。


()()()()()()()()()()()()()

『――――――――――にゃあ――――――――――』


 ネコが発する光が強くなり、何か鳴き声を発した。

 にゃあ、とマクシムには聞こえた。

 不思議だったのは、聞いたことのない言語とは明らかに違う声色であること。

 もしかしたら、それは伝説の獣である猫の鳴き声だったのかもしれない。

 ネコの発する光がにわかに強くなった。


「マクシムさん」

「うん」

「ネコさんはとても強いのです。竜も狩りかねないほどの戦闘能力があるのです」

「うん」

「でも、それと同じくらい怖いのは、自爆装置があるのです。最終兵器です」

「自爆装置って、敵を道連れにするとかそんな感じのやつ?」

「はいです」

「もしかして、そのスイッチが入ったとか?」


 ルチアは――困ったように笑った。

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