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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
世界を愛し、世界に愛された者『大魔法つかい』
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植物と動物

 マーラ・モンタルド大尉に言われた一言は、結構マクシムに響いた。

 ――自分で決断しないと後悔する。

 それは彼自身、現状うすうす感じていたことだったからだ。


 判断をルチアに任せている。

 そして、それに安心している。


 もちろん、マクシムに意見がないわけではないし、要求しないわけでもない。

 だが、ルチアに従う方が良い結果になるという実感があった。

 しかも、実感だけでなく、事実としてあるのだった。


 これは難しい問題だった。

 自分で決断しないと後悔するかもしれない。

 それは正論というか、当たり前の意見だ。

 だが、自分で選んだ結果、悲惨なことが起きたらもっと後悔するだろう。

 ニルデの時に、軽率な行動がどういう結果につながったかマクシムは知っている。

 ルチアの能力が『予言者』に同等レベルにあるとしたら、それは世界を救うほどのもののはずで、そうなると、ある程度任せるのは合理的なはずだ。

 そして、その合理性に言い訳が混じっている自覚もあった。

 良い結果のために、任せきりの現状はもしかしたら危険かもしれない。


 ただ、マクシムは方針を揺るがせていない。

 『大魔法つかい』を見つけることでニルデを救い、アダム・ザッカーバードの死の理由を知る。

 そこが揺るいでいないのは確かなのだ。

 それだけが『自分はまだ大丈夫』という根拠だった。


   +++


 マクシムは猫探しに出る前に、ヴァル・ヴァレンチノから話を聞くことにした。

 あの急に現れた襲撃者たち、民間で暗黒大陸へ派遣されてきた会社の現地指揮官である。

 なお、ルチアのいないタイミングを見計らった。

 別に彼女がいても問題はないのだが、マーラ大尉の言葉が少しだけ心になかったとは言えない。

 自分で判断し、考え、行動しているという実感が欲しくてだった。

 しかし、あるいはそれすらもルチアの手のひらの上なのかもしれなかった。


 ヴァルは、いや、ヴァルたちは簡単な拘束をされていたが、完全に自由を奪われたわけではなかった。

 武器はもちろん所持していないが、それ以外に私物は返却している。

 見張りも立っているが、割と気軽に談笑する姿も見かけられた。


 そもそも、理性を取り戻した彼らは敵ではない。

 『士』の船に乗らなければ、内地へ戻ることもできないのだから、反逆する理由がなかった。

 ヴァルは一応トップなので個室を与えられていた。


「ちょっと話を聞かせてもらえる?」

「……少佐さんか。構わないよ」


 ヴァルは親しみがあるわけではないが、敵意を見せることなくすんなりと頷いた。

 マクシムは近くにあった椅子に座りながら質問をする。


「ヴァルさんたちはさ、暗黒大陸を探索していたんだよね? どれくらいの期間? どうだった?」

「もう既にに話しているが、確認していないのか?」

「一応直接聞きたくて」

「ま、そうか。今の日付を考えると、七カ月くらいは暗黒大陸にいたようだが、俺は全然覚えていない。いや、俺たちは誰も覚えていないし、荷物もどこかへ行ったから今この場じゃ証明しようがない」


 そう、マクシムは知っていた。

 彼らからはほとんど情報は得られないということを。

 おそらくは『大魔法つかい』の魔法によるものだろう。

 神代文明だかに触れてしまったことは禁忌だったため、記憶や荷物を全て奪われてしまったのだ。

 その結果、マクシムたちは何の情報も得られない。

 『大魔法つかい』の思惑通りに。

 だが、それでも確認しようと思ったことがあった。

 意外と『大魔法つかい』でも気づいていないことに気づけるかもしれないからだ。


「でもさ、覚えていなくても分かることはあるんじゃないかなって」

「? どういう意味だ?」

「ちょっと手荷物を見せてよ」

「構わないが、それで分かることを教えてくれ」

「うん、良いよ」


 ヴァルたちはほとんど荷物を持っていない。

 だが、それでも七カ月近くも暗黒大陸いたとしたら、少しくらいはあるはずだ、と思った。

 マクシムはまず靴の裏側を探した。

 土がついているが、ここらのやや硬いガラス質の土とよく似ていた。

 暗黒大陸の土質はどこも似ているのかもしれない。

 あまり農業には向いていないため、やはり人間種が移住するにはなかなかの障壁がありそうだ。

 そして。

 荷物そのものには興味がないが、()()()()()()()()と感じたものを見つけた。


「あった……」

「それは、種か?」

「うん、多分ね」


 それは植物の種に見えた。

 衣服にひっつきやすい形をしていたため、ひっかかったのだろう。

 暗黒大陸での探索には洗濯なんかもそう簡単にできないだろうから、もしかしたらくっついているかもしれないと思ったのだ。


「ああ、密林に入ることも多いからだろうな」

「覚えてないんじゃなかったっけ」

「いや、今回のことは覚えていないだけで俺は二回目だからな。一回目は一カ月くらい海沿いを探索しただけで終わったけどな」


 本格的な探索の前のプレ探索というやつをしたのだろう。

 言われてみれば、いきなり長期間の暗黒大陸探索なんてそうそうできるわけがないか。


「じゃあさ、その時に調べた場所と比べてこの辺りってどう?」

「かなり温暖かつ過ごしやすいな。海沿いだったが、もっと暑かったし、湿気もあったし、天候も無茶苦茶だった」

「結構ここから距離はあったのかな」

「そうかもしれないし、そうじゃないのかもしれない」

「分からないんだ」

「情報がないんだ。暗黒大陸の距離感はよく分からないんだよ」

「なるほど」


 それよりもマクシムには分かったことが一つあった。

 それは植物の種に見えた。


「これ、やっぱり、植物の種に見えるよね」

「そうだろうさ」

「でもね、違うんだよ」


 植物に見えるだけの別物だ

 ヴァルは首を傾げた。

 彼はマクシムの能力を知らないのだから当然の反応だろう。

 

「何が違うんだ?」

「これは植物に見えるけど、絶対に植物じゃない。僕は詳しいから分かるんだ」

「植物じゃないなら、ああ、種に見えるけど、ただの石とかなのか」

「いや、多分、生き物ではあるんじゃないかな」

「じゃあ、何なんだよ」


 マクシムの能力は植物のさまざまな操作だ。

 だが、暗黒大陸の植物はマクシムでは操作できなかった。基地から近い植物に見えるものも無理だった。

 もしかしたら、少し離れた場所の植物なら可能かもしれないと思い、ヴァルを訪ねたが、無理だった。


 つまり、マクシムはあれを植物だと認識できない。

 だが、生き物であることは間違いない。

 なら、答えは一つ。


「これは()()()()

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