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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
世界を愛し、世界に愛された者『大魔法つかい』
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襲撃ではない襲撃

 ルチアは「敵が来る」と言った。

 マクシムは一瞬、何を言われているか分からなかった。言葉が浸透した後、一瞬だけ焦る。

 が、敵襲を予言したルチアに切迫した様子が見えなかったので、すぐ冷静になった。

 あるいは、大した敵ではないのかもしれない。

 マクシムは周囲の耳と目を気にして、ルチアの耳元で声を落として質問する。


「敵襲って大したことないの?」

「耳、くすぐったいのです」


 ルチアはわずかに顔を赤くしているが、同時に何故かウットリもしていた。


「おーい」

「はっ、な、何でもないのです。そうですね、大したことあるのです」

「ないの、あるの、どっちなのさ」


 ルチアは耳を自分で揉みながら、ふぅと深呼吸をする。多少落ち着いたようだが、それでもまだ少し顔は赤かった。

 彼女はマクシムの手を引いて少し他の人間から距離を取った。

 何故か誰も気にしていないようだった。

 ルチアは言う。


「厄介な敵ですが、ルチアたちの力は必要ないのです」

「つまり、他の隊員が処理するってことなの?」

「そうなのです。それでうまくいくのです」

「いや、厄介な敵だったら、奇襲されたら危険でしょ。どうしてコソコソ話しているのさ」

 

 ルチアは首を振る。

 マクシムの言葉は分かっているとばかりに憂いのある表情で続ける。


「ごめんなさいです。もっと正確に伝えるです。ルチアが指示を出した場合、相手に一切の反撃をさせず、殲滅することが可能なのです。マクシムさんの力も合わせれば、出現前に殺戮することも不可能ではないのです」

「それは良いことじゃないのさ」

「良いことじゃないのです。良くない理由はいくつかあるのですが……まず、初心を思い出してくださいです」

「初心って」

「マクシムさんの目的は何です?」

「それは、『大魔法つかい』に会って、アダムの殺された理由を知ること。ニルデを魔法で治療してもらうこと。の二つだね」

「ここで力を使うと、その道から遠ざかるのです。それはマクシムさんの本意ではないはずです」

「それは、そうだね……」

「好転するのならルチアも指示するです。そうでない状況だと考えてです。ルチアを信じて欲しいのです」

「了解。ルチアちゃんの方が正しいことを言っていると思うよ」


 マクシムはルチアがホッと力を抜くのを見て、それなりに緊張していることを知った。

 そう、少しだけ見落としていたことがあったのだ。

 まだルチアは幼い女の子だ。

 この暗黒大陸という状況で、厄介な敵による襲撃があるのに指示を出さない。

 それはかなり勇気のいる決断だったはずなのだ。

 それでも確認しなければならないことがあった。


「それで、こちら側に被害は出ないんだよね?」

「死人は出ないです」

「ケガ人は出るって意味かな」

「大きなケガをする人は一人もいないです」

「小さなケガをする人はいるんだね」

「それでも悪い可能性ではないのです」


 ルチアの言葉を信じると言ったのだから、否応のやり取りをする気はない。

 それでもひとつ引っ掛かることがあった。


「ねぇ、ルチアちゃん。一つ質問しても良いかな?」

「はいです」

「多分、質問内容に予想はできていると思うんだけどさ」

「はいです」

()()な敵ってどんなの?」


 たとえば、『魔王の眷属』であれば、厄介という表現はしない気がした。

 強いとか恐ろしいとかいう冠を被せたのではないだろうか。

 もちろん、マクシムに何か確信があったわけではない。

 ただ、厄介という言い方に含みを感じたのだ。

 ルチアは少しだけ笑う。


「やっぱり、マクシムさんは鋭いのです」

「そうかな?」

「拍手を送るのです」

「とりあえず、ごまかそうとしているんだね」

「はいです……そこで鋭さは発揮して欲しくなったです」


 バレました、とルチアは可愛らしく苦笑する。

 いや、それはバレるだろとマクシムは思ったが、意味が違うことに一瞬遅れて気づいた。


「あ」


 バレたのはマクシムたちの内緒話のこと。

 マクシムたちは他の人からは少し離れたところで会話をしていた。

 最初誰にも気づかれていなかったはずだが、いつの間にか視線が集まっていた。

 怪訝そうというか、何をしているのかと伺っている視線である。

 マクシムとルチアがコソコソと会話をしていたことが他の隊員たちにバレていた。

 派遣部隊を代表して、パオロ中佐が問う。


「ルチア特務大佐。どうかしましたか? そんなところでマクシム少佐と何の会話を?」

「もちろん、内緒話なのです。気にせずに中佐はアリアナ中尉とイチャイチャして欲しいのです」

「こんなところでイチャイチャなんてしませんが……」

「むしろ、イチャイチャすべきだと思うのです!」

「何故そこで怒るのですか?」


 これもごまかしなんだろうなぁ、とマクシムは思った。

 それよりも重要なことは、空気の変化。

 その場に集まった人間たちの空気が弛緩したものになっていた。

 それはルチアが計算したものだったのだろう。

 おそらくはその次の展開を読んだからだったのだ、と全てが終わった後にマクシムも気づいたくらいだった。

 その時にはまるで何も分からなかった。


 警報音が鳴った!

 その場にいた戦闘職の全員が臨戦態勢に移行する。


 それは急展開だった。

 総員が集まっていたが、当然、見張りの人間はこの場にはいない。

 その見張りが警報のベルを鳴らしたのだ。

 弛緩した空気だった分、反動があった。

 見張りが総員が集まった広場の端を指さしながら叫ぶ。


「後ろ! 後ろです! 広場の南西側に何かが現れます!」


 その見張りの言葉は正しかった。

 今まさに現れようとしている最中であり、最初見えたのは影だった。

 最初、マクシムは多頭の化け物が現れようとしているのだ、と思った。

 多頭、多腕、多足の化け物。

 そういう『魔王の眷属』なのだろう、と。

 しかし、影が晴れるに従い、それは勘違いだと理解する。

 それと同時に、ルチアが厄介な敵という扱いだった意味も分かった。

 そして、ルチアがマクシムにも関わらせたくないという真意も。


 影が晴れたそこには――武装した()()()()()()がいた。

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