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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
世界を愛し、世界に愛された者『大魔法つかい』
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 その昔、猫という生き物がいたらしい。

 ふにゃふにゃしていて、ニャーニャー鳴く生き物で、あまりの可愛らしさから万人をとりこにしたという伝説の愛玩動物。

 しかし、もうこの世界には存在していない。

 絶滅してしまったからだ。

 ルチアはその猫を探すのだ、と言った。

 マクシムは首を傾げながら呟く。


「猫……?」

「はい、猫です」

「そういえば、ルチアちゃん、猫のぬいぐるみ持ってなかった?」

「はいです。覚えていたです?」とルチアは嬉しそうに顔をほころばせる。

「うん、大事にしていたよね」

「それは……はいです」


 何故かルチアは苦しそうだった。


「あ、もしかして、もう無くしちゃったのかな」

「いえ、そうではないのです。今も持って来ているです」

「こんな遠くまで持ってきているの? 本当に気に入っているんだね」

「………………はいです」


 何故かルチアは苦しそうだった。

 マクシムには知る由もなかったが、ルチアと『予言者』サルド・アレッシをつなぐカギの役割を果たすぬいぐるみであった。

 元々お気に入りだったがゆえに、取り憑いたサルドはほとんど呪いみたいなものだった。

 マクシムはルチアの反応に首を傾げる。


「? よく分からないんだけど、その猫はこの暗黒大陸にいるんだよね」

「はいです。ルチアたちの世界では滅んでしまった猫も、暗黒大陸にはその因子を残しているのです」

「因子?」

「あ、間違えたです。因子はルチアたちの世界にも残っているのです。より色濃く残しているのが、こちらの世界の猫なのです」

「そもそも、因子って何? いや、僕らの知る猫の因子の持ち主も何なのさ」


 ルチアは「とりあえず、準備しながら話しましょうです」と部屋の扉を指しながら言う。

 出ようという意味だろう。


「時間は貴重なのです」

「『大魔法つかい』を探すための準備か。そっか。すごく入念な準備が必要だよね」

「それもですが、この基地に残す食料も用意して欲しいのです」

「あーなるほど」


 確かにマクシムたちは『大魔法つかい』を探すためにこの基地にはいられないが、それでも派遣任務に貢献できないわけではない。

 マクシムが準備を始めるとルチアは先ほどの会話の続きを始める。


「マクシムさんはどうして今の時代にも滅んだ猫の姿形や特徴が伝わっていると思うです?」

「それは、文献が残っていたとか? あとは骨格標本みたいな物証かも」

「前者です。猫はとても可愛らしい生き物だったのですが、こちらの世界では生きていくことができませんでした」

「こちらの世界?」

「はいです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです」

「え?」


 何か、とてつもない話を聞かされている気がした。少なくとも、こんな雑談の中で聞かされるような内容ではないはずだ。

 マクシムは準備の手を止めて、ルチアをまじまじと見た。

 冗談かとも思ったが、ルチアは冗談を言っている顔ではなかった。

 優しい笑顔の、普段通り可愛らしい彼女だった。


「意外です?」

「いや、何を言っているのかよく分からないんだよね」

「そうです? まぁ、大昔のお話なのです。ルチアたちには直接責任もない話です」

「どのくらい昔の話なの?」

「七百万年ほど昔の話です」

「そんなに大昔?」


 いや、そんなことよりもマクシムは気になったことがあった。


「どうしてルチアちゃんはそんなことを知っているのさ? それって僕が知らないだけで一般常識だったりするの?」

「そんなことないのです。知っている人間は多くないのです」

「多くないってどれくらい?」

「現在生きている人間種なら、テッラ家と『大魔法つかい』。それに『獣姫』くらいだと思うのです」

「テッラ家って王家だっけ?」


 あまり知らないが、さすがのマクシムも王族の名前くらいは憶えていた。


「そんな秘密、ルチアちゃんはどうやって知ったのさ」

「もう亡くなりましたが、大昔のことを調べていた人から聞いたのです」

「それって僕も知っている人?」

「知らない人です。学者さまなのです」

「学者さま。あー、なるほど、その人が調べた論文みたいなものを『予言者』の力で手に入れたんだね」

「そんな感じなのです」


 さすがはマクシムさん、とルチアは拍手をする。

 マクシムが気づかなかったのは、ルチアの失言。大昔のことを調べていた人から『聞いた』という部分だ。

 これは『予言者』から直接聞いたがために漏れてしまった失言であった。

 そもそも、マクシムは情報過多に陥っていたため、情報を処理できていなかった。

 とりあえず、猫を捕まえれば『大魔法つかい』に近づけるとしか思っていた。


「猫はこちらの世界で生きていけなくて絶滅しましたが、大昔にその因子を残そうと頑張った人がいました。その子孫がこの暗黒大陸にもいるのです」


 それが猫です、とルチアは言う。

 どうやら、大昔に生きた猫そのものではないようだった。

 マクシムはそこで一つ思い出した。


「そうだ。僕らの世界にもいるって何のこと? ちょっと思いつく生き物がいないんだけど……」

「はいです。そちらは一大勢力になっているのです」

「一大勢力?」


()()()()()


「え?」

「獣人種は人間種の中から、猫の因子を残したいと考え、自分自身に移植した者たちの子孫になるのです」


 なかなかショッキングな話を聞かされ、マクシムは絶句した。

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